【『卒業政策』vol.4 】学校と、おっちゃんおばちゃん、またはあんちゃんねぇちゃん

学校の先生の仕事が大変だと言われています。もはや昨今の学校教員は世論からの批判にさらされる存在になっているような気がします。一方で、校務分掌は増え、部活動にも取り組み、そして会議の連続… ゆっくりと子どもたちに向き合ったり、授業の教材研究に専念する時間はなかなかなさそうです。そこへ来て、東日本大震災でより鮮明になったのが、地域の中での学校の役割の高まりです。住民同士のコミュニティ形成が難しくなっている昨今、学校は最後のよりどころなのかもしれません。そうすると、学校の先生は勉強だけ教えればいい、なんてことが通用しなくなります。

私自身は、自分の研究フィールドとしてのみならず、教職課程の履修を通じて、かなり頻繁に学校現場を訪れるだけでなく、生徒と接する矢面に立つことが多くありました。また、学校の先生方の「熟議」の経験もあり、学校教育現場で何が起きているのかを自分の目で観察したという自負があります。特に、教育実習の経験は大きいものでした。就業インターンと捉えた場合、職場としての学校に対して考えを巡らせたのは、事務量の多さ、職場のチーム性、そして労働時間でした。特に最後について、若手教員は「セブンーイレブン」状態になっている方もいらっしゃるほどです。「日本最大のブラック企業は公立学校だ」などと言うときがありますが、冗談では済まされません。

そんな私だからこそ、学校のなかに、保護者だけでなく地域の住民が入っていき、学校運営を支えていこうとする考え方や、そうした方法を活かした地域コミュニティづくりの大筋には賛成しています。先生方が生徒と向き合い授業で真剣勝負ができる環境を整えるために外部の人間にできることを労力分散することは大切だと思っています。そうした地域との連携が、地域づくりのハブになるということにも期待を寄せています。何より、どうしても閉鎖空間になりやすい教室および学校という「社会」のなかに、外から人材を入れることで、多様性を生むだけでなく、より多くの「目」によって、児童・生徒に関わることができると思います。そしてそのときの地域の人々の立場は、「○○先生」ではなくむしろ、「おっちゃん・おばちゃん」あるいは「あんちゃん・ねぇちゃん」で充分だと思います。

私自身は、「古河市英語サポーター」として、市内の中学校での「放課後英語補習」に4年間従事しました。1年目は、同じ学校に派遣された方に用意してくださったプリントを実施し、2年目は教材を自分でコピーをとったりしました。しかし著作権的にグレーだということになり、3年目で共通教材作成プロジェクトが立ち上がります。その際に作成した「Five Star English Support」は、基礎基本の総復習教材を心がけ、私が中心になりつつ、他のサポーターの方と協働して問題選定などを行いました。そして4年目には、新たに加わったメンバーどうしで「英語サポーターズ・クラブ」が発足します。

この、「放課後英語補習」の「英語サポーター」は、多くが地域住民の「おねえさま」です。主婦として生活をしている方もいれば、個人経営の英語塾をなさっている方もいらっしゃって、それはさまざまです。そうしたサポーターたちが、教育委員会に登録され、指導主事のコントロール下で各学校にマッチング・派遣されていきます。しかし、なかなかうまく行かない部分もあり、学校とサポーターとの関係、その仲介としての教育委員会指導課の処理能力などには、課題が残ります。それでも、事業開始から4年で、自主制作教材やサポーター同士の自主サークルが立ち上がったことだけでも、成果だったと思います。

この事業を行いながら、生徒にとっての意義とは、新しい関係性のなかで何かを発散する機会になる、ということだと感じました。関係性が親密になればなるほどに、生徒はいろいろなことを話してくれます。私もイジられたりイジったりしました。その、先生−生徒という関係ではない関係性があったことに、大きな意義があったと思います。一緒に同じ学校に派遣されたある「おじさま」は、日本語指導サポートもなさっていて、担当する生徒が「先生には内緒ね」という話をしてくると聞きました。また、別の「あんちゃん」(大学生)サポーターは、補習終了後も質問のある生徒にずっと付きっきりでした。そういった関係性の構築は、生徒たちにとっても新鮮だったのでしょう。

だからこそ、温厚そうに話を聞いてくれる「おっちゃんおばちゃん」という地域住民や、近しい年齢どうしの「あんちゃんねえちゃん」という大学生が関わりを持つことは、これからの学校運営においても必要になってくると考えています。そうした人材を、どう活用するか・できるか、その経営能力もまた、教育委員会や学校の管理職には求められるのではないでしょうか。

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