1ヶ月も試行錯誤して、ようやくプリントに採用するフォントを見つけた

中学1年生の英語を担当して1ヶ月がすぎたが、じっくりと時間をかけて、アルファベット指導からヘボン式ローマ字、そして単語指導へと、自転車操業的にプリントを作りながらえっちらおっちらやっている。

そこで無駄にこだわりをもってしまったのが、プリントに採用するフォントである。些細なようでとても重要な問題だ。

結論から言おう。僕は月300円払ってでも、UDデジタル教科書体手書き用欧文を使うことに決めた。ありがとう、MORISAWA BIZ+。ついでに欲を言えば、全教員のPCに一括でライセンシングしてほしい。

追記@2021.02.10
なんとこの記事を書いてから1年半して、UDデジタル教科書体の開発者の方と、音声SNS “Clubhouse” で邂逅し、お話をして感謝を伝えることができた。その際、いくつかの訂正をいただいたので、追記を入れている。


Comic Sansが、ダサい

いろいろ探した。先達は、Comic Sansを用いていた。Comic Sansは、Google検索すると真っ先に「ダサいフォント」と評されるページが出てくるし、私もダサいと思っていた。だが、使うにはそれ相応の合理的な理由がある。実際に聞いてみたところ、「aが、筆記書体のaに近いから」というのが理由だった。なるほど、それは納得がいく。ただしComic Sansは一つだけ利用時に注意がある。大文字のYについては、中央の棒が垂直ではなく右側の斜め棒とつながっている状態になる。そこだけは注意が必要だ。

だがいきなりComic Sansを用いるのはちょっと都合が悪い。なぜなら、少しクセがあるフォントなので、それこそ書写のようなアルファベット指導時期には向かない。変な癖をつけさせるわけにはいかないし、それこそ均等間隔になっている4線ノートに配分しようとするとバランスが悪くなる。4線を卒業してからならいいが、均等配分4線をオブジェクトで作り、そこにテキストボックスでアルファベットを重ね合わせようとした際、上から1段目と2段目(授業では2階・1階・地下と指導した)の間隔が合わないのだ。


Sassoonが、4線に合わない

調べてみると、Sassoonというフォントがあることを知った。Rosemary Sassoonというデザイナーが、アルファベットの初学者向けにデザインした、アルファベットの手書きの学習用のフォントである。Jolly Phonicsという、英語の音とファルファベットの組み合わせを学習する教材においても、このフォントが用いられていることを知った。しかも無料で配布されている。「これだ!」と思ってダウンロードした。しかし残念なことに、これまた均等間隔の4線に合わない。

そもそも、均等間隔4線であるべきなのか、という議論はある。実際、文科省の英語ノート「We can」で採用されているアルファベット表をみると、上から数えて2線目と3線目の間(授業で私が言った1階)が、他の間隔(2階や地下)に比べて幅が広く設計されている。聞いた話によれば、この2・3線目の間が広い方が書き取りをしやすいとのこと。かんがえてみりゃそりゃそうだ。均等間隔のなかで「e」なんかはとても書きにくい。ならいっそ、作る教材を全部、「1階」だけ幅広にするか、とも考えた。しかしそうしてしまうと、今度は生徒たちが購入した4線ノートと異なってしまう。大半はいまだに均等間隔である。うぅむ、ここは均等にしよう、と思った次第だ。


UDデジタル教科書体が、ちょっと惜しい

ところで、学校で用いているPCはWindows 10なのだが、UDデジタル教科書体というフォントが標準で入っている。なんと、教科書体で、しかもUDだと。つまり教科書で用いられている書体だからまぁ概ね正しいと思って差し支えなかろうし、しかもUD=Universal Designだから誰でも見やすいだろうと。しかも少し丸っこくてかわいい。前職時代の終わり頃に、上司がよくPPTで使っていて、このフォントきれいだな、私も使いたいなと思っていたのだが、自分の社用PCがWin7で上司のがWin10だったから、使えなかった。いよいよ学校という職場でこのフォントが使えるぞ、これは見やすいぞと意気込み、以降すでに第4号まで発行している学年通信で用いている。

これだ、これを使おうと思ってUDデジタル教科書体を使って大文字アルファベットのプリントを制作した。よしよし、教科書通りのABCだ、と思っていた。しかし小文字を作成しようと思ったところで「あ」となった。このUDデジタル教科書体、「a」や「b・d」、「p・q」あたりが、円+垂直棒で形成されている。まぁこれはこれで正しいが、今風ではないように思えた。それこそ「We can」では、一筆書きもできる手書き書体になっている。これに合わせたい。どうしてもこれが使いたい。そうしてまた無駄に検索の時間をかけてしまった。

追記@2021.02.10
初めて知ったのだが、〇と|で構成される欧文フォントを「ボールスティック体」というそうだ。


手書きに近いフォントをようやく発見した

そうしているうちに見つけたのが、奈良教育研究所が開発した、Nara Penmanshipフォントというものだ。件の「We can」で用いられているフォントに近い。これはとんでもないものを見つけてしまった。最高かよ。しかもラインありバージョンとラインなしバージョンの双方がある。それが教育用なら無料だということだから驚いた。いいものを見つけた。とおもったらある障害に当たってしまった。フォントを学校用PCにインストールできない。そもそもadmin権限がないので、仕方がない。じゃぁ家のMacで作ればいいじゃんと思ったのだが、今度は家のMacにはUDデジタル教科書体がない。プリントの日本語部分はどうしてもUDデジタル教科書体を使いたい。とりあえず仕方がないので、小文字練習のプリントと、3文字単語のプリントは、アルファベットフォントを優先して家のMacで作成し、日本語部分のフォントについては諦めた。

さらに調べていくうちにわかったのだが、どうやら「We can」で用いられているアルファベットのフォントは、なんとUDデジタル教科書体のファミリーらしい。 そしてそのUDデジタルを作ったのは、天下の日本語フォント企業・モリサワである。そうか、モリサワのフォントを買えば使えるのか。ほしい、これはとてもほしい。しかも、UDデジタル教科書体の欧文フォントは、「We can」で用いられている、4線の間隔が5:9:5のバージョンと、4線の間隔をほぼ均等である5:6:5にした手書き用欧文フォントがある。そうだ、これだ。僕がほしいのは、4線が均等間隔の状態で用いれる、手書きに近いフォントである。ありがとう、モリサワ。

追記@2021.02.10
上述の「We canはモリサワのUDデジタル教科書体」というのは誤りだった。実際には、現在ではモリサワグループである字游工房が開発したものだった。しかも、特別な支援を要する児童生徒に向けた英語教育の専門家でJolly Phonicsの日本での第一人者である村上加代子先生の監修のもと、字游工房と東京書籍が共同開発したフォントだそうだ。ちなみに、UDデジタル教科書体自体は、かつてモリサワの子会社だったTypebankがその出自である。


結局、サブスクに落ち着く

しかしモリサワフォントか、高いだろうなぁ、と思っていた。実際、モリサワのフォント製品は近年、サブスクリプション型の提供がされていた。その製品群「MORISAWA Passport」にはアカデミック版があることを知った。教職員も利用できて、4年で22,000円。そうか、年5,000円弱かぁ、買いかもしれない。いや、でも使いたいのはUDデジタル教科書体だけなんだよなぁ。と思っていたところ、ようやく見つけたのが「MORISAWA BIZ+」である。モリサワが開発したUDフォント(デジタル教科書体、黎ミン、新ゴ、新丸ゴ)が月330円で使える。無料版もあって、UDゴシックとUD明朝がタダで使える。そもそもUDフォントなだけあって、文字の読み間違いを起こしにくい。年額で比較するとPassportのアカデミック版と若干違うくらいなので悩ましいところではあるが、月額払いで気軽に始められるのがいい。

そもそもだが、フォントはとても大事だ。合理的な理由があるなら致し方ないとしても、ダサいフォントは全てがダサく見える。私はMacを14歳から使っているが、そこでヒラギノを使ったことから僕のフォントに対する感覚は変わったと思う。フォント製作者には申し訳ないが、MSゴシックやMS明朝にはもう戻れないし、メイリオが登場してからしばらくはそちらを用いていたが、游ゴシックが登場してからはメイリオさえ「もう使わないでくれ」と思うくらいだった。実際、前職ではチームメンバーに、Windows7のユーザーでも游ゴシックが使えるフォントパックをインストールしてもらっていたくらいだ。美しさはわかりやすさと同義だと思っている。その意識は、教員になっても忘れたくない。


まとめ

そんなわけで結論を再掲しよう。僕は月330円払ってでも、MORISAWA BIZ+を個人Macに入れて、UDデジタル教科書体手書き用欧文を使うことに決めた。先々はMORISAWA Passportを買うかもしれないが、まずは月サブスクで試してみようと思う。

各種フォントと、小文字アルファベットを比較してみた。 均等間隔の4線に合うのがデジ教欧文手書きだとわかる。

注)「え、個人のPCで教材作るの?」と思われる方もいると思う。たしかに業務上の情報に当たる教材作成は業務で用いるPCである学校のPCで行うのが筋だ。だが現実問題として、個人が特定される成績等を持ち出す業務ではない教材作成については個人デバイスで行われていることが多いように思う。学校にいる就業時間内でやれよ、という話でもあるかもしれないが、文字入力とレイアウティングだけ学校で行い、フォントの適用→PDF化だけを家でやればいいだけの話だろう。もしこの、個人情報が含まれない教材データ作成を個人PCで行うことが完全アウトならば、もうその時は「申し訳ありません」といって今後そういうことは行わず、また別の方法を考えるだけの話である。


追記:エイゴラボ、最高かよ

(2020.04.06 追記)

この記事を書いたのが昨年のゴールデンウィーク。そこから、休校があったものの、UDデジタル教科書体欧文手書き用をワークシートに採用し続けてきて、次の年度もこのフォントとお付き合いをしていこうと思っている。そんな矢先の年度末、とある小学校英語専科の先生のツイートを見かけて、思わずテンションが上がった。

なんだと! 正進社がフォントを無料で配布だと!

正進社は、英語補助教材「エイゴラボ」を発行する会社。私の学校では採用していなかったのだが、見本を結構参考にさせてもらっていたし、「英語の語順ドリル」は大学生のころから知っていた教材だった。「エイゴラボ」はイラストもふんだんだし、何より分かりやすく、長年フォローしてきた英語教師(今は教員養成課程の先生)もオススメしている教材。

なんと、そんな教材に採用されている手書き風フォントが無料でダウンロードできる、と。名付けてエイゴラボFONTS。なんてこった。これが無料で使えるのは激アツじゃないか。エイゴラボ、最高かよ。ちなみにインストールはまだしていないが、説明のシートを見るかぎり、5:9:5の、4線の地下・1階・2階でいう1階部分がやや広めのつくりになっているようだ。また、大文字が少し細身に見える。

と、いいつつ、私は今年度も引き続きモリサワのUDフォントを継続利用しようと思っている。いまから乗り換えるがめんどくさいというのと、フォントファミリーにズレを起こさないようにするため、というのが理由だ。だが、これから教材づくりをするうえでフォントに少しこだわってみようと思っている先生は、ぜひとも使ったほうがいいと思う限りだ。


追記:開発者に出会う

(2021.02.09 追記)

音声SNS “Clubhouse” に入りびたり、毎日夜21:30から、その日一日にあった出来事をふりかえる部屋「きょうのがっこう」を開催していて、開始から2週間ほどたってきて、ルームには「いつものメンツ」が入ってくるくらいだったが、2月9日、奇跡が起こった。

なんと、もともとTypebankのデザイナーで現在はモリサワに在籍している、UDデジタル教科書体の生みの親・高田裕美さんがルームに入ってこられた。プロフィールを拝見して、一気にテンションがあがり、聞いているだけの人をそのようにイジってもいいんだろうかという思いを持ちつつも、とうとうとフォントの話をし続けた。そして、30分くらい熱弁した後に、高田さんご本人がスピーカーとして入ってくださり、開発の経緯を伺った。

詳しくはこの記事を読んでもらえればと思うのだが、もともとデザイナーの視点「のみ」で、ユニバーサルデザインを「うたう」フォントがあったものの、慶応大の中野泰志先生を尋ねてヒアリングをし、その後現場を見ていくことを重ねて開発をしていったそうだ。慶応大の中野先生の話は学生時代に聞いたことがあっただけに、「あーね」感があった。しかし、なかなか金になりにくいという状況が続く中で、Windows10への採用やデジタル教科書時代の到来によって、脚光を浴びる形となる。

そんな話を聞きながら、ルームを共にしていた友人は「デザインシンキングを地で行っているよね」と言っていた。まさしくそうだ。課題を先においてその達成のために進んでいく、ウォーターフォール型ではなく、目の前の課題をクリアしていきながら次へ次へと歩を進めるアジャイル型のプロジェクトマネジメントがそこにあった。まさしく、答えのない問いを探求していくプロセス。これは面白い。

で、高田さんご本人にもこの記事を読んでいただき、こんな返信をいただいた。

さらにルームではなんと「書き順フォントが登場します」との情報が。しかもオフレコかと思ったらすでにアナウンスされている情報だったのでたまげた。ルームを共にした友人が、鬼の勢いで検索をかけまくり記事を集めてくれて、それを見る中で、例えば三省堂の小学生用国語辞典でUDデジタル教科書体が採用されていたり、とある自治体で行われた実証実験で、フォントのちがいだけでテストの正答率に違いが出るという結果が出ていたりと、とても興味深い情報に触れることができた。

ということで、記事内の誤った情報の訂正もいただいたので、追記した次第である。今度は、高田さんをお迎えしてのルームを作成して、もっとこの想いを日本の先生方やEdtech界隈の人に届けいたいと思う。

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