オンライン学習のよもやま:⑩「生徒総会をDXする」

新型コロナウイルス感染症の収束がまだ兆しを見せない中、気がつけばもう令和3年度の1学期が終わってしまっていた。教育におけるICT活用も、一人一台端末の本格導入となった4月から4ヶ月が経ち、勤務校の生徒たちはだいぶ利用に慣れだしてきた。生徒たちは、慣れてきたので休み時間にGoogle検索で「パックマン」と検索し、Doodleでパックマンをして遊んでいるところを私に見つかり、冷ややかな目線とともに「それ、学習用PCの使い方としていいと思ってんの?」と、私に諌められているのであった。

Withコロナ状況下での学校運営も2年目となり、ただICTを使うだけでは珍しがられなくなってきているが、いまだに「Zoomを使って生徒総会を行いました」という、新聞記事や各学校のブログを目にする。そうとう当たり前度が増してきたリモートワークやクラウド活用も、学校現場ではまだまだメジャーではなく、「Zoomを使う」というだけで珍しがられる。しかし、「実際にどのように行ったのか」というHow to部分は、なかなか記事としては公開されていない。

久々にブログを書く気が起きてきたので、過去2年間のオンライン生徒総会の実施を踏まえて、生徒総会プロセスのデジタルトランスフォメーション=DXについて書いていこうと思う。ちなみにだが私が本稿で用いているDXとかデジタル化とかいう言葉は、ある種「なんちゃって」で使っているくらいのものでしかないし、デジタイゼーションとデジタライゼーションはどっちがどうのこうので、とかそういう詳細のことは脇に置いておいているので悪しからず。


生徒総会DXのメリットと5つのステップ

生徒総会のDXは、総会当日だけをオンライン化すればいいという話でない。そもそも総会当日自体をオンライン化することも大変なので、簡単に「やりました〜」と言えるほどのものではないだけでなく、総会当日をオンライン化するだけだと、正直言えば、人を一箇所に集めて総会を実施するよりも、むしろより手間がかかることになる。そして、そうしたオンライン会議アプリを用いた総会当日の議事運営は、今日の学校現場において、一部の「できる」教員のもとにナレッジが集約されることになり、結果的に再現性を伴わないことになる可能性がある。

その意味では、「生徒総会」という行事にまつわる、およそ全てのプロセスにおいてデジタル化を試みるところからやっていかないと意味はない。別言すると、生徒総会プロセスは、一人一台端末環境を背景としてデジタル化を図ると、業務効率化を図ることができ、その分本質的なところ、つまり「自分たちのことは自分たちで話し合って決めていく」という部分の質を向上させることができる。

当然、生徒会は生徒たちによる組織なのだから、生徒たちの手で(=教員の介入なく)自分たちで作り上げられればよいのだろう。しかし、生徒会活動も一つの教育活動の機会であり、そこには教員の適切な指導やサポートが必要になるだろう。私は中学校勤務なのだが、さすがに生徒会役員といえども、中学生たちに「んじゃ総会やっといて」と、段取りや手立てをサポートせずにぶん投げるのは無理がある。

勝手な憶測だが、アナログ実施時代は、教員の指導の度合いが高かったのではないかと思う。しかし、真の意味でのオンライン化・デジタル化を図ると、生徒の関与度を高めることができると思っている。というか、ここ2年のトライアルを経て、それが可能になることを私自身が身を以て痛感した。オンライン化・デジタル化のプロセスをきちんと整備しておくと、教員より先に、生徒の側にナレッジを蓄積することが可能になる。それが、再現性の担保につながると思う。

こうしたメリットを享受するために、まずは生徒会を担当する教員が、以下のプロセスを踏んでいく必要があるだろう。この5ステップの順序だけわかっていただければいいので、長い読み物を読みたくない読者は、このまま以下の5ステップを読んだら、ブラウザを閉じていただいて構わない。

ステップ1:生徒総会のプロセス自体を整理する
ステップ2:デジタル化するプロセスを選定する
ステップ3:ツールと機材を選び体制を検討する
ステップ4:総会当日の議事進行の流れを考える
ステップ5:生徒参加での接続リハーサルを行う


5つのステップの詳細を解説する

さて、このセクションを読んでいるということは、ブラウザを閉じなかった、ということだ。これから、長々とした文章にお付き合いいただくことになる。損した気分にならないためにも、少しでも何かをお持ち帰れいいただければ、と思う。このセクションでは、2020年度と2021年度の実践を織り交ぜながら、各ステップの詳細について記載をしていく。その前に、2020年度と2021年度の、生徒総会のデジタル化度合いについて、先に提示しておこう。

2020年度 2021年度
総会当日をZoomで実施し教室間を接続 総会当日をZoomで実施し教室間を接続
採決は教室毎の挙手数をチャットで送信 当日の採決はGoogle Classroomを使用
年間計画作成をWordからPPTに移行 年間計画作成をGoogle Slidesに移行
議案書は紙印刷 議案書を廃止してG-Classroomに資料掲載
学級審議の意見集約は紙で実施 学級審議の意見集約にG-Formsを利用
答弁作成をGoogle Sheetsで実施 Formの集約結果をそのまま
G-Sheetsに書き出して答弁を作成
台本は教員がエクセルで作成 台本はGoogle Sheets上で、
執行部の生徒と教員が共同編集

では、各ステップについて解説していく。

ステップ1:生徒総会のプロセス自体を整理する

この記事を書く上で、「Zoomで生徒総会を行いました!」と書かれているいくつかのインターネット上のページを見た。各学校の取り組みとして、生徒総会においてどのようなことが行われているのかを知ることができて新鮮だったが、おおむね以下のようなことが総会当日に行われている。

  • 生徒会執行部や委員会の活動報告
  • 年間活動計画提案と予算審議
  • 各学級の目標の発表
  • その他提出議案の審議

実際、本校では例年、執行部および委員会が年間活動計画を提案しており、そこに加えて2020年度からは、時の執行部の強い希望により「学校をより良くするための自由審議時間」というのを設定している。

ところが、ググって出てくる記事の多くは、生徒総会当日の様子のみを取り上げるにとどまっている。たしかにZoomを使った生徒総会は、ICTを使うことで一つの場所に集まらなくても会議ができる、という点こそが目を引くものである。しかし、むしろ総会当日はあらかじめ用意された台本通りに進行していくイベントのようなものであり、むしろ当日に至るまでの準備こそ、はるかに時間と手間がかかっている。事実、私の学校においては以下のような順序を踏むことになっている。

  1. 定例生徒総会の開催が評議員会より発議される
  2. 執行部および各委員会委員長が年間計画の作成にあたる
  3. 作成された年間計画が、月例で実施される委員会の会議にて提案される
  4. 学級会が開催され、活動計画に対する審議が行われる
  5. 学級ごとに、各委員会に対する質問および意見が集約され、総会事務局(生徒会執行部)に提出される
  6. 学級会において「学校をより良くするための自由審議」の意見出しが行われる
  7. 学級として提出する「自由審議」の意見が集約され、事務局に提出される
  8. 各学級の質問や意見を集約したうえで、総会事務局が書面回答と当日審議とを振り分ける
  9. 質問や意見に対して、執行部および委員長が答弁を作成していく
  10. 作成した答弁内容に基づき、各学級からの発言順を定めて、台本に落とし込む
  11. ここまでの準備内容に基づき、総会当日に審議の実施と採決を行う
  12. 生徒総会での可決事項は、職員会議での承認を経た上で最終決定となり、公布される

と、書き出してみても驚くほど手間のかかるステップを踏んだ上で当日を迎えていることがわかる。こと、私の学校では4〜7の「学級審議」プロセスの方が、総会当日よりもよっぽど重要になっていることがお分かりいただけるだろう。本当ならこれを、縦軸にプロセス、横軸に登場人物をとって、業務フロー図に落とし込んでいったほうがいいのだが、さすがにそれはやりすぎとしても、こうして生徒総会にかかるおよそすべてのプロセスを先に洗い出しておくことが、次のステップである、「デジタル化するプロセスの選定」に活きてくる。

私は2020年度に生徒会執行部の顧問教師となり、あえて、前任者が作った職員会議向け提案文書を、参考にはすれど流用することなく、まっさらな状態から作成し、その上で生徒会執行部の希望を踏まえながらプロセス構築を行なった。だからプロセスの全容がわかっており、2年目となる2021年にデジタル化の幅を広げることができた。

ステップ2:デジタル化するプロセスを選定する

Zoomなどのオンライン会議システムを使った生徒総会当日の実施は、本校で言えば12あるプロセスのうちの1つを、対面実施からオンライン実施に変えたにしか過ぎない。しかも、「当日の開催」というプロセスもいくつかの要素を内包していて、オンライン会議システムの利用というのは、その内包された要素の一つにしか過ぎない。事実、2020年においては、

  • 議案確認:議案書を紙で印刷してそれをみる
  • 採決方法:挙手をした人数を学級ごとに数えてZoomのチャット機能で本部に送信する

という、アナログな要素が残っていた。とはいえ、2020年度には、まだ周囲でZoomを使った生徒総会の実施に対するナレッジが流布されていなかったこともあり、手探りだったぶん、対面実施をオンライン実施に切り替えるということだけでも大きな価値があった。だが2021年は、さらにデジタル化を加速させるチャレンジに取り組むことにした。その上で目をつけたのが、以下のプロセスであった。

  • 年間計画案の作成
  • 学級審議結果の提出
  • 質問/意見の振り分けと答弁作成
  • 総会当日の議案ごとの採決

書き出すと4つだが、前述の12のプロセスの、ほぼ全てをこれでカバーしている。なぜなら、一つのプロセス要素をデジタル化することで、その後のプロセスにおいてその恩恵を得ることができるからだ。

例を出そう。年間計画案の作成だが、これは私の前任者の時代から、PC室のPCでWordで提案文書を作成するということは行われていたが、それらは印刷され、委員会内提案に際して配布され、ついで学級審議の際に議案書として全生徒に配布され、となっていた。私が担当者となった2020年はテンプレートを変更し、Word作成からPPT作成に移行したが、それでも印刷配布は継続された。しかし2021年は状況が一変した。一人一台の情報端末&クラウドサービスの配備により、資料作成をGoogleスライドで実施した。そうしたら、クラウド上でのデータ共有によって、紙の印刷を必要とせず、結果的に議案書の印刷が不要になり、紙とインクと印刷作業時間が一気に削減された。

と、例のように、あるプロセスのデジタル化・オンライン化が、後ろのプロセスにも好影響を及ぼすということが、情報端末整備によって可能になってきたわけだ。もちろん、セオリー通りにいくのであれば、デジタル化した方がいいプロセスを炙り出し、その後に実装方法を考える、というのが筋であるが、先に端末や利用するクラウドプラットフォームの特徴を把握しておき、そこからデジタル化を図るプロセスの選定を行ってもいいと思う。いずれにしても、ある特定のプロセスだけのデジタル化では意味がなく、そのデジタル化が他のプロセスにおいても効果を発揮することを見越して、プロセス選定をしたほうがいいと思う。

ステップ3:ツールと機材を選び体制を検討する

全体像のなかで、どの部分をデジタル化するかを決める、言い換えると、以前のような紙ベース・アナログベースのプロセスに比べて、ICTツールを用いることで格段に時間的&労力的コストを削減できる部分がどこかを定めたら、具体的な方法の検討に入る。しかし、ここで陥りがち(であり私自身がしょっちゅう陥っている状態)なのは、デジタル化をするほうが、かえって準備に時間がかかり、そのくせそれほど効果をあげずに徒労に終わる、という状態だ。ICT化で、かえって業務が非効率になるパターンである。

だからこそ、ツールと機材の選定と体制構築は、デジタル化を図るプロセス自体の選定と一体的に、そしてよく練って考えなければならない。もちろん仮説ベースで「これを使えば、こんなふうにプロセスが楽になるかもしれない」といったことは考えていいのだが、その仮説のまま、言い換えると、他の方法の選択肢の検討(それは、デジタル化しないという選択も含む)をしない状態で、思いついている唯一の方法だけでデジタル化を進めない方がいい。まして、大してよくわかっていない上位職級者や同僚から「なんかICT使えばうまいこといくんじゃないっすか?」みたいなノリと勢いのアイディアをそのまま進行させてはならない。後で痛い目を見る。

もう一つ陥りがちなこととして、ツールや機材の選定【だけ】を行って、その後しばらくほったらかしてしまうことがあるが、運用をする上での流れを想定しながら、人的体制と運用体制を考えておく必要がある。いいかえると、どこに・なにを設置し、だれが・どの手順で取り扱うのか、ということを明確にしておくことである。

例を挙げながら説明しよう。2020年に初めてZoomで生徒総会を実施したとき、勤務校には以下のような条件が揃っていた。

  • 各教室にはLANの情報コンセントが設置されており、また電子黒板も配備されていた
  • PCの映像を無線で電子黒板に投影する、という目的で各教室にWiFiルーターが設置されていた
  • コンピューター室のPCはタブレット+クレードル型になっており、教室の無線LANに接続できた
  • Zoomのクライアントアプリは管理者権限を必要とせずインストールすることができた

この条件をもとに、オンライン会議ツールとしてWebExやGoogle Meetなどの検討を踏まえた上で、最終的にZoomに決めたのは以下の観点からだった。

  • たまたま遠藤が、別件で用いるためにZoomの有償アカウントを持っていた
  • リアクションボタンが存在するので、「拍手採決」の実装が可能と思われた
  • 比較的、ハードウェアの性能の割には安定した通信が実現できそうだった

これらのポイントからZoom+コンピューター室のPC、という構成を定めた。これを各教室に1台ずつ設置して電子黒板と接続、その設置と操作はクラス代表の生徒が行うようにした。生徒が設置・操作をしても大丈夫になるように、(後述するが)2回のリハーサルの実施と、詳細なマニュアルの作成を行なった。

2020年は、一人1台端末の配備前。それでもこうした運用ができたわけだが、多くのプロセスにおいて、私の手を入れていた状態になっており、それでは生徒主体の生徒総会の意味をなしていないという、ごもっともな指摘をいただき、2021年は一人1台端末の活用という運用体制へのアップグレードを図りながら、同時に人的体制として生徒主体の運用になるように努めた。そこで工夫を加えたポイントは以下だ。

  • そもそも生徒会執行部の業務はGoogle Classroomを基本プラットフォームにして実施していたが、生徒総会用に全生徒が加入するClassroomを立ち上げ、生徒会役員には教師ロールを割り当てて、生徒会役員たちが資料や質問の掲載をできるようにした。
  • 私が生徒に、文面や口頭での指示、あるいは傍で見ておきながら生徒に操作してもらう形で、意見集約フォームの作成、Classroomのストリームへの投稿などを行なってもらった。
  • Google Classroomの機能にある「質問」機能には、選択式(単一選択)設問を設定できることが分かったので、総会当日の採決用投票をClassroom上で実施することにした。これにより、議事資料の閲覧・学級審議後の意見集約・当日の採決が、すべて端末上で完結した。
  • 生徒会役員による準備においても、学級意見集約フォームとスプレッドシートを紐づけて答弁を共同編集したり、台本をスプレッドシート上で共同編集したり、といったプロセスを導入した。

2021年の生徒総会に向けた、ツール選定と運用体制については、あらかじめ紙に書き起こすなどはしていないものの、頭の中で体制図を思い浮かべながら準備を進めたと同時に、生徒会役員とも共有を図りながら進めていった。きちんとイメージを持つことは、成功の一つの要因だと思う。

ステップ4:総会当日の議事進行の流れを考える

当たり前の話だが、これは台本を作るということと同義である。しかし、オンラインツールを使うことは、リアル開催をする時に比べて、かえって手間になることが増える場合もあるわけで、その部分も十分想定に入れた流れの構築をしなければならない。

私の勤務校の場合、2020年は、Zoomを操作する生徒だけが、その操作について慣れていればいいだけであったが、2021年は、なまじ全ての審議プロセスにおいて一人1台を活用することにしてしまったが故に、全生徒が操作をする必要に迫られたため、生徒総会当日の台本の中に、捜査に関する詳細な説明や、練習時間の設定をする必要があった。タブレットを開き、Classroomの一覧ページを開き、そこから生徒総会用Classroomを開いて、そして資料を探して開く、といった具合に、細かく操作をアナウンスの中に織り込むということを行なった。

また、Classroomの投票機能を使うための練習を、出席数確認とかねて行うという流れで組み込むことも行なったし、あらかじめ全ての採決議案に関して投票用の質問を掲載してしまうと勝手に投票されてしまう可能性があったので、あらかじめ「下書き」として準備しつつ、その採決の時間になったら投稿して、生徒に画面を更新させる、というところも台本に組み込んだ。Classroomの投票機能は、教師役からはリアルタイムで投票数の伸びの様子がわかるため、数え間違いもなく、スムーズに投票結果を確認して議事進行を図ることができる。

前のステップでも触れたが、台本作成も基本的に生徒と一緒に取り組み、それを共同編集で作成していったのは大きいことだったと思う。本校の生徒総会では、各学級から集約した意見のうち、生徒総会当日に発言として取り扱うものについては、その学級の代表者が発言することになっている。ということは、進行台本は生徒会役員や議長役の生徒だけが見れればいいのではなく、学級の代表者=学級からの発言者も見れる必要があるわけだが、共同編集機能を使ったスプレッドシートであれば、印刷の必要がなく共有が図れるので、とてもスムーズだった。

やや、ステップに関する説明から逸れたが、いずれにしてもデジタルツールを導入した場合の進行方向は、アナログ時代のそれとは異なるということを認識した上で、流れを再構築する必要があるだろう。

ステップ5:生徒参加での接続リハーサルを行う

これはデジタル化の範疇の中でもおもにオンライン会議システムを利用した場合に限られる話であるが、それにしてもリハーサルは絶対に挟む必要がある。ここでいうリハーサルが持つ意義は、以下の3つだ。

  • 議事進行、発言の流れを確認するリハーサル
  • 機材の設置に関するリハーサル
  • 機材の機能の使い方に関するリハーサル

と、いうことは、一度ではリハーサルを終えることはできない。そこで本校では、2020年も2021年も、リハーサルを2回実施している。そのリハーサルの対象者は、当日に各学級を代表して発言をする、そして機材の設置を担当する、学級代表の生徒たちである。まず初回は、機材を教室に運び、電子黒板と接続して、Zoomのアプリを立ち上げて、ミーティング番号とパスワードを入力して、ミュートの解除と発言・リアクションボタンの利用といった機能を使っていく、というリハーサル。そして2回目にようやく、発言順の確認リハーサルを実施する。

おそらくだがこれらの要素を含むリハーサルを、一発で終えることは難しい。逆に言えば、生徒たちはリハーサル段階で2回、当日を含めると3回も、機材設置の経験をしているので、副次的効果ではあるが、生徒総会以後にオンライン会議ツールを使った講演会の実施が発生した際にも、大した説明をすることなく、機材設置を生徒たちに頼むことができるようになる。

もちろん、リハーサルには担任教員に立ち会ってもらうし、マニュアルも事前に担任たちに配布をしておく。2020年にマニュアルを作成した際は非常に骨が折れる思いだったが、2021年はそれをそのまま流用できたので業務も軽減された。マニュアルさえあれば、はっきりいって生徒だけでも設置・使用は可能である。それでも教員を同席させるのは、あらかじめ教員に説明をした上で教員主導で設置をするよりも、生徒が四苦八苦しているところを教員がサポートしたり、あるいは一緒に四苦八苦してもらったほうが、当日のトラブル発生時に自力解決を図ろうとする姿勢を持ってもらえる。


生徒総会DXがもたらした、思わぬ効果

さまざまな試行錯誤を経ながらも、2020年、そして2021年の生徒総会は、それぞれの年度において、なんとか無事に成功を収めることができた。

2020年はほとんど私が準備をしてしまったという反省があり、それは言い換えればオンライン化した生徒総会の流れを十分に生徒会役員に共有しきれていなかったため、生徒たちにとってぶっつけ本番状態となった、ということを意味する。それが故に、生徒総会が終わり、Zoomのルームを閉じた瞬間に生徒たちから溢れた大きなため息は、それほど緊張の糸が張り詰めた90分を過ごした、ということの表れとして、非常に印象に残るものとなった。

そしてこの成功は、校内の全員、とくに教員陣に対して、一箇所に集まることが難しいという課題を乗り越える術の一つとして、オンラインという手段が取れるんだ、という印象を植え付けることにつながった。まだ一人1台PCが配備される前のことだが、大きな一歩となった。2020年度はその後、生徒会役員選挙立会演説会のZoom実施、そして小学校の卒業式の同時中継(本校は小中一貫校なので、中学校卒業式に出席できなかった中学2年生向けに、卒業へのイメージを持ってもらう取り組みとして、小学校の卒業式を中継した)といった場面で、オンライン中継の手段を講じるということが起きた。

あくる2021年度。前年の成功もあった分、昨年度と同じことをするのであれば成功は間違いない。だからこそ、さらにもう一歩のチャレンジとして、5つのステップの中でも解説したように、Google Classrooをプラットフォームに据えた、ほとんどのプロセスをオンライン上で完結させる構成を、生徒たちの手で運用していく、という体制を取った。

提案資料の作成も、そもそも年度当初から月次の提案資料作成をGoogle Slidesにて行っていたため、操作面での課題はほとんど生じなかったし、総会事務局をになった生徒会副会長と書記は、私の指導のもとにGoogle Formの作成や生徒総会用Classroomへの投稿配信などをスムーズに行っていった。学級での審議においても、紙に頼ることなく、資料をChromebookで閲覧したり、審議結果をFormで入力したり、と順調にイメージ通りの運営がなされていった。

さぁ、本番まであと1週間。スケジュールはタイトだが、答弁作成をしっかり行っていくぞ、と思った矢先に、思わぬ事態が発生した。

生徒会顧問教師を務める私の、茨城の実家の家族が、病に倒れたのである。

先に言っておくと、結局命に別状がなかったものの、最初に連絡を受けた際には命の危険があるとのことだったので、急遽実家に帰る手配を行った。仮置きで定めた帰省の期間は月〜木。結局、大事に至らなかったこともあり、木曜夜の便で予定通り福岡に戻ったのだが、あくる日の金曜日は、生徒総会本番当日である。つまり、生徒総会本番当日までの1週間を、顧問教師が不在にする、という事態になったのだ。

しかし、ほぼ全ての生徒総会のプロセス、および生徒会役員の業務をデジタル化していたことは、この緊急事態においてはラッキーだった。

本番に向けた準備のほとんどはすでに枠組みができていたので、残された作業である答弁作成は、リストに共同編集機能でどんどん入力をしていけばいいだけ、という状態であった。Zoomを使うためのリハーサルの実施も、遠藤が不在の状態であっても、マニュアルがあったため、それ通りにことを運んだようで特に問題は発生しなかったようだ。

何より大きかったのは、Google Classroomを業務用情報共有ツールのような位置付けで利用していたことで、生徒会役員の生徒は私に質問をし、反対に私は細々とした指示を出し、といったことがテキストメッセージで行うことができた。また、Google Meetを利用した進捗確認ミーティングを実施することができたので、物理的に学校を不在にしたが、結局はリモートでの対応が可能となっており、大きな穴を開けずに済ませることができたわけだ。


生徒総会DXの本質とは何か

前述の「顧問教師、直前で帰省して不在」という緊急事態においても、役員の生徒たちは自分たちのすべきことをきちんと認識し、一人1台の端末を自在に活用しながら、準備を進めることができた。言い換えれば、顧問教師に依存することなく、自主的な準備を行うことができたと言える。言い忘れていたが、私が不在にしている間は、教務主任がプロジェクトマネジメントを代替してくれたので、それがあったからこそ全てを生徒に丸投げすることなく、きちんと形におさまったという側面はあるのだが、それにしても、一見すると属人性の高いことをしている割には、役員たちの自主性をうまく引き出すことに成功していたようにも思う。

その自主性をもたらした一つのキーとなるものが、ICTツールを活用することによって、業務の手綱を役員生徒たちに渡したことにある気がしている。もちろん、業務プロセスをICT化しなくても、その業務の手綱を生徒たちに委譲することはできたかもしれない。ただ少なくとも私に取って、紙ベースでのアナログな業務プロセスに比較して、クラウドベース・一人1台という、GIGAスクール構想下の環境のほうが、よっぽど生徒たちに業務委譲を図りやすいと感じた。

とはいえ、上の段落で書いていることは、本質を考えれば違和感だらけである。生徒総会の運営主体は誰かといえば、生徒会、つまり生徒自身である。ということは、教員はあくまでもそのサポートにあたるべきであり、枠組みづくりやらなんやらかんやらを教員主体で行い、それを生徒に委譲していく、という考え方は、自分でも「おかしいな」と思う。ここが私自身の、この2年間の実践の課題である。つまり、生徒総会の、真の意味での運営を、本当の意味で生徒自身の手で構築していく、というところに至らしめることが、生徒総会という学校行事の本来の目的であろう。

そして、生徒自身の手で生徒総会を「運営する」というのは、実は生徒会を構成する全生徒にとって、というよりも、その中からリーダーとして全体を率いていく生徒会役員にとっての成長ポイントであって、生徒会を構成する全生徒にとっての成長ポイントというのは、民主的プロセスを通じて自らのありようについて考えて意見を表明していくという、「参画」の意識を育むところにある気がしている。となると、本来であれば、生徒総会がデジタル化されるというのは、手法の部分が改善されるくらいのものでしかなく、全然本質ではない。むしろ、DXによって享受される「楽になった」とか「余白が生まれた」といった部分を、議論のレベルを高めるところに費やすべきなのだと思う。

思えば、自分自身が教員として生徒たちに関わる中で、彼らに体感して欲しいと思うことの一つに「自分でつくる」というものがあるのだが、それは学校という環境に対しても同じことが言える。自分たちの学校生活は、学校の規則に縛られるでもなく、親や教員から与えられるでもなく、自分たちで作り出していける、という感覚。だからこそ、2020年の生徒総会のプロセスを企画し始めた段階で、生徒会長の口から「自分たちで自由に発言ができる時間を設定したい」という希望が出された時には、たまらなく嬉しさを感じた。きっと、そうした自主性を加速させるうえで、ICTが果たす役割は大きいと思う。

つい私自身も、手法の部分に走りがちである。しかしやはり考えなければいけないのは、なぜデジタル化をするのか、という部分。当然、業務効率化につながり、その効果は絶大だし、紙の削減というのは環境面を考えても大事なことである。ただ、そうした手段的側面での効果の先に、いったいどんな教育的効果を見通すのか。それでいうと、先に提示した5つのステップには、その前に「ステップ0」が存在するだろう。この長文は、最後にそのステップの提示で締めたいと思う。

ステップ0:生徒総会デジタル化の目的を定める

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