オンライン学習のよもやま:④Google FormsとMicrosoft Formsって何が違うのか

コロナ禍における学習保証の話と、GIGAスクール構想の話とが相まって、オンライン学習がいろいろ騒がれている。それについてよもやまを書き出しているシリーズも4本目になった。前回まで同じ前書きを使っていたが長いのでやめた。代わりにこのスライドだけは出しておく。

Youtube動画からキャプチャしました

文科省の動画配信「学校の情報環境整備に関する説明会」で、担当課長が強い語気でこのスライドを出した時の「たまげた」感はいまだに印象深い。オンライン化は、待ったなしなんだというなか、「うまいこと、しれっとやる」の精神で、いろんな情報を収集したし、いろんなことを考えたし、いろんなことを実践している最中である。自分の記録として、バラバラと、残しておこう。

いつもの癖で長い文章だから過去3本もほぼ反響を得ないが、今回は通常通りマジで長いながらも、すごく役立つ(と自画自賛する)比較記事を書いてみた(全部テキストで)。Google FormsとMicrosoft Formsを、オンライン学習における「クイズ機能」に着目して比較した。結論は、「どっちもどっち」だ。



まず先にチェックテストの実装じゃないかと疑ってやまない

クラウドサービスを利用したオンライン学習においておさえておくべき一つの機能は、「アンケートフォーム」のクイズ機能利用によるテスト実施だ。これは、オフラインとオンラインとでは学習のパラダイムがまるで違うとはいえ、チェックテストを行うというプロセスは絶対になくならないことを考えれば、オフラインからオンラインへのシフトを図る上でまず先に検討すべきところだと思う。なぜみんな授業そのもののオンラインシフトに行こうとするのか。

テストの話が出たからちょっと言っておきたい。テストというのは本来、序列をつくったり関門としたりするものじゃない。「これは知っておいてね」という学習項目のうちどれくらいを習熟しているかを測るもの、いいかえれば、いまどの辺の立ち位置かを判断するものでしかない。「AIによる学習の個別最適化」派にせよ、「自律的な学習者の育成」派にせよ、立ち位置がわからないことには話が始まらない。いやそこに、「望ましい学習到達点をおくパラダイムなんてもう古いじゃん」とかいう議論を持ち出されるとさらに本論からずれるのでいったんおいておく。

さてフォームの話だ。フォームは、アンケートとしての機能をベースに作られていることが多いので、休校中であれば、たとえば健康観察とか、最近の困り感とかを聞くのに適している。あるいはこれを市中では、申し込みフォームに用いる人もいっぱいいる。他方ご存知と思うが、Google FormsとMicrosoft Formsではそれぞれ、質問に対して配点をし、選択肢問題では正解を設定しておけば自動的に採点をしてくれる、という「クイズ」機能がある。これがオンライン学習ではかなりミソになると思う。私もそれで任意課題のチェックテストを実装しているのでこちらを見て欲しい(どれだけ利用されているかの話はまた後で書く)。また実践例を聞けば、Formsに動画を埋め込んで、自律学習用教材+反転学習への準備を実装しているという例も聞く。

ちなみに、個人的に私が一番好きなフォーム系のプロダクトは、マクロミルのQuestantだ。好きというか、愛している。前職の会社が作ったプロダクトだからこそ、愛も一入である(ひとしお、と打ったら一入と変換されて勉強になった)。フォーム作成の自由度と、回答のUIと、単純集計や簡易クロス集計の機能と、アンケートフォームという機能においては、愛が故の手前味噌ながら、およそGoogle FormsやMicrosoft Formsよりも数段上だ。素晴らしすぎるプロダクトなだけに、前職の最後に、NPO団体なら無料で使えるプランを社内で導入した。ぜひ、心から使って欲しい。


おおまかな部分ではG FormsもMS Formsも大差がないと思われる

しかし残念なことにGIGAスクール構想における1人1アカウントのクラウドサービスという世界観においては、QuestatのUXはG FormsやMS Formsに及ばなくなる。なぜなら、1人1アカウントの世界観ではIDと個人が紐づいており(当たり前だが)、そのユーザーが同一プラットフォーム内のFormsを利用すると、本人は自分の名前とかクラスとかを記入しなくても個人IDが回答記録に残るのだ。当たり前の話だがこれは大きい。なりすましも容易ではないし、答える側にも手間にならない。地味だが大事な機能だ。そしてこれは両者に共通する。

そしてもう一つ。G FormsならChromebookで、MS FormsならWin10で、それぞれ実現する話だが、各Formsのクイズ機能において、ロックモードを設定できる。いいかえれば、ブラウザベースで動いているクイズフォームを開いている際に、他のタブやアプリを起動できない、という機能だ。2019年の末にGoogle社のハンズオンセミナーに行き、Chromebook+Formsの組み合わせでロックモードを見た時には「まじか!カンニングできないのか!」とえらく感動し、この機能が使えるならG Suite一択だろう、と思っていたら、調べたらMS Formsでも同じことができる環境があり、GかMかでは差分がないことがわかった。どちらにせよこの機能は、案外知られざる機能ながら、結構でかい機能だと思っている。

ぶっちゃけ、設定できることや設問タイプなどは、微妙な差異はあれど、G FormsもMS Formsも大差がない。ユーザビリティも「慣れ」の問題だとも思う。ついでなので書き出しておくと、

  • G Formsでは、単一回答ラジオボタン(SA)・複数回答チェックボックス(MA)・単一回答ドロップダウン(SA)が別の設問タイプとして設定されているが、MS Formsではそれらがひとまとまりになっていて、設定側から見え方を変更する形になっている
  • G Formsのマトリクス設問では、各行単一回答も各行複数回答もどちらも選べるが、MS Formsの場合には各行単一回答しか選択ができない
  • G Formsではスケール回答が単に1から最大10までボタンで並ぶだけだが、MS Formsでは星回答、さらにMS Forms Proでは顔文字回答ができ、さらにNet Promoters Scoreの設問テンプレも用意されている
  • G Formsでは日付設問と時刻設問がそれぞれあるが、MS Formsには日付設問しかない
  • G Formsでは、とある設問の回答に応じて「セクション」への分岐をすることができるが、MS Formsの場合にはそれを設問レベルで分岐させることができる

といったあたりだ。最後のは地味に効いてくる部分もあるだろうが、ぶっちゃけそこまで差にならない。ちなみにQuestantはこの辺の部分は見事に全て網羅されているからフォーム機能としては最強だと言い切りたい。


んじゃ何が違うのか

じゃぁ大差がないのかというと、それはちがう。クイズ機能を用いる教員サイドからすると、結構大きな機能の差が両者にあって、それだけにどちらを使うかは悩ましくなる。正直私は、G Formsを多用しているのでそちらに偏っており、MS Formsは実験程度にしか使っていないのだが、それでも以下の4点が、主要な差分になると思う。

①MS Formsでは、綺麗に数式を入れることができる

正直、これがMS Formsへの決め手になりうると思うくらい、この機能は魅力的だろう。たとえば、xの2乗を、普通の平文テキストで表記すると x^2 と表記するわけだが、こんなん児童生徒からすれば意味がわからない。ちゃんと、xの隣に上付きで2を表示してくれよ、なんならxも数学で習う書き方にしてくれよ、と思う。これをG Formsで綺麗に表示させようとすれば、問題ごとに画像を生成する必要がある。まじでめんどくさい。一つのチェックテストを作る上でフォルダに何個データを生成せにゃならんのだ。

そこへいくとMS Formでは、テスト機能(MS Formsではテストとよび、G Formsではクイズと呼ぶ)を利用する際に、数式エディタを利用することができる。これを利用すれば、乗数も分数もルートもシグマも絶対値もカッコも使える。これで仕事が減る人も多くいるはずだ。めちゃくちゃ便利だと思う。私は英語教員なのでこの機能において大したうまみはないのだが、地味に助かる人がいるんじゃないかと思う。しかもこの数式入力機能は、出題者が設問に対して数式を入力できるだけでなく、解答者が解答欄に数式で入力ができるように、解答欄に触った段階で数式エディタを表示させるようにすることができるからすごい。

②G Formsでは、フォームでもクイズでも、回答をスプレッドシートにストックできる

G Formsで回収した回答は、フォームの「回答」タブから単純集計と個別回答を見ることができるが、それをスプレッドシート上にリアルタイム追加していける。この実験サイトで実装している、G Forms + G Sheets on G Site による生徒からの質問受付システムは、生徒からG Formsで寄せられた質問を自動的にSpreadsheetに書き込ませ、そのシートに教員からの回答を追記していき、そのSpreadsheetをG Siteに埋め込んで見れる様にしている仕掛けだ。

ここで「リアルタイム追加」と記載したのは、その時点までに回収された回答を随時あつめてファイル化する「エクスポート」や「ダウンロード」とは若干訳が違うのでそのように記載した。フォームへの回答があったそばから、各回答とタイムスタンプをスプレッドシートに書き出していってくれる。しかもそのスプレッドシートは新規にファイルを作成することもできるし、既存のファイルの別シートに加えることもできる。この機能はG Formsユーザーからすれば「あたりまえだよね」と思うかもしれない。ちなみに、単なるフォームだろうと、クイズでの運用だろうと、どっちでも書き出せる。

ではMS Formsではどうかというと、これがうまくできない。もう少し突っ込んで書くと、

  • MS FormsのWeb Appからフォームを作成すると、データはエクスポートになる。つまり、エクスポートボタンを押した時点でのデータが生成されてダウンロードする形式になり、OneDrive上のエクセルシートにリンクができない。
  • ブラウザで稼働するExcel Web AppからExcelファイルを作成し、そのタブから「フォームを作成」にすると、フォームの回答データとエクセルをリンクでき、随時回答がストックされる。ただしこの手順で作成できるのは「フォーム」だけで、「テスト」つまりクイズ機能は生成できない。
  • つまりクイズ機能はどうやってもクラウド上のエクセルシートに対して随時更新でデータを追記していくことができない。

という仕様になっていることがわかった。これだと若干使いにくさが生じる部分があるだろう。ここになんというか、WebサービスベンダーのGoogleと、端末ソフトウェアベンダーのMicrosoftとの、サービスのアーキテクチャの違いを感じるのは私だけだろうか、私だけだろう。

③テスト受験者の答案に対するフィードバックの仕方が違う

3つ目のポイントは、どちらかができてどちらかができない、という話ではなく、単に機能の違いとして現れる部分だが、テスト作りにおいてはポイントになるところだと思う。どちらのFormsもテスト終了後にすぐに採点結果と正解を閲覧する設定にできるのだが、その際に受験者に表示されるフィードバックの設定の仕方が違っている。

G Formsは、「正解だった場合」と「間違っていた場合」の2種類のステートメントを設定できる。たとえば選択式問題で A B C D という選択肢があり、答えが B だったとして、「正解だった場合」は B を選択したユーザーに表示されるフィードバックを、一方「間違っていた場合」は A C D のいずれかを選択したユーザーに表示されるフィードバックを、それぞれ設定できる。もちろん、どちらか一方のフィードバックのみの設定もできる。さらに追加すると、フィードバック文自体とは別の段に、参考資料へのWebリンクを設定できる。

※この辺は、このサイトで出しているチェックテストにおいて、「間違った場合」のみフィードバックを設定したので見て欲しい。

一方のMS Formsの場合、フィードバックは選択式問題の場合は「個々の選択肢」に対して設定する形式になっており、それ以外の質問形式に対してはフィードバックを設定できない。つまり、先ほどの A B C D で B が正解である場合については、各選択肢について個別に誤答である理由ないし正解の際のメッセージを設定できる(というか、個別に設定しなきゃならなくなる)。ちなみに、G Formsにある「外部資料へのリンク設定」はできない。

ということは、G Formsの場合、およそ全ての設問形式に対して正誤に基づく自動フィードバックコメントを設定できるが、MS Formsではそれが選択肢問題だけに限られる一方、MS Formsでは解答ごとに細やかなフィードバックができるが、G Formsでは「正解」か「不正解」かになってしまい、不正解フィードバックが冗長になる可能性がある。

なおこれは、自動採点機能による場合のフィードバックで、G Classroomを通じた、あるいはMS Formsを用いて行う人力採点&フィードバックとは別の話である。

④MS Formsには「並べ替え」形式の設問が使える一方、G Formsではほぼ全ての解答形式に正解を設定できる

回答形式の違いは微々たる問題でしかないと前述したが、あとから検証する中で見逃せない機能があった。これが、MS Formsの「並べ替え」解答機能だ。またの名を「ランキング回答」ともいえるが、例えば「次の表を見て点数が高い人の順に並べ替えてください」とか、「以下の単語を並べ替えて正しい英文を作ってください」とかいう設問について、要素を並べ替えて解答することができる。これは便利な形式だ。これをG Formsで実装しようとすると、マトリクス設問を使わなきゃならなくなり、代替しきれるはしきれるがUXに欠ける。

一方MS Formsの場合、自動採点による正解を設定できる回答形式は、記述式・選択式・並べ替え式に限られ、マトリクス形式(MS Formsではリッカートと呼んでいる)とNPS式設問には正解を設定できない。G Formsはというと、スケール回答(今の気分は1〜5のうちどれ?みたいな)と長文回答に正解を設定できない以外は、およそ全ての回答形式に対して自動採点の正解を設定できる。

もうこれらは一長一短としかいいようがない。G Formsでできるマトリクス形式による出題は、MS Formsでは一つ一つ選択式設問を作ればいいし、MS Formsでできる並べ替え形式による出題は、G FormsではUXに欠けるかもしれないがマトリクスで実装すればいい。

 

以上が主要な違いだ。まさかこんなに長く書くことになるなんて思わなかった。反響があるならキャプ画とともに解説することにするが、いまはただ書き切らせて欲しい。


ほら、どっちもどっちでしょ

正直、フォーム系プロダクトにおけるメジャーはG Formsなので、圧倒的にそちらに慣れている人の方が多いだろうが、実はG Formsだと実現できないことがちょいちょいあって、それを実現しようとするとMS Formsの方が良かったりする場合がある。しかしだからといってMS Formsにしちゃうと、今度はG Fromsでできていたことができなくなって不便だったりする。

ポイントなのは、「だからどっちを選ぼうか」ということではなく、いざ「こっちをつかってね」とクラウドサービスの指定をもらった時に、それぞれのツールの長所と短所、できることとできないことを、適切に把握して「これをするためにはどうすれば実装できるか」を考えることだ。そう考えると、もう正直、どっちを使ったって一緒だろ、というレベルの差分でしかなくなる。それは「差分がない」ということではなく、「差分はあるんだけど、あっちを立てればこっちが立たずだから、いろいろ言っても仕方ない」ということだ。

ちょっとうんちくが過ぎた。これも、元調査会社の人間が故であり、最後に大事なのでもう一度言うと、私が愛しているプロダクトはQuestantだ。それは譲らない。

あとやっぱり、「早く1人1アカウントのクラウドサービスを入れていただきたい」に尽きる。

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