ヴァニシング・ポイントを読破して

本を読むのが遅いのは、本を読む癖が無いからだと思っていたのだけれど、それだけじゃないらしい。単に、読むための時間が確保できていないだけなのかもしれない。昨年4月に亡くなった奥山貴宏さんの遺作「ヴァニシング・ポイント」(以下、VP)。手にしてから2度ほど挫折してしてた。ほんの数ページ読み出したくらいで読まずじまいだった。LastExitを読み終わって、先日のジェネジャンSPを見て、いよいよ三度目の正直とVPを読まなきゃと言う思いがして来た。大宮のNOVAに行くための電車の中、新潟に行く新幹線車内、うまい具合に時間を確保する事ができた。そして、小説家・奥山貴宏氏の処女作をいよいよ読みきった。


VPは奥山さんの自伝小説。肺がんを抱えた自身が過去を回想する形で物語が進んでいく。イデイという友人との付き合い、雑誌編集者としての仕事ぶり、この2本柱が時に個別に、時に絡み合って話が展開していく。クラブ、DJ、バイク、オーディオ&ヴィジュアル、雑誌編集裏話などに関する話だけではない。さらにアンダーグラウンドな話題も出てくる。奥山さんの趣味・趣向が満載のストーリーで、故にどこまでフィクションで、どこまでノンフィクションなのか、その線引きができなかった。ガン漂流シリーズの文体そのものだから、そのままガン漂流を読んでいるようなもんだった。
俺自身が今奥手いる生活では触れることのできない世界が描き出されている。「世の中にはこんな世界があるのか」なんてショックを受けた。その割には、情景をイメージできていた訳で、それが余計にショックになったと言うか。ストーリー中盤から、覚せい剤ネタを扱うようになる。快感やクスリが抜けた後の描写が、俺ですらイメージ可能なほどのリアルさだ。そんな覚せい剤ってもんが世の中に出回ってるなんて考えてしまった。そのせいか、大宮なんて場所に行っても少し怖さを感じてしまっていた。社会には、どうやら俺の知らない世界が多すぎる。
しかし、奥山さんが伝えようとしていたのはこんなことではないのは明らかだ。「オレを忘れないでほしい」から本を出し、小説まで書いたんだ。このVPで、奥山さんは自分が生きてきたことの照明をしたかったんじゃないのか、そう思う。命の重さがどうとか、そんな哲学的なことはいっさい抜きにしても、生きるってのを、その時奥山さんが生きていたってのを、大きく感じることができた本だった。
奥山さん、俺、奥山さんのこと忘れはしませんよ。

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