ソーシャルアパートメントに暮らしています。2

2013年の6月に、こんな記事を書いている。

ソーシャルアパートメントに暮らしています。

それから9年が経った。

もうお気づきかと思うが、3年間の教員生活を過ごした福岡を離れ、東京に居を移している。そしてまた、ソーシャルアパートメント暮らしを始めた。

入居から2ヶ月が経った。まだまだ慣れきれていないが、近況報告も兼ねて、暮らし向きを書き出してみようと思う。


「東京、怖い」

もともと関東出身で、地元である茨城の古河からは1時間半もあれば東京の主要なところに出ることができるという地の利を生かし、割と幼い頃から東京に出向くことは多かった。大学時代は、新宿を経由して藤沢・湘南台に通っていた生活をしていたので、毎日のように東京の雑踏を掻い潜っていた。そして2013年、品川にある会社に新卒入社し、バリバリと働く日々を過ごす中で入居したのが、蒲田にあった「ソーシャルアパートメント蒲田」である。

その後その物件は運営会社が変更になり「クラシコ蒲田」と名前を変えたものの、上記の記事でも記載したような、同じタイミングで20名弱の人々が過ごす空間の暖かさが変わることはなく、2年半の間にメンバーの入れ替わりこそあれど、そこでのコミュニケーションがあったことは、明らかに自分にとってプラスになっていた。シェアメイトたちとのつながりが、仕事での縁に発展することもあったのはもちろん、いまでもオフなつながりがあることはありがたい。

2015年の冬に退去して、そこから実家暮らしに戻ったものの、定期券の買い方を工夫して、池袋・新宿・渋谷・目黒・大崎経由の品川まで、というゴールデン定期を手にしたため、平日はもちろん休日も都内に出向くことは多かった。2019年に会社を辞め、教員としての福岡暮らしをスタートさせても、夏・冬の帰省のタイミングで知人に会う時は、決まって東京がその場となった。そもそも、東京を通過しないと、飛行機に乗れない。

それほどまでに、東京は慣れた土地だったはずなのだ。

しかし。それは4月22日のことだった。高校時代からの友人である美容師に久々に髪を切ってもらおうと出向いた新宿の雑踏で、僕はなぜか、言いようのない不安に苛まれた。

「東京、怖い」

慣れていたはずの街を、その美容室に向けて足を動かしていた午後8時。押し寄せる不安の理由が自分でも見当たらず、慣れているはずの街に対して不安を覚えている自分自身にすら不安を感じるという状況のなか、久々に会った美容師の友人と話せたのは救いだったが、ほどなくして髪が短く仕上がり、店を後にして家に向かった。

向かった先は、東京都北区東十条。4月19日に入居した、ソーシャルアパートメント「ネイバーズ東十条」である。


人見知りする人脈お化けのソーシャルアパートメント暮らし

私が住まう物件「ネイバーズ東十条」は、鍵付きの個々人の居室と、水回り系のシェアスペースで構成される、シェアの物件。丸々一棟を借りてみんなで暮らすようなシェアハウスに比べると、ややコストはかかるが、プライバシー確保とシェアの利便性の両方を兼ね備えたタイプの物件である。これを「ソーシャルアパートメント」と呼んでいる。長いのでSAと略そう。なお、転居時に地図で番地確認をした際、我が物件は「寄宿舎」と書かれていた。

そもそも、「ソーシャルアパートメントに暮らしています。」でも書いた通り、1回目のSA暮らしの主な動機は、家財を揃えなくて済むことであり、誰かと交流をすることという目的はそこまで重視していなかった。その時の記憶があったことから、福岡から東京に居を移すとなったとき、物件探しは決めうちでSA物件にすると決めていた。

「ネイバーズ東十条」は、グローバル・エージェンツというSAを展開する会社が自社で所有する新築物件であり、蒲田時代のようなリノベーションによる物件ではない。まだ建って2年ほどの物件だ。そして蒲田時代との大きな差は、その居室の数だ。一つのフロアに8部屋で、15階建の建物。2階にリビング・キッチン・コワーキングスペースがあり、居室は3階からなので、ざっと計算しても104室ある。

つまり、シェアメイトがめちゃくちゃ多い。

全員と友達になれたら、それこそ「1年生になったら」の世界観である。友達100人は夢じゃない。しかしそれは、私にとってはかなりハードルが高い所業である。なにせ私は、新たな人との関係性を構築するその最初の段階では、人見知りを発動してしまうからだ。

「お前がそれを言うなよ」という声がどこからか聞こえてきそうだ。そりゃ確かにそうで、お陰様でFacebookのフレンド、つまりどこかで何かの接点・ご縁を紡いだ人が2,700人を超え、はたまた教員時代にはさまざまなご縁から授業に協力いただいたり新たな活動を興したりしたわけで、しかもここ1ヶ月くらいは、やたらと「人つなぎ」をすることが多かっただけに、見る人がみれば「人脈お化け」と思われてもおかしくない(事実、「人脈お化けだ」と言われた)。

しかし困ったことに私は、仕事やソーシャル活動といった、「オン」の文脈ではないコミュニティに入っていこうとすると、とたんに人見知りを発動する。言い換えると、趣味とか、休日の過ごし方とか、そういった「オフ」での話題で人とつながったり、あるいは結婚式の二次会や立食パーティーみたいな場において自分から人とつながったり、みたなことがとても苦手なのだ。

そして見事に、入居してすぐのこと、その人見知りをいかんなく発揮してしまい、ビビりまくって、勝手に不安感を増幅させてしまったのだ。


「なんで入居しちゃったんだよ」

今回、「ネイバーズ東十条」に決めた理由は2つあった。

一つは、共用部のコンセプトが「コーヒーの香り広がる」だったこと。事実リビングラウンジには、コーヒードリッパーやフレンチプレス、電動ミルにエスプレッソマシーンなど、コーヒー好きにはたまらない設備がシェア備品として用意されていた。アフリカ系の浅煎りコーヒーを、フレンチプレスかペーパードリップでストレート飲みするのが好きな私にとって、同じようなコーヒー好きがいそうだ、というのは心が惹かれた。

もう一つは、自室にトイレと風呂/シャワーがあること。私はラッキーなことに、たまたま空いていたのがバスタブ付きだったのだが、実は蒲田時代にはそれらの水回りは共用だった。別にシェアでも構わないと言えば構わないのだが、福岡での一人暮らしを経験して、水回りの清掃を自分で行うという癖がついたいま、シェアでないほうが好きな時に使えるというメリットがあることに気づいてしまったのだ。

新築で、勤務地である大手町にも近く、最寄の東十条駅からも近くて、そして落ち着いた雰囲気の「北区」というエリア。冷蔵庫は必要だけど、洗濯機は買わなくていいし、どうせキッチンで料理もそんなにしないだろうし、そうなれば初期コストがかからずに済む。こうした条件も入居の決め手になったのだが、その私の意思決定に、多くの人がSAを選ぶ理由に入るであろう「シェアメイトとの交流」はそこまで重要な要素ではなかったはずだった。

しかし、入居初週、意を決してリビングに顔を出し、そしてうまいことコミュニケーションが図れた気になれず、失意のまま自室に戻る日々が続いた。

そもそも自分の入居動機から考えれば、リビングに出向いてシェアメイトと交流をするということは、必然ではないはずだった。しかしどうにも、せっかくシェアの暮らしをしているのであれば、そこで交流をするのは「この場のコード」である、みたいな発想に囚われ、そこに自分を無理くり向かわせようとしていたようだった。自室に篭り、あるいは「寝に帰るだけ」みたいな生活にして、自分はそんな生活をするんだ、と腹決めをすればよかったが、そうはならなかった。

いやいやいや。書き出してみて思ったが、これは虚勢だ。実のところ、シェアリビングで目の当たりにする、あるいは1階の入り口まで響いてくるシェアラウンジの声に溢れる、仲の良い楽しそうな雰囲気に、憧れというか、羨ましさというか、そういうのを感じていながらも、自分からそこに入り込む勇気がなかっただけだったのだ。

自分でも思ってしまった。「なんで入居しちゃったんだよ」、と。


居たいように居ればいいだけのことだった

勇気を出すことを躊躇していた4月下旬から、早2ヶ月。結論から言うと、あの頃の自分が嘘のように、今では「居たいように居る」ができている感じがある。正直に言えば、まだまだ溶け込み切っている感覚は薄く、飲み会やご飯会の輪のなかにごく自然に入り込めているシェアメイトたちを羨ましいと思う部分は拭い去れていない。なにより、顔を見かけるけれどこちらから声をかけられていないシェアメイトも多いし、そもそも104人全員と邂逅することのほうが難しい。

入居しておそらく初めて会話を交わしたシェアメイトが「この物件の人たちはみんないい人たちですよ」と言ってくれたのだが、今ではそれが「ほんまやな」と思えている。それはもしかすると、それぞれのシェアメイトたちが「居たいように居ればいい」ということを互いに許容できる人たちだからなのかもしれない。そして私も今では、「居たいように居ればいい」と思えるようになっている。

不安を感じていた時期から、「居たいように居る」に至るまで、その間をすっぱ抜いて書いたのだが、一足飛びにそこに至れたわけではない。いくつかの契機があって、そこに至ることができた。そこには、周りの許容というのが大きい部分もあった。

新参者だったころ、夜の時間帯にリビングの椅子に腰掛けると、「最近入った人ですか?」と声をかけてもらえて、いろいろ質問をしてくれるシェアメイトたちがいた。そうしたところから少しずつ話を広げていき、自分の仕事やこれまでの経歴を話したりした。悲しいかな、ことさら「趣味」と言えるようなものもなく、また共通の話題になりやすいものがないことがコンプレックスなのだが、「3月まで福岡で中学校教員をして今は人事です」が、相当な情報量だったので、ある程度の話題の広がりがあった。

「えんしのさん、人事ですよね」と声をかけてくれる人もいて、そこから話を広げることができるようにもなった。ありがたいことに、その人からはその後も相談をもらったりして、役立てている実感を得られている。あるときは、コーヒーを淹れていると話しかけてくれた人がいて、話をするうちに、めちゃくちゃ地元が近いことが判明した、ということもあった。また別の住人と話している時に、どんな仕事をしているかを尋ねると、その話の流れで、自分がかつて関わっていたNPOのことを知ってる、というから驚いた、というくだりもあった。

私も私で、いくつかの努力をした。土日の盛り上がった雰囲気に混ざるのが難しくとも、少し落ち着きのある平日夜からリビング入りを試していくことをしたし、なれないながらにパスタを茹でにキッチンを使うこともした。ちなみにキッチンは合計6台のコンロ+シンクがあるから、104人居ても混み合うことはない。それから、元教員のくせに人の名前を覚えるのは苦手なので、会って会話を交わした人から順に、その人の名前をiPhoneのメモに記録していった。今そのメモを見たら、53人と会話を交わしていたことが判明した。

「とりあえず、最初の1ヶ月は頑張って降りてきたほうがいい。そのほうが楽になるし、楽しくなる」というアドバイスをくれた住人がいて、かなりの勇気を要したものの、その通りにしてみた。結果、まだ完全ではないものの「居たいように居ればいい」と思えるようになってきている。


タコパと、畑と、部屋取材

まだまだ慣れないさなかにおいて、それでも自分自身が、コミュニティに入り込めた感覚を抱いたきっかけが、3つあった。

その一つ目がタコパだ。ある日の夜、夕食後にそのままリビングの横に長いテーブルでブログを書いていたら、人が入れ替わり立ち替わりやってきて、めいめいに食事をしては帰っていき、みたいな流れになり、そのうち飲み会から帰ってきてテーブルで誰かと喋っていたシェアメイトが「たこ焼きパーティーしようぜ」と言い出し、いつのまにかそのタコパのメンバーに私も入っていた、ということがあった。タコパ当日、食材の準備からホットプレート準備、そして実際に焼くところまで、まるで鍋奉行がごとく作業をしまくっていたのだが、結果楽しく食事をとることができ、そこで結構な数のメンバーと顔見知りになることができた。

おんなじようなノリで、最近入居した人たちどうしでタコパをすることになった機会がもう一つあり、そこでも人の輪が広がった。ちなみにそのタコパメンバーとは2週間後に「エビカレー」を作る会を共にしただけでなく、「晴れた日に丸の内でビジネスポートレートをとってもらう」という約束を取り付けたり、後述する「部屋取材」を受けることになったり、という縁もできた。

二つ目が、畑である。シェアメイトに、家庭菜園が趣味という人がいて、その話題が広がた結果、シェアメイトたちで共同のシェア畑を借りて野菜を育てる部活動のようなものが立ち上がっていた。いちおう、前職時代に「農業ビジネス体験」をしていた身である。興味がないわけではない。それで私も入れてもらって、月に2回くらい参加する、「週末なんちゃって農家見習い」になった。そもそもその「ネイバーズガーデン」というサークル的なものには20人程度が参加している。実に物件の1/5が参加している活動になった。

畑の何がいいって、畑作業中は野菜の話をすればいい、ということだ。気心の知れた友人や、ごく少人数でならまだしも、あまり素性を分かり切っていないどうし、あるいは、5人以上を超えるメンバーでの飲み会において、その場の話についていくことに困り感を抱えてしまうことが多い僕にとって、「畑作業」という共通目的のもとに会話を交わして、コミュニケーションの絶対量を増やしていける=関係を構築できるというのは、とてもありがたい。なにより、土日の午前中に作業をするので、飲みの勢いとはまた違う会話ができるのが、心地よい。

最後が、部屋取材だ。新入りさんたちとのタコパをしたとき、私が勝手に新入りさんだと思っていた方が、実はもうすでに2年住んでいたのだけれど、ぜんぜんリビングに降りてきておらず、シェアメイトたちと交流してこなかった人だ、と判明した。しかもその方、あと1ヶ月で退去する、というではないか。幸せな理由での退去だからこそ「よかったですね」とお伝えしたのだが、その後にその方から飛び出した一言に、テンションが上がってしまった。

「私、退去までの間に、みんなの部屋を取材したい」

なにそのマイ・プロジェクト、めっちゃおもしろいんですけど。曰く、4.5畳程度しかない部屋の間取りはみなほぼ同じだけれど、その部屋のなかをどうレイアウトしているかで、それぞれの人となりが現れるよね、と。確かにそうで、たとえば私はロフトベッドを自室に置いており、これは蒲田時代の備え付けロフトベッドでの生活の影響だったのだが、その話を出したらみんなから驚かれた。たしかにこれだけお互いの交流をしていても、それぞれの部屋の様子を覗くことは稀である。そしてタコパ中に、その方の取材に協力したい、という声が相次いだ。

そして、私も取材をしてもらった。

「新入りたちのタコパ」を共にしたメンバーたちで取材と称して部屋に来てもらい、いろいろと物色とヒアリングをしてもらえた。結果、それを記事にしてもらえて、ていねいな記事にしあげていただいた。メルカリで購入したロフトベッドを、レンタカーで横浜まで受け取りに行き、それを自分一人で組み上げてしまい、でも人に手伝ってもらうことをお願いできなかったという「こじらせた」性格も含めて。

そのなかでも自分が嬉しかったのは、この一節だった。この物件にも、自分のことをわかってくれる人がいる、という実感を持てた。

きっとえんしのさんの中には大切にしたいものとか軸みたいなものが自然とあって、人事、教員、障害者雇用、とかは手段でしかなくて。数年後にはまた全然別のことを始めているかもしれない柔軟さを持ちつつ、でも自分の中の美意識のようなものは凛としてある。みたいな印象を受けました。

この記事も一つの契機になって、リビングでのコミュニケーションが広がっていく感覚があった。こういう出会いがあるから、やっぱりソーシャルアパートメントの暮らしはいいな、と思えるのだ。


「現代のご近所付き合い」としてのコミュニティ

以前、青山学院大学のワークショップデザイナー育成講座に参加していた時、講座の中で、チーム・グループ・コミュニティの違い、という話題が出ていた。うろ覚えだが、たしかこんな定義だったと思う。

共通目的を持つ「チーム」、単なる知り合い同士の「グループ」とは違い、「コミュニティ」は、それぞれの持つ目的は違っているけれど、いざという時に助け合いが発生する。

そこへいくと、確かにこの物件に住んでいる人々は、日々の仕事やプライベートでの関心は、誰一人として完全一致しないわけだが、しかしお互いに助け合ったり、あるいはそこまでいかずとも、共有しあったり関心を示しあったりしている。その意味で「コミュニティ」が形成されている。しかも、100人を超しているだけあって、一つの場の中に「コミュニティ」が複数、いや重層的に存在している。となると、その全てに存在することはもちろん無理なので、だから「居たいように居る」でいいんだ、と思える。

思えば、蒲田時代の物件も、その意味では「コミュニティ」だったと思う。新卒社員時代、私を含めた3人の2013年新卒世代が、めいめいの会社での出来事をお互いに話すことでほぐしあっていて、そこに少し歳の離れた先輩的な立ち位置の同居人が共感やアドバイスをくれた。あの頃からもう10年近く経つが、その当時のシェアメイトとも、いまだに酒を酌み交わしたり、人を紹介してもらったり、という縁が続いている。最もびっくりしたのは、蒲田時代のシェアメイトが、私の今の会社に勤めていたということだ。

そこへいくと、なまじ私も「顔が広い」こともあり、今の物件のシェアメイトにも、共通の知人がいたということがざらに発生している。一番驚いたのは、あるシェアメイトの勤務先の会社名を聞き、「その会社になら一社目の人事時代に出会った就活生さんがいますよ」といって名前を挙げたら、なんと私の入居とほぼ入れ違いで退去した、元住人であったことが判明した。ここ数日で、シェアメイトとFacebookで繋がり始めたが、だいたい2名はシェアメイト以外の「共通の友達」がいるので驚いている。

過干渉しない助け合い。蒲田時代とはまた違ったテイストではあるが、それこそ物件名である「ネイバーズ」ということばよろしく、現代のご近所付き合いみたいな温度感でいられるのが、少しずつ「ちょうどよい」と感じられるようになってきている。まだ完全ではないけれど。きっと、シェアメイトたちはみんな、そうしてコミュニティを広げることが上手い人たちなんだろうな。私も自分なりに、そういう存在でありたいと思う、自室の夜更けであった。

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ソーシャルアパートメントに暮らしています。2」への2件のフィードバック

  1. 先日、住人仲間による部屋を取材記事を呟いたら公式からいいねされたのだが、元住人である営業さん曰く「あの部屋にロフトベッドは社内で話題になった」とのこと。なので今度は人見知りの居住実態の自著記事をシェアする。

    「ソーシャルアパート… https://t.co/1Ixg2B8XmJ

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