オンライン学習のよもやま:③クラウドサービスについてぐじぐじと考えている

児童生徒に家庭学習を課す際や学習状況の把握を行う際には、ICTを最大限活用して遠隔で対応することが極めて効果的であることを踏まえ、今回が緊急時であることにも鑑みると、学校設置者や各学校の平常時における一律の各種ICT活用ルールにとらわれることなく、家庭環境やセキュリティに留意しながらも、まずは家庭のパソコンやタブレット、スマートフォン等の活用、学校の端末の持ち帰りなど、ICT環境の積極的な活用に向け、あらゆる工夫をすること。

通称「文科省通知」(正式には「新型コロナウイルス感染症対策のために小学校、中学校、高等学校等において臨時休業を行う場合の学習の保障等について(通知)」)において、「いいからジャンジャンICT学習やれや」とでも言わんばかりのお達しをいただいたのだが、その頃には実は僕のオンライン学習熱はやや冷めていた。冷めていた、というよりも、足元からできるところをやっていこうと思い至った、というのが正しいのかもしれない。

そんな最中に行われた文科省の動画配信「学校の情報環境整備に関する説明会」で、担当課長が強い語気でこんなスライドを出したからたまげた。

Youtube動画からキャプチャしました

オンライン化は、待ったなしなんだというなか、「うまいこと、しれっとやる」の精神で、いろんな情報を収集したし、いろんなことを考えたし、いろんなことを実践している最中である。自分の記録として、バラバラと、残しておこう。

今回は、1人1アカウントのクラウドサービスについて、ぐるぐる考えていることを書いた。長くなりすぎてしまった。ごめんなさい。


クラウドサービスはいろいろあるけど2サービス以外の情報に乏しい件

さて、最近のもっぱらの興味関心は、どのクラウドサービスを利用するかである、ということは前回の記事でも書いたとおりである。しかしそれは学校判断で導入できる話でもないし、いやむしろ学校判断で導入してしまうと、後がめんどくさいことになると思う部分もあるので、「入れてくれ」と言うに言えないところもあるのが正直なところである。それで、調べるばかりが先を行き、頭でっかちになっている日々である。

ところで、「どのクラウドサービスを利用するか」問題は、いいかえれば「どのLearning Management Systemを導入するか」問題であり、はたまた「どのコミュニケーションプラットフォームを導入するか」問題でもあるため、そう捉えると選択肢は一気に増える。しかし、この豊福先生の記事を参照すると、1人1アカウントのクラウドサービスは4つの条件を満たす必要があり、豊福先生曰く、「全てを満たす選択肢(事業者)は実質2つしかない」とのことだ。

  1. 学校公式のメールアドレス
  2. 情報端末(GIGAスクール構想等)と個人利用者との紐付け・機材管理
  3. 学校公式のクラウドサービス(G Suite・MS Office365等)の利用認証
  4. 学校公式の学習サービス(まなびポケット等)の利用認証

1〜4のすべてを満たさないにしても、生徒と教員が、プライベートと切り離した学校用のコミュニケーションチャネルを持ち、課題のやり取りや質問のやり取りを行い、あるいは生徒同士がコラボレーティブな学習を行い、学習に関するデータをストックしていける世界観を実現できるサービスはいろいろある。それはわかっているんだが、なかなか知見がたまらない。Edmodoとか、Classiとか、ロイロノートとか、まなびポケットとか。

しかしどうしても、豊福先生のいう「実質2つしかない」事業者のサービスのことばかり頭に浮かぶ。なぜならそれらは、過去にわたし自身がユーザーだったからに他ならない。すなわちそれは、GoogleのG Suite for Educationと、MicrosoftのOffice 365 Educationだ。実のところ、私はこのenshino.bizというドメインを用いてG Suiteを運用している(昔、無料だった間にGoogle Appsを設定してGmailを独自ドメインで運用してきた)し、つい最近Office365をお名前.comで購入して独自ドメインを利用できる様に設定したくらいだ。

ちなみに文科省のGIGAスクール構想における基本パッケージを見ると、ここにAppleのiPad OS向けAppも入ってくるのだが、いかんせん情報に乏しく、いよいよGかMかという話になってしまう。もっと幅広い可能性から検討すべきなので情報がもっと欲しいのだが、なかなか入ってこない(入れるための情報と、それを受け止める受容体との、両方の面から)。日本の学校なんだから日本のベンダーが作ったものを、というのもわからないもないが、クラウド環境でサービスを展開する件の2強は、やっぱり強い。

まぁそのようにぐだぐだ言ったところで、私の考えはあくまでも一教員の意見にしかすぎず、もっといえば、GかMかなんて、好みの問題でしかない。細かいところでの差異は実際にあり、それは追々書いていこうと思うのだが、どちらのサービスにせよ、入ればめっちゃ便利なのだが、入れるまでがめっちゃ大変であり、また慣れた私からすればめっちゃ楽なのだが、慣れていない人からすれば慣れるまでがめっちゃ大変である。今日はこの「入れるまでがめっちゃ大変」という話をしたい。


私としては学校単位導入じゃなくて委員会単位で導入していただきたい

なぜ私は前述で、1人1アカウントのクラウドサービスを導入する際に、「いやむしろ学校判断で導入してしまうと、後がめんどくさいことになる」と言ったのか。その理由を紐解いていこう。

公立の学校で働く教員は、都道府県の採用試験に合格した教諭である場合、採用主体=人事異動の単位が、都道府県ならびに政令指定都市の教育委員会だからだ。または、義務教育の学校の設置者は基礎自治体、高校の設置者は都道府県ならびに政令指定都市の教育委員会だからだ。言い忘れたが私は臨時的任用の常勤講師だが、一応都道府県に採用されていることになっている。

学校単位で導入してしまうと、その学校に在籍する児童生徒および教職員にアカウントが割り当てられるわけだが、教員は異動が発生するわけで、異動になったら前任校のアカウントで保持してきたメールや各種データを手放して、一から新任校でのデータを構築せねばならなくなる。それはあんまりクールとは思えない。

それならば、本当なら都道府県教育委員会単位で、せめても基礎自治体の教育委員会単位で、1人1アカウントのクラウドサービスの導入がされているほうが、教員の異動問題だけでなく、下手すれば児童生徒も進学してもIDを持ち越せるかもしれない。学校設備予算にかかる権限を考えても、あるいは管理者ロールとポリシーの引き継ぎのことを考えても、正直私は学校単位よりも教育委員会単位の導入の方が望ましいと考えている。

いや、別に学校単位の導入を否定したい訳じゃないし、このコロナ休校の状況下で、いろんな反対勢力を説得しながら、学校内で提案をしまくり、GまたはMのクラウドサービスの導入にこぎつけた先生方もたくさんおり、それが先進事例になったことを考えれば、その先生方の成果は喝采に値する。一方で、導入にあたって頑張った先生が異動しちゃうと、誰がその管理を引き継ぐかというのは大きな問題になる気がしている。

いろんな事例を聞いた。

  • 市内の先進事例としてG Suiteを導入するためにいろいろ動くなかで、ドメインについては「どうせ年1,000円程度だしね」といって担当教員がドメインを取得しちゃったという学校。
  • 校内でクラウドサービスを利用したく、GかMか、ぶっちゃけどっちでもいいというなかで導入準備をして行ったが、G Suiteを導入する際に必要になるドメイン取得において、クレジットカードで決済することが校内での支出ルールに引っかかるため導入を断念し、導入時にMSが用意したドメインを選択できるO365を導入した、という学校。
  • 検討時点でG Suite一択で導入に向け動いたが、ドメイン取得からDNS設定、G Suite側での設定にアカウント発行までをICT支援員に任せた、という学校。

こういうのを苦なくこなせるのであればいい。むしろ私は大好きなので自分自身は管理者になりたい方の人間だが、こんなオタクは教員のなかでもマイノリティだ。ここ半年の間にも私は、学校のネットワークを管理する会社と何度か電話でやりとりし、DHCPだのSSIDだのNASだの横文字を並べまくり、同僚が「あの略語はなんだクイズ」をしていたのだが、そんな奴は普通学校にはいなかろう。となると、管理単位は教委レベルのほうがいいんじゃないかと思う。

だから私は、動くに動けず、ぐじぐじしている。ただ、知識が増えるばかりである。


いろいろ懸念はあるかもしれないけれど、頼むから早く導入してくれ

ある同僚の先生と話になったのは、「小学生には1人1アカウントのログインは無理だよ」と。まぁ低学年なら厳しいのかなと思いつつ、けれどそれも慣れの問題なんじゃないかとも思う。結局、オンライン学習の成否は、児童生徒の、日頃のICTサービスとの接点、あるいは学校での学習の文脈でICTサービスを利用した経験があるかどうかに寄っているなぁ、と思うようになってきている。

コロナ問題が収束しても、GIGAスクール構想の波は止まらないわけで、否が応でも使わざるを得ない。ということは、しのごの言わずに慣れてもらうようにせねばならんのだとも思う。じゃぁそのためには教員は何をすべきかといえば、前の記事でも書いたとおり、クラウドサービスの特性を知り、どんなことが学習活動で生かせるかを考えることだと思う。

システムは人の行動を規定するというのが持論だ。となると、特定目的のために作られたツールを使うと、そのシステムの範疇のなかでしか行動ができなくなる。となれば、利用するツールはできるだけ汎用性の高いものを用いるべきだと思う(これは、アカデミーキャンプのデジタルオリエンテーリングをやったときに、Twitterを学習ツールに用いたことでそう思うようになった)。汎用性の高いツールは、なんでもできちゃうのでいろんなやり方を思いつける自由度があるが、その分機能を分かっていないとやりたいこととつなげて思考することができない。

別に私は、元会社員であることを振りかざして、「社会で用いられているツールを学校でも使わないなんてナンセンス」とは言わない。というか、そこでいう「社会」ってなんだよ。なんで学校が社会に迎合しなきゃいけないんだよ。話はそういう問題じゃなく、とにかく便利なものを使おうよ、って話なわけで。例のGかMかに限らず、クラウドの世界観が便利だから、それを使いたいんだ、って話なわけで。事実、私の知人にたまたま多かった、埼玉県教委下および神奈川県教委下の公立高校では、G Suiteアカウントがあって、むしろ助かったと言ってる先生も何人かいる。

長くなったのでついでに触れておくと、「セキュリティが」というワードを出す人がいると思うが、その「セキュリティ」という言葉の思考停止感ときたら。そこでいう「セキュリティ」とは何を指すのか。個人情報とはどこまでを指すのか。「危険なこと」とはどんな事象を指すのか。たまたま知人に勧められたアニメ「ソマリと森の神様」では、「人間は未知のものに出会うと駆逐を試みる」と言っていたが、私は「セキュリティ」という言葉を思い出した。


さいごに

まぁいろいろ言ったが、なにはともあれ私は、はやいところ1人1アカウントのクラウドサービスが、自治体レベルで導入されないものかと首を長くして待っている。どのサービスがいいかについては、まだ定まった考えがないので、そこは別記事でまた書こうと思うが、やっぱり前回の記事同様、GIGAスクール構想の肝は、クラウドサービスの利用だという考えは曲げないつもりだ。

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