オケ紀行 日本フィルサンデーコンサートスペシャル

 勤労感謝の日、9時ジャスト。学校へ向かう俺。休みと言えど部活はある。offシーズンと言われているけれど、早々休める訳ではない。
 でもその日、僕は部活をそうそうに切り上げました。電車に揺られ、大宮までいき、行きつけのかにチャーハン屋(大宮のエキナカ)で飯を食い、電車を乗り継いで池袋に出ました。目指すは西口、ガラスの正四面体。東京芸術劇場です。
 以前から購入していた日本フィルのサンデーコンサートスペシャルです。サンデーじゃないのでサンデーコンサート”スペシャル”な訳ですね。「ヒーローはサックス」ってなわけで、サクソフォン奏者・須川展也氏(東京佼成ウィンドオーケストラ・コンサートマスター)を迎えての演奏会です。指揮者はN響アシスタントコンダクターの岩村力氏(実は俺、岩村さんの隠れファンなんですよ)。
 日本フィルのチケットは安い方です。ヤングシート・2200円、この値段でS席以外の座席をどこでも選ぶことができるんです。今回選んだ席は、ステージすぐ脇の一番手前側。言ってみれば、バルコニー席が後ろの反響版ぎりぎりまで迫った感じです(上手く言葉では表現できません)。すぐ目の前にはパーカッションセクションが、身を乗り出してみるとホルンセクションが見える位置で聞きました。

 それでは曲目レビューを続きにて。


アルルの女 第1・第2組曲
 この曲をご存知の方は多いと思います。ビゼーのアルルです。一応全曲CDで聞いたことはあるので、すんなり聞けました。なにげにホルンが活躍する曲でして、ホルンの真後ろにいたので迫力のある音ばかり聞こえてきました。カリヨンの、3つの音のループ、ブラボーでした。フルートセクションにも感動です。第2のメヌエットはいつ聞いても感動です。ファランドールの、踊りのメロディー(たたたたた……)の素早い動き、さすがでした。弦セクションの、鳥がさえずるような動きにも感動です、いつも音ばかりでしたが、演奏する姿に感動でした。やっぱアルルはいつ聞いてもいい曲だわ…ファランドールなんか、めちゃくちゃテンションあがるし。
 須川氏はこの曲をオケナカで吹いていました。当初俺は、特別な編曲で、サックスをソロとするアルルをやるとばかり思っていましたが、そんなことはありませんでした。今まで知らなかったんですが、アルルには最初からアルトサックスが入っていたんですね。どうしてCD聞いて気がつかなかったんだろうか…。第1のメヌエットのソロや、第2のメヌエットの対旋律、さすが須川氏、素晴らしい音色での演奏に感動いたしました。ただどうも気になるのが、須川氏だけ日フィル奏者から浮いて見えたんです。衣装が根本的に違うのはさることながら、日フィル奏者よりもピントした背筋で吹いている印象がありました。日フィルの木管セクションよりもだいぶ動いて吹いていましたね、違う意味でのオーラが漂っていました。

<キャンディード>序曲
 バーンスタインの作曲したこの曲。日本語訳は「ぼんぼん」だそうで。ウェストサイドストーリーの作曲を中止してまでこのミュージカル音楽の作曲に励んだそうです。随所に劇中音楽のメロディーを取り入れている序曲は、特に演奏会のオープニングで演奏される機会が多い様です。
 しかしこの曲、拍子が取りにくい。いや、演奏する訳ではないんですけれど、単純に4拍子でとれないんです。演奏するとなれば難しいでしょうね、以前どこかの学校がやっていた記憶があります。現代クラシック曲としては飛びつきやすい曲だと思います。管楽器がばりばりの曲ですね。
 ラッパを吹いている人がチューバを吹いていました。いや、チューバ吹きが、チューバの無い曲でラッパを吹いていたのかも。とにかくその音は素晴らしく太い音でした、反対側からも確認できる音でした(名前を存じ上げていないのが悲しいところ)。

交響詩 <魔法使いの弟子>
 フランスの作曲家、デュカスの作品です。「魔法使いの弟子が水汲みを箒にやらせたら、止めるための呪文を忘れて、師匠が事態を収拾する」というストーリーが展開される音楽、その通り進んでいった曲でした。シーンを容易に想像することができました。
 この曲は何と言ってもファゴットのメロディーが有名ですね。CMでもよく流れています。実際のところ、僕はその部分しか知らなかったので、全体を通して聞くのはこれが初めてでした。少し不気味な雰囲気と言うか、いかにも魔法の世界らしく、また、食いつきやすいテンポが、いかにも弟子を表している様でした。音源欲しいな。

<ガイーヌ>より レズギンカ、子守唄、ばらの乙女たちの踊り、剣の舞
 ハチャトゥリアンは、アルメニア人だったんですね。どおりで、今取り組んでいる「アルメニアンダンス・パート1(A.Reed)」と剣の舞が似てるように思える訳だ。ガイーヌの中で聞いたことがあったのは、剣の舞だけでした、そう思い込んでいました。
 1曲目レズギンカ。うわ、早い。よくこんなメロディーを吹けるなと、圧倒されてしまいました。「タッタタカタ、タッタタカタ・・・」、4部音符160で、16部音符のオンパレード、木管楽器にとっては地獄の動きでしょうね。テンションあがりました。そういや、誰かピアノで弾いてたっけ。
 2曲目子守唄。剣の舞で登場するような部分がちょろちょろ出てきますね。まさに東欧の民謡チックな曲でしたが、実際に僕の子守唄とはなりませんでした。きれいな、されどどこか不思議なメロディーに、少し引き込まれた様です。なんか、逆に眠れなさそうです。
 3曲目ばらの乙女たちの踊り。完全に舞曲ですね。親しみやすいメロディーでした。メロディーの裏で動くトランペットとシロフォンの音階と言うか、アルペジオと言うか、超絶でした。フリューゲルの音にも感動です。
 4曲目剣の舞。ついに来た!ちょっとまった、打楽器しか聞こえない!座席が悪すぎました。冒頭、「ズチャズチャズチャ…」と弦とスネアとティンパニが入るのですが、位置の関係で弦の後弾きが全く聞こえませんでした。何より、目の前のシロフォンの動きに感動です、ブラバー!須川氏も一緒になって中間部のゆったりの部分を吹いていました(氏曰く、100回以上やってるそうです)。管楽器ばりばり、さすがです。

風のコンチェルト
 須川氏の依頼により、作曲家でサックス奏者の本多俊之氏によって作曲された、世界初演のコンチェルトです。ジャズサックスで用いられている「さわやかな」モチーフを、アドリブではなく、楽譜上に忠実に再現し(かなり楽譜が細かいらしく、岩村氏も驚いたそうです)、かつオーケストレーションもさわやかに仕上げられている曲でした。さすが須川氏、その演奏技能でなければ実現しないコンチェルトとも言える気がしました。
 第1楽章「順風」は、流れるような、まさに風をイメージしたモチーフがサックスから、オケから、あちこちから出てくるようでした。現代音楽らしい、悪く言えば訳の分からない和音もお多かったのですが、さわやかな印象で聞く事ができました。
 第2楽章「風紋」が、僕の中ではお気に入りです。とは言ってもだいぶ演奏の記憶が薄れてきていますが、ソロとオケのテュッティや響きに感動を覚えました。ソロとオケが一体になっているような印象を受ける楽章で、僕としてもおすすめです。
 第3楽章「新風」。ラストに待ち構えるサックスの大ソロ(オケは無音)は、ジャズの技法がじゃんじゃん飛び出す物でした。須川氏の実力を見せつけられたような気分でした。あれが全て忠実に楽譜になっていることを考えると、本多氏の能力にも拍手を送りたくなります。
 ぜひCD化してほしい曲でした。

 大変有意義なコンサートでした。一度はサックスにあこがれを抱いた身としては、たまんない演奏会でした。帰りに、トルヴェール・クァルテットの田中氏(バリトンサックス奏者)に遭遇しサインをもらったり、須川氏と握手したりと、なんだか得した気分になりました。
 次はそうすると、いよいよ年末恒例の第九ですね。2度目の都響の演奏会、会場はまた芸劇、座席は今回の真向かいの席です。楽しみです。

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