「先生が授業を工夫する時は、本を参考にしているんですか?」
「うーん、思いつきですね」
「あ、私と一緒ですね」
そんな話をつい最近、同じ学校の英語の先生とした。もう遅い時間だったが、お互いに仕事をするでもなくそういう話ができるのが嬉しかったし、むしろ話を聞いてもらえて、アドバイスももらえて、嬉しかった。その先生は私の勤務校がある地域のなかでも中核教員として動いている先生で、単純な年数以上に経験が豊富な方だが、その方をして「授業の規律や生徒指導をちゃんとできるようになりたいんです」という私の問いに「そりゃ経験ですよ」とおっしゃっていたのだが、そんな先生が「思いつき派」だとわかって、なるほど、数ある実践も結局はトライアンドエラーの産物なのだな、と。
ってなわけで、自分の中で「あんまりうまくいかなかった」と思う実践の記録です。思いついた時にアップデートしていく、トライアンドエラーの記録。同じ轍を踏む人がいませんように。そして、生徒のみんな、ほんとにごめん、うまくいかなかったのは先生のせいなので、もっとがんばってみんなが「分かった!おもしろい!」ってなる授業を目指します。
●教科書の本文をなぞらせるためにプリントのフォントを縁取り白抜きにしたらベタ塗りをされた
私はTeach for Japanという団体を通じて教員になった口なのですが、その先輩フェローの学校で教育実習をさせていただいた際に、その先輩フェローの先生が実戦で取り入れられていたのが「教科書なぞりプリント」です。この実践自体はすでに書籍に載っているもので、スローラーナーにとっても、英語をなぞること自体が学習になるという点で、いいアイディアだなぁと思っていました。スキャフォルディング!
でも、学校の輪転機(私はそれを「ガランガラン」と呼んでいる)は、どうしても薄いグレーを再現するのに難しく、ただでさえ芯が細いので薄い色になりがちなシャーペンでの筆記をさせた際に、なぞられているのかどうなのかがわからないだろう、と思っていました。そこで、ワードの機能である、文字に輪郭をつける機能で、なぞらせたい文字に黒の輪郭をつけて、文字色を白にする、ということをやりました。「これなら、印刷機の性能に左右されず、文字をなぞらせることができる!」と意気揚々とプリントを作り、生徒たちに取り組ませました。
そしたら。
使用したUDデジタル教科書欧文体は割と太めのフォントのため、24ptで印刷すると1.5mm幅くらいになります。それが生徒たちの「塗りたい」欲を駆り立てたのか、「なぞれ」と言っても、塗りつぶしはじめる生徒が続出しました。いやいや、塗るんじゃなくてなぞるんだよ、塗るんじゃなくて書くんだよ、と。それでも綺麗に塗り潰そうとする生徒たち。見えにくい可能性のあるなぞりプリントを改善したつもりが、それが裏目にでる結果になりました。
ですが、実際は「もういいや」と思いながら、そのまま輪郭版を使い続けています。相変わらず塗りたい生徒がいるんですが、そういう心持ちなんだなこの子は、と思うことにしています。
●単なるテストの解き直しでなく、「自分の間違い探し」をしてもらったが、「わかりません」を頻発させてしまった
ペーパーテストは、自分の頭の中に入れた知識をどれだけ再現できたかを確認するものだと思っています。そもそもテストは、望ましいゴールに対してどれだけ差分があるかを確認する術であり、そこでの結果は自分に対する烙印ではなく、今の現状を示しただけだから、何ができていて、何が足りないのかを確認すればいいや、くらいで思っていてほしい。しかし現実は、テストのために勉強し、テストの結果で一喜一憂する、手段の目的化が起きているように思います。それに、現在の私だってそうですが、英語を教えておきながら大して英語は得意ではないので、しょっちゅう検索や辞書に頼るわけで、現実のコミュニケーション場面では、自分の頭だけで勝負する機会の方がむしろ稀だと思っています。
テスト一発勝負じゃぁしんどいから、リベンジのチャンスを用意して、「点数は上げられる」ってのをやりたい。いかなる手を使ってでも答えにたどり着いてコミュニケーションを成立させることの大事さを知ってもらいたい。自分自身でエラー部分を見つけて、自分から修正できるような人間になってほしい。そんな思いから取り組んだ実践が、採点がされていない状態の答案をコピーして生徒たちに渡し、自分で自分の答案を見直して、間違っている部分や解答できなかった部分を、教科書やら過去の授業プリントやらから見つけ出して解き直ししてもらう、というのを取り組んでみました。
そしたら。
「先生、どこが間違っているんですか」の嵐。それを自分で見つけて欲しいのですが、「どこが間違っているのかわからない」という生徒の方が大半でした。考えてみればそりゃそうで、自分としては正しいと思って答えているのだから、間違えているということに気づくのは難しいことです。だったら最初から、「どんな手を使ってでもいいから解き直して100点取れ」という方が良かったのかもしれません。
ただ今後も、「チャンスは一度じゃない」「コミュニケーションの目的を達するならどんな手を使ってもいい」「間違ってもいいけれど、間違いを自分で直せるようになったほうがもっといい」というスタンスを体現できる実践を考えていきたいです。
そうそう、このテスト問題については一つ面白い話があって。とある元気闊達な女子生徒が給食時間中に、「せんせー、私最後の問題で、ノーアイドント、バットファンって書こうとして、ファンはaだと思ったんだけど違うなって思ったんですよ。だからバットグッドって書いんたんですよ。ジー・オー・ディーでしょ?!」と聞いてきました(しかも大声で)。その問題というのは、「あなたの立場で次の英文に対して答えなさい: Do you like English?」という問題だったので、「Yes, I do. / No, I don’t.」と答えれば正解なのですが、その生徒は頑張って何かを付け加えようとしていました。「でもな。but fanだったら、『だがしかし扇風機』だし、godだったら『いいえ違います。しかし、神』だよ」と言ったらクラス中大爆笑。その子は「やった、わたし神だ」とはしゃいでいました。
●洋楽から、英語、または空耳を抜き出してほしくてMVと共に音楽を聴いてもらったら、ほとんど書き取れなかった
自分自身が洋楽を入り口に英語への興味関心を広げていったこと、特に中2から中3にかけて、エミネムのLose yourselfをなんとかして完コピで歌おうとしていたところから”vomit”という単語の意味を知ったことが強烈な学習体験にあったため、毎回の授業のはじめに動機付けもかねて洋楽を流しています。1学期はなかなか「帯活動」を作れなかったのですが、夏休み明けに体制を整えて帯活動を入れていきたいと思っており、そのコーナーの一つとして、洋楽を聴いて①聞こえてきた英語を書き出すor②日本語に聞こえる部分を書き出す(秀逸ならば空耳アワーに投稿してもらう)というのをやろうと画策していて、その実験をしてみました。
私は2クラス担当していて、たまたま進度差がついちゃったので、プリントによる補充学習の前に「ちょっとやってみたいんだよね」と実験的に、The BeatlesのHello, Goodbyeと、Justin BieberのWhat do you mean?を題材に、英語を探すか空耳を探すかをさせるワークに取り組んでみました。せっかくだから、とMVを見せてみることにしました。
そしたら。
当たり前なんですが、MVを見る方に集中しちゃって書き取りがほとんど進みませんでした。とある技能に集中させたい場合、それ以外の情報を与えない方がいい、という教訓を得ました。今回の場合、リスニングに該当するので、映像を付け加えるのは適当ではないわけです。次回以降取り組む場合には、音楽だけを流すことにしようと思います。ちなみにですが、音にフォーカスしたいときに映像を流すのは不適当という基本的なことすら抜けていたことに加え、What do you mean?のMVが少々過激すぎたのも反省です。
ただ生徒たちはすごいもので、Hello, Goodbyeからは「あさり」(I say No)や「油性です」「野菜です」(You say Yes)、What do you mean?からは「どゆいみ」(What do yo mean [ちなみに意味を教える前])や「この世界だけの俺」(出典不明)を聞き取っているのですごいものです。それから、空耳とは何かを伝える上でSound Providersの 5 minutes(ちがうちがうちがう、分けれ分けれ、麺分けれ)を聞かせたのですが、中1は一発では聴取らなかったのですが、小4でこれをやったら一発で聞き取れました。
●お天気キャスターの真似をして世界のどこかの国の天気予報とともにその天候のときにすることを当てるジェスチャーゲームをしたらジェスチャーに集中しちゃった
私の学校は小中一貫校なので、小学校の外国語活動への乗り入れ授業を行なっていて、私は小学校4年生1クラス(約40人)を担当しています。とても元気が溢れるクラスで、乗り入れ授業の初回で私の自己紹介をした後に”What sport do you play?” – “I play XXXX!”を言語材料にして、班の各メンバーが自分の好きなスポーツを言っていくが一人だけウソをつくのでそれを当てるというゲームをしたところ、案外うまくいってしまいました。
それに気を良くした私は、”How is the weather?” – “It’s sunny / rainy / cloudy / snowy .” を言語材料にした活動で、まず米国abcの子どもお天気キャスターの動画を見せ、「こういうのやってもらうからね」といって、世界の国のどこかを選んでもらい(ちなみに国は、それとなく僕が現地語のあいさつを知っている国にした)、その上で天気を選んでもらって、最後にその天気だったらやることを考えてもらい、最後の「やること」だけをジェスチャーにしてクイズにする、というのを思いついて、実際にやってみたのです。
そしたら。
子どもたちは頑張って現地語の挨拶を口に出したり、天候を英語で発表しようとしたんですが、全員が一緒になって発話できたわけではなかったし、むしろジェスチャーをやるほうにばかり集中してしまって、大事な言語材料の方を言う活動に至れませんでした。というか、単純にいろいろ盛り込みすぎたので、わっちゃーとなってしまいました。活動はシンプルにする、という基本的なことを見失っていたかもしれません。
で、この失敗から「こりゃいかん」と思い、外国語活動に関する本を読んだところ、「とにかく聞かせることが大事」という記事を読んだので、それならばと思いたち、NHK for Schoolからえいごリアンの歌の動画クリップを引っ張ってきてみんなで踊ったり、音楽室からギターを持ってきて”If you happy and you know it, clap your hands”をやったりしました。基本的に、「外国語に親しむ」ことを目的としていることを拡大解釈して、毎回楽しく遊ぶつもりでやっています。一応、教科書であるLet’s Try! 2の言語材料を参考に活動を組んでいるので、遊んでいるわけではない、ということだけ主張しておきます。