今の中学校英語がどんなものなのかを知るには、高校入試問題を解くのが手っ取り早いと思いました。
中学校3年間の学習内容が網羅されており、中学校3年間分の学力があれば解ける問題を作っているはずです。学習指導要領から逸脱する事は出来ないはずですから。
今回の研究対象として選んだ県は埼玉県です。私自身も埼玉県立高校出身ですし、受験生だった頃は埼玉県立高校の入試過去問題を解いていましたから。
平成19年度入学試験:最新の入試問題です
平成16年度入学試験:私が受験する予定だった問題です*
平成11年度入学試験:後輩に借りた過去問の中で一番古い問題です
(*→平成16年度入学試験の推薦試験で合格してしまった私は、結局この問題を解いていませんでした)
<平成19年度>
ついこの間実施された問題です。問題は東京新聞ホームページよりもってきました。
大問は4つ。1.リスニング、2.対話文、3.エッセー、4.発想・表現問題 でした。
=リスニング=
まずは対話問題が2つ。1問目は買い物で合計金額を、2問目はスポーツ大会の結果を、それぞれ答える問題です。
次に、途中で切れている対話の続きに適する表現を選択する問題。口語表現、言い回しを問うています。
次に、対話を聞き質問に日本語で答える問題です。インタビュー形式で、その内容を生めていく問題でした。
最後はエッセーを聞いて答える問題。設問が3つあります。質問は放送のみ、答えだけ問題文に印刷されています。
全体的に英語を聞いて理解する力をはかっているように思いますが、細部を見ると、比較表現や様々な状況での言い回しなどを問うています。
=対話文問題=
「英語落語」に関してALTと中学生が対話しています。学校での対話・公民館での対話と、2部に分かれています。
内容と合致する絵・文章を選ぶ問題、内容に関して日本語で記述する問題はもちろん、空所補充や並べ替えなどの文法知識を問う問題もあります。現在完了、未来系、不定詞、熟語でした。
文章自体は難しい文法を使っているわけではありませんでしたが、語数はなかなか多いなという印象を受けました。
=エッセー問題=
ホームステイのホストになった中学生のエッセーでした。内容理解がほとんどでした。内容に適する文章を選ぶ問題、内容に関して日本語・英語で述べる問題、要約文(Eメール文となっています)の空所に適する語を入れる、という問題です。
本文だけで問題用紙1ページ分を使っています。中学生にとってなかなか読み応えのある量だと感じました。
=発想・表現問題=
ALTが日本人の先生に自宅の敷地の写真を見せているという設定です。
JETとの対話の中で文の一部が空欄になっていて自然な会話になるように2語以上の英語を書く、3枚の写真から1枚選んでその写真について5文以上の英文を書く、という問題です。
基本的表現と発想力を問う問題でした。後者の方は、実は僕にとって難しい内容でした。
<平成16年度>
私が受験するはずだった問題です。問題は、東京学参発行「公立高校入試問題シリーズ 埼玉県 平成17年度用」に掲載されていたものです。
大問は4つ。1.リスニング、2.対話文、3.エッセー、4.発想・表現問題 でした。
=リスニング=
対話について、内容に合致する絵を選択する問題が3問。途中で切れる対話の続きを答える問題が2問。対話を聞き、それぞれの対話に関する質問に答える問題が3問。スピーチを聴いて放送で流れる2つに質問に答える問題。全て選択式です。
問題それ自体では文法知識を聞いているようではありませんでしたが、言い回しなどの表現を問う問題はありました。結構な量を聞かせるものだったと思います。
=対話文問題=
ALTと生徒の対話が掲載されています。ほとんど内容理解の問題で、文法的知識を直接問うものは見受けられませんでした。内容に合致する文や絵を答える問題、指示語の問題などです。
対話文だけで1ページ分使っていますから、読み応えのある文章です。学習指導要領で触れられている文法事項や表現事項がまんべんなく使われています。
=エッセー問題=
イルカに関するエッセーです。やはり内容理解で構成されています。内容に関して英文・和文で答える問題、要約文の空所に単語を補充する問題などです。
文章で1ページ分使われています。なかなかの読み応えです。パラグラフは5つです。
=発想・表現問題=
まずは並べ替え問題が2問。食事での言い回し、現在完了の疑問文でした。次は「図書館への道を尋ねる」適切な表現を英文にする問題です。道案内の表現は学習すべき状況設定として指導要領に掲載されていました。最後は「私の好きなもの(人)」について紹介する英文を5文以上書く問題です。発想と表現の力を問う問題です。発想は難しく感じられますね。
<平成11年度>
東京学参発行「公立高校入試問題シリーズ 埼玉県 平成17年度用」に掲載されていたなかで最も古い年度の問題です。
大問は4つ。1.リスニング、2.表現・知識の問題、3.対話文、4.エッセー という感じです。
=リスニング=
当時は「リスニング」ではなく「ヒアリング」と呼ばれていた時代でした。全編にわたってTF問題(放送の内容と選択肢があっている場合にはT、違っている場合にはF)でした。
まずは3問単発で出題されます。短い対話文・短い説明文が読まれ、それぞれに関する英文が3つ読まれます(3つのなかでTは一つだけ)。その次は、比較的長めの対話文が読まれ、内容に関する英文が4つ読まれます。
=表現・知識の問題=
単発で出されます。対話の空所補充が2問、文のアクセント問題が1問、「It」で始まるいくつかの文章を読んでその「it」が何をさすのかを答える問題が1問、まとまった文章を読んで登場人物の所在地を答える問題が1問、指定された状況の電話での会話表現を2文以上の英文で書く問題が1問。文法知識よりも特定の表現を問う問題構成になっていました。
=対話文問題=
内容一致問題、内容について日本語で述べる問題、空所補充問題、内容に関する文章の空欄を単語で埋める問題から構成されています。対話文は1ページ分ありますが、その割に問題数が少ないような気がします。
=エッセー問題=
スピーチの文章が掲載されています。内容合致、内容説明、ディスコースマーカーの空所補充など計5問あります。文章は半ページ分ほどと、そこまで長い文章ではありませんでした。難易度もそこまで高いものではなかったような気がします。
<3回分の比較>
=リスニング=
聞き取らせる英語の量も年をおうごとに増え、問題の難易度もあがってきています。19年度入試ではある程度まとまった英語を聞き取らせる傾向が強いといえます。また、選択肢も様変わりしています。他の年を眺めてみると、TF式は12年度まで、選択肢に絵が採用されたのは14年度から、そして19年度は絵でも文章でもない選択肢(メニュー表と対戦成績表)が使われています。
=対話文問題=
16年度・11年度に比べて、19年度入試では読む英語の量が増えました。設問の傾向はさほど変わりはなく、やはり内容理解に重点が置かれています。ただ、11年度は絵の選択肢がありませんでした。むしろ16年度・19年度の方が、内容を理解する力が求められていると言えるかもしれません。
=エッセー文問題=
読む量は年をおうごとに多くなっている傾向が感じられます。設問中で使われる英語の語数も多くなっています。設問の狙いを考えてみると、最近のものの方が内容の理解力をより求めていると言えます。
=発想・表現の問題=
文整序や空所補充といった形式のものが減る一方、何もないところでいきなり書かせる問題が増えつつあるような気がします。19年度、16年度の英作文は「5文以上」となっており(15年度から)、11年度の「2文以上」と比較してもかなりの量を書かせる事になっています。
=全体的に=
選択肢から選ぶ問題がほんの少しずつ減っていくかわりに、実際に自分で文字を書く問題が増えている傾向にあります。また、読ませる英語・聞き取らせるの量も着実に増えている印象があります。その反面、文法事項や単語力などではなく、表現や言い回しの知識などが問われているようにも思えます。こうなった背景はいくつか考えられますが、「英語」が重要とされていることの現れのようにも思えます。