その雪を溶かすほどに

センター試験2日目。不動岡の2年生はほぼ全員がセンター・プレ模試を受けていました。が、僕はその頃、雪国・新潟に。なんでって?この間のMobileDaysにもあるように、西関東アンサンブルコンテストに出場したクラリネット8重奏の応援です。いや、行ってよかった。


その朝は、本来乗ろうとしていた電車を一本のがしてしまった。飯も食わずに家を出た。大宮駅の集合時間の2分前についた電車。ああ、ついたときにはほとんどみんな集合していた。久々の新幹線、上越新幹線に関しては初乗車。わくわくしてしまう。
新幹線はMax二階席。ほぼ2/3を吹奏楽部員で占領する。それなりに騒ぎだす車内。UNOがあったおかげで時間が過ぎるのが早い。俺はVPを読みふける。トンネルを抜けるとそこは雪国。越後湯沢駅から見える積雪量に驚く。「市内は朝から吹雪」と、クラ8のメンバーから聞いていたので、不安になる。しかし徐々に山を下りていくにつれて、雪があまり見られない。新潟駅に着いたが、あまり寒さを感じない。というかあつい。だいぶ重ね着して来たのが失敗だったかもしれない。
新潟駅から上越線で一駅、白山駅。どうやら市や県の中枢部の最寄り駅はこの駅らしい。なんと、Suicaが新潟方面でも使えるようになっていたことにはびっくり。白山駅から3分ほどと言われていたが、歩いても歩いても着かない。どうやら遠回りしていたらしい。何せ40人ほどの集団行動だから、それも原因だったのかもしれない。
会場の、新潟市民芸術劇場(以下りゅーとぴあ)では当日、高校の部と一般の部が開催。すぐ隣にそびえる県民会館では中学の部と大職の部が開催。なんだかそこら辺一体ホールが隣接していておもしろい。りゅーとぴあはかなり新しいホールだ。クラシック用の音楽ホールと、伝統芸能用の能楽堂から成り立つ、素晴らしい設計のホール。地方の公営ホールとしては珍しく、ホール専属の係員がいる。サントリーやNHKホール、東京芸術劇場ならいるが、まさか新潟方面にいるとは。学生がドア係やるよりいい、だって座席まで案内してくれるから。さすがプロ。
演奏はさすが西関東レベル。聞いていて学ぶべきところが多い。やっぱり西関東大会あってそれに向けてかっちり作り上げて来ている印象が強い。アンサンブル力というか、指揮者を介さず演奏する中であわせてくる素晴らしさに脱帽。西関東=埼玉的な考えを持っていた俺。確かに西関東の中で埼玉県勢の演奏は素晴らしい。しかし、やはり山梨・群馬・新潟県勢も、県大会を勝ち上がって来た団体あって研ぎすまされた演奏だった。
りゅーとぴあのホールの作りも、ミューザ川崎をそのままちっちゃくした感じで、残響時間も程よく、ホール全体を響かせることができていた団体もあった。あのホールで吹きたかった、その思いは同行した応援部隊や県大会・地区大会で涙をのんだ他校のチームも同じ。
午前は、パーカッション→金管→Saxの順。昼食をとると、午後はクラリネットからスタート。クラリネットの代表団体も、どこもいい演奏で臨んできた。音色も素晴らしい。徐々に不動岡の演奏が近づく。ここまで相当頑張って来たクラ8。かなりの猛練習をして来た彼女たちのがんばりは、吹部の人間のみならず多くの人間が認めていた。しかしコンクールと言うものはその過程は見てもらえない。本番一発勝負。それでも俺は、彼女たちのがんばりが演奏にきっと現れると信じた。
いつものことながら、客観視で聴こうと思ってもどうしても主観的になってくる。いきなり、ホール全体が響いて揺れた気がした。「うちが1番だろ」そういう思いになってくる。確かに、あのときの演奏は、俺が聴いた「ドゥ・ダン」の中で最も素晴らしい。演奏している8人からオーラさえも感じた。彼女たちに俺は、自分たちが楽しめる演奏を、そして楽しさを会場中にと言い続けた。会場中に、不動岡クラ8の楽しさが広がる思いがした。その雪を溶かすほどの熱い演奏だった、そう感じた。
不動岡の本番が終わり、また他校の演奏を耳にする。やはりレベルが高い。どこの音色も学ぶべきものが多い。午後には一般団体の演奏があった。これは高校生の演奏と比べて差があるように感じられた。やはりそれなりに演奏経験が長いと言うのがあるのだろうか、音のなり方の違いなどに驚かされた。プロの演奏でも聞いているのかと思うほどの奏者もいたように思える。
発表になる。それなりに緊張する。こういってはクラ8のメンバーに失礼ではあるが、どうも結果に関しては冷静になってしまう。それなりに他校の結果を予想していた訳で、それが当たってる打の当たってないだので一つ一つの結果に反応していく。金賞を期待してステージを見る。
「埼玉県代表 不動岡高校クラリネット8重奏 銀賞」「マジで?」という悔しさの思いとともに、「やはり西関東の壁は厚いのか」と思い知らされてしまった。それでいておれ自身それほど悲しむ訳でもなかった。なにしろ俺が金管八重奏やったときの表彰だって、地に叩き付けられるほどの悲しみなんて感じてない訳だから(確かに悔しかったけれど)。
発表後のミーティングで発覚したこと。何と審査員の中には第1位の成績をつけた審査員もいたのだ。それだけ彼女たちの演奏は評価されたのだ。惜しいところで金賞を逃したのは事実だけれど、評価をいただいたことは素晴らしい。というか、羨ましさを感じる。クラリネットにずっと指導をして下さっていたプロの先生に、「アンサンブルは、バンドの一部を取り出してそのバンドを見てもらったようなもの。ある意味このクラリネットはこのバンドの一番いい部分を見てもらったのかもしれない」と言われた。はっとした。確かに、バンドの個々の楽器の音色はそれぞれの楽器が影響し合って創られていく。それに気がつくまでに時間がかかっていたようだ。涙を浮かべていた彼女たち、その悔しき結果を生み出した責任はバンドのメンバーにもある。と思えて来た。でもこの経験は、確実に合奏に生きてくるし、それが生きてくるのがクラリネットだけではいけない。自分たちに生かしていかなきゃならない。
ミーティングの時、タオルで目を押さえていたメンバーの姿を見て、自分の金八を思い出してしまった。悔しかったよな、あのときは。もう一度、せめて県大会で演奏できればって、いまでも考えてしまう。そういう思いを、彼女たちはこれから抱えていくんじゃないのかななんて感じてしまう。コンクールってのは、運動部の試合とはまた違った意味での悔しさが出てくる。運動は、得点あるいは記録との勝負。試合や大会で他のチームや他の選手とぶつかることで勝敗がつく。確かに「もっとトレーニングを積んでおけば」などの悔しさが出るのは当たり前だ。しかし、運動ではそれまでの練習が結果に直接現れる。しかし音楽は違う。それまでの練習過程は演奏に現れる。しかしその演奏を判断するのは人間。それぞれの価値観というものがあり、それの統一というのは難しい。いくらいい演奏をしたと思ってもそれが評価されなければ結果は着いてこない。水物なんだ。故に大事なのは結果じゃないんだと思う。金銀銅よりも、どれだけ自分が表現したかった演奏をして、自分が楽しめたのか、それが真の目標。金銀銅は真の目標を得るためのがんばりにおける目印でしかないのかな。
ホールを出ると吹雪。さらさらな雪を投げ合う部員たち。引率した先生に雪玉を投げつけられる。白山の駅で雪遊び。しばらく電車が来なかったもので。新潟駅でお買い物。新潟のファストフード・イタリアン(焼きそばの上にミートソース)をゲットし、新潟に来た目的の一つを達成する。帰りの新幹線も静かにVP読み。しかし車内は騒がしくなる。
一人になる時間が欲しいのと、せっかくの「土日きっぷ」活用のために東北新幹線で帰る。ゆっくりとした時間の中でVPを読みながら、物思いに耽る。そうして長い1日が終わる。結果的に新潟行きの経験は自分にプラスになった。でもそれがいつかたちになって現れるかは分らない。でも表していかなきゃならないんだね。
最後に、このチャンスをくれたクラリネット8重奏に最高の敬意と感謝を表したい。ありがとう。

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