大学院修士1年生となったものの、特別休講期間となったSFC。この期間に「社会貢献活動」を行い、フィールドワークとして研究報告に結実させると、単位がつくことになりました。早速、私もその制度を利用してフィールドワーク科目の研究計画を書いた。
ざっくり言うと、震災から2日経たずにおなじSFC生の鶴田くんと、彼と一緒に免許合宿に行っていた西尾くんという2人が立ち上げたサイト「prayforjapan.jp」の翻訳プロジェクトの運営改善を行うことを目的として、多言語による震災支援情報サイトを調べていく、という研究。すごく価値があると思っている。その想いを吐露するだけの時間はないので、とりあえず研究計画だけ載せる。
なお、今後はこのカテゴリのなかで、フィールドワークの情報をちょくちょく載せて行く(かもしれない)。
フィールドワーク/インターンシップのテーマ
ソーシャルメディアによる震災情報提供の多言語化 〜多言語化のポリシーと翻訳ボランティアの視点から〜
研究課題・活動内容
本調査では、2011年3月11日の震災を受けてインターネット上で展開された情報提供サイトや被災者に向けたメッセージサイトにおいて起こった多言語化の動きを、1) サイト自体のミッションと 多言語化のポリシー、2) 情報提供における利用メディア、3) 翻訳ボランティアの運営体制、という面から調査・整理する。また、この調査で得た知見を、申請者が運営に携わっている震災メッセージサイト「prayforjapan.jp」の翻訳プロジェクトの運営改善に活かし、その上で「prayforjapan.jp」自体を一つの事例として、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを活かした翻訳ボランティアのあり方について提言する。
今回の調査で対象とするWebサイトおよびコンテンツは、1) 震災に関連する情報の提供・ないし応援メッセージの掲載(以下、両者をまとめて情報提供とする)をしているもので、2) 日本語を含めた2カ国語以上でサービスを展開しており、3) それらの多言語化をTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを使って複数のボランティアが取り組んでいるもの、を対象とする。なお、対象は、日本語から外国語に翻訳した外国人向けの情報提供に限定することなく、むしろ外国語による情報やメッセージを日本語に翻訳するサービスも含むものとする。
本活動は、主に3つのパートに分かれる。一つ目は、多言語で情報提供を行うサイトに関する調査である。具体的方法としては、サイトの収集と特徴の記述・整理、サイト管理人や翻訳ボランティアへのテレビ電話ないし対面式によるインタビューが挙げられる。二つ目は、「prayforjapan.jp」に関する特徴の整理と課題設定である。このサイトは申請者が運営者の1人として関わっているサイトである。詳しくは活動目的の項で触れるが、このサイトでは多くの翻訳ボランティアが関わっており、本研究では単に自身が認識している特徴と課題について整理するにとどまらず、そうした翻訳ボランティアに対してインタビュー活動を行う予定である。三つ目は、前述の2つのパートから得られた知見を活かした「prayforjapan.jp」の運営改善である。特に、1) 翻訳ポリシーの再検討、2) 翻訳作業における言語展開とボランティア募集、3) 翻訳作業自体の改善、4) 翻訳版コンテンツを被災地に届ける方法の検討、を実施する予定である。
当該研究・活動の目的
本研究は、東北関東大地震という未曾有の災害にあたって自然発生的に起きた多くのプロジェクトのうち、とくにインターネット上に多言語で情報やコンテンツを掲載しているサイトについて調査するものである。この調査で得られた知見を、緊急時の情報やコンテンツを多言語で提供するための情報プラットフォームの構築に役立て、また知見を活かして、緊急時におけるソーシャルメディアを活かした多言語による情報提供や翻訳ボランティア体制のあり方について提言することが活動の目的である。
震災を受けて、インターネット上では、さまざまな情報やメッセージを多言語化して提供するプロジェクトが起こっている。真っ先に起こったのは、被害状況や交通・ライフライン情報、安否などの情報提供サイトである。続いて起こったのは、海外から寄せられるメッセージや、日本国内で話題になった“いい話”、国内の被災者からのメッセージなどを集めたメッセージサイトである。これらのプロジェクトの特徴は、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアが用いられ、即座に・多くの人々が参加することによって翻訳がなされたことであると理解している。一方で、関東地方に比べて東北地方の被災地は電話回線やインターネットの普及が遅れ、こうしたプロジェクトによる情報やメッセージの提供が十分に行き届きにくくなったという課題があると理解している。
そうした特徴や課題は、筆者が翻訳プロジェクトのまとめ人を務めている震災メッセージサイト「prayforjapan.jp」においても見られると認識している。「prayforjapan.jp」は、Twitterなどで話題になった「心に残るつぶやき」を収集し掲載するコンテンツを提供している。その目的は「今もなお避難生活を余儀なくされている方、不安に押しつぶされそうな方に、すこしでも勇気をもってもらえたらと思い、このメッセージを受け取ってもらう」こと (サイト上より引用)である。申請者は、サイトが出来て2日ほど後に、多言語に翻訳する試みを、Facebookなどを通じて開始した。現在までに、日本語を含む12言語で展開されており、翻訳スタッフ数は総勢30余名となっている。またFacebook上では5万人以上が「いいね!」ボタンによって賛同の意志を示している。課題としては、実際にこれらのコンテンツが被災地の外国人に届いているかどうかのフィードバックを得ることが出来ないこと、その一方で世界から翻訳ボランティアを申し出る人が増えすぎたためにプロジェクトをうまくまとめることが出来ないこと、などが挙げられる。
申請者は、この「prayforjapan.jp」を、震災支援活動の一つのプラットフォームと位置づけており、被災者のみならず、非被災者である人々を勇気づける、「心のケア」の形態の一つであると考えている。そしてこのサイトが多言語化されることは、1) 海外の人々に、日本が被災後も人々の暖かさで満たされていることを示す、2) 日本に住む外国人に、彼らの一番理解しやすい母語によって、安心感を与えるメッセージを発信する、3) 被災地の日本人に、海外から寄せられたメッセージを届ける、という意義があると考えている。またこの翻訳プロジェクトが、Facebookなどのソーシャルメディアを介して多くのボランティアによって支えられていることも、震災支援活動のプラットフォームとして大きな意味を持っていると考えている。
この「prayforjapan.jp」の軌跡を学問的視点から記述することだけでも、ソーシャルメディアを活かした多言語による情報提供や翻訳ボランティア体制のあり方について提言することに資すると考えられる。しかしすでに述べた通り、このサイトにおいてもまだまだ乗り越えるべき課題が多い。そうした課題を改善する上で、多言語で情報やメッセージを提供している他のサイトについて整理し、参考とすることは今後のサイト改善において必要である。またそうした他のサイトの事例を整理すること自体も、多言語による情報提供や翻訳ボランティア体制のあり方について提言する上では必要なことであると考えている。
修士課程全体の研究における当該研究・活動の意義
本研究は、プログラムとの関わりにおいて大きな意義を持っている。なぜなら本調査活動は、未曾有の大災害におけるヒューマンセキュリティとしての言語が果たす役割を考える上で重要となる知見を得ることが出来ると考えられるからだ。
震災直後は、東北被災地はもとより、首都圏においても携帯電話がつながりにくい状態が続き、停電の影響でテレビも見ることが出来ない状況が続いた。日本語母語話者でさえも安否確認や被害情報を得るのに苦労し、心細い時間を過ごしたのであるから、日本語の理解が十分でない外国人はより強い不安を覚えたに違いない。そうした外国人向けの情報は、既存のメディアで言えばラジオの外国語放送などによってもたらされた。しかし、これまでに比べて、今回の大震災では、電話やメールが通じにくいなかでも、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアサイトは携帯電話からでさえも比較的安定して利用でき、これらが情報の収集源として一定のインパクトをもたらしたのである。そして実際、外国人向けの情報がソーシャルメディアを用いて発信されるような動きが起こった。
災害時に情報提供をする上での多言語環境の必要性が試される場面において、ソーシャルメディアを活用するという動きはこれまでになかった動きとして注目に値する。身の安全を守るための言語使用のあり方を考え、ヒューマンセキュリティとしての言語という考え方を深める上では、本調査活動で事例を示し、新たな知見を得ることは有意義なことであると考えている。
また、申請者自身の個人研究テーマにも有意義な知見をもたらすと考えている。申請者の修士課程における研究は、公教育における外国語の学習目的を、個別言語に依拠しない普遍的なコミュニケーション能力の習得のために行うものと捉え、事例を通じて学習者が普遍的なコミュニケーションの方略的能力と態度をどのように育んだかを明らかにするものである。人が外国語を学習する目的や意義と学習達成度の関係については、動機づけ研究において多くなされている。申請者自身も研究のなかで、動機づけ研究から得られる知見を重視しており、また今後申請者が教員となった際に、いかに学習者を目的的に学習させるかは非常に重要であると考えている。
本調査において事例として扱う「prayforjapan.jp」の翻訳ボランティアは、基本的に日本語と当該外国語を読み書きできる多言語話者である。大まかに7割が日本人、3割が当該言語話者の外国人である。彼らは2言語以上を習得し、その能力を今回の震災支援に活かしたいとボランティアを申し出たのである。この、言語能力を震災支援に活かすという思いは、外国語学習の動機づけの一つとなりうるのではなかろうか。こうしたことを含め、翻訳ボランティア達から、彼らのプロジェクトとの関わりに関する個別のストーリーを集めることで、学習動機づけの新たな側面を見出す可能性があり、この点において、筆者の修士課程全体における研究に十分寄与すると考えられる。
期待される成果
今回の調査活動は、中核事例の実践そのものが支援プラットフォーム構築という成果を生むことになる。それだけでなく、本調査によって得られた知見は、外国人との共生、言語習得と活用、言語を通じたボランティアのあり方、という3つの領域について、研究や政策形成に対して示唆を与えることとなると期待できる。
一つ目の、外国人との共生、という領域について考えると、在日外国人を対象とした言語面からの震災支援コンテンツが少なからず展開されたということが、外国人に対する言語的支援の必要性を顕在化したと言っても過言ではない。今回の調査の結果が、災害時に限らずとも外国人への言語面からの情報支援や心のケアが必要であることを示すのではないだろうか。
二つ目の、言語習得と活用、という領域については、すでに述べた通り、未曾有の大災害に接して、言語を操る能力を「困っている人を助けることに使いたい」という動機を高めた人が多いと言える。今回の調査の結果は、こうした動機づけの存在を、言語教育の現場に根付かせるための一歩となりうるだろう。
三つ目の、言語を通じたボランティアのあり方、という領域については、今回調査するサイトやコンテンツは、ソーシャルメディア時代における言語によるボランティアの新しい事例であると言える。調査および中核事例での実践が、言語によるボランティアのとりまとめや実施の方法に示唆を与えることになるだろう。
研究・活動計画(日付ごとに具体的に)
現段階で、実地活動を想定した調査を行う予定がないため、以下に調査活動と中核事例の実装活動の2つについて3期に分けた活動想定を記す。
日程 | 調査活動 | 実装活動 |
研究第1期
4月11日 ↓ 4月17日 |
・ 多言語による情報提供を行うサイトの調査
・ 各サイトの運営者に対する調査インタビュー依頼 ・ prayforjapan.jp翻訳ボランティアに対するインタビュー依頼 |
○ 言語ボランティアと翻訳言語の拡大
○ 現状の翻訳体制のマネジメント |
研究第2期
4月18日 ↓ 4月24日 |
・ 各サイトの運営者に対するインタビュー調査活動 (各人1時間程度、対面式あるいはSkypeによる実施) ・ prayforjapan.jp翻訳ボランティアに対するインタビュー実施 ・ 各サイトにおける翻訳ボランティアへのインタビュー依頼 |
○ 翻訳プロジェクトのポリシー策定
○ 翻訳作業の実施方法改善の検討 |
研究第3期
4月25日 ↓ 4月30日 |
・ prayforjapan.jp翻訳ボランティアに対するインタビュー実施の継続
・ 調査対象サイトの翻訳ボランティアへのインタビュー実施 ・ 調査結果(主にインタビュー内容)のまとめと各協力者への確認 |
○ 被災地の外国人へのコンテンツ提供方法の検討
○ 翻訳作業の方法改善の実装 |
研究報告を含む場合には、報告内容の要旨
本研究では、2011年3月11日に発生した東北関東大震災を受けてインターネット上に展開された、多言語による情報提供サイトやメッセージ収集サイトの調査を行い、そこで得られた知見を活かしながら、実際に多言語によるメッセージ翻訳プロジェクトの運営と改善を行った。本研究では、中核事例としてTwitterなどのソーシャルメディアで話題になった「心に残るつぶやき」を収集するprayforjapan.jpの翻訳プロジェクトを中核事例とし、運営・改善活動を行うだけでなく、これに資する知見を得るために、前述のサイトに従事するボランティアや、その他情報提供サイトの運営者・従事者に対してインタビュー活動を実施した。
本報告書では、まずprayforjapan.jpについて特徴や課題点をまとめた後に、ソーシャルメディアを活用して震災関連情報を提供しているいくつかの事例について、特徴の整理や関係者インタビューの結果を掲載する。次に、prayforjapan.jpにおいて運営者や翻訳ボランティアとして従事している人々から集めたインタビュー結果をまとめる。そして、それらの調査結果を、どのようにprayforjapan.jpの翻訳プロジェクトに活かし、運営・改善を行ったかについて述べた後に、最後に今後の多言語による情報支援プラットフォームづくりとそのボランティア体制構築についての提言を述べる。
ピンバック: 石巻レポート – 0.プロローグ 〜どうして行ったのか〜 - enshino Archive