「にんたか」ではなく「アスパラとパンチェッタ」を毎度頼んでは、湘南台に想いを馳せる。
相鉄線沿線で用事があったので、そのまま足を伸ばして湘南台の大好きなパスタ屋であるニューオリに来たら、店の前で並んで待つことに。自分の前に待っていたとあるおじさまが「俺は飲みに来ただけだから」と、食事だけの自分の順番を先に譲ってくれた。
その後も待つ間に「下でパーティーしているようだね」「伝票が貼ってないみたいだから自分の食事がどれくらいで来るかがわかるよ」などと、軽い豆知識のように話しかけてくれる。どうやら、長らく来ている常連さんのようだ。
「長く来ているんですか?」そう私が声をかけると、「33年」という答え。そして「昨日定年退職をしてさ」とさらに一言。長い間、湘南台に住み、足繁くニューオリに通っていたことを、33年という年数から思い知る。思わずこちらは「お疲れ様でした」と深々と首を垂れた。
「SFC?」とおじさまに聞かれ、もう卒業から10年経つことを伝えつつ、「ここにはよく来ていたんです。地下のクリスマスツリーとか地上のイルミネーションをする団体に入っていて」と伝えたら、「それはどうも、ありがとう」と言われた。
おじさま曰く、自治会をやっていて、多くの高齢者が「感謝を伝えたいのにどうしたらいいもんか」と言っていた、と。なかなか外に出るのにも難儀している高齢者が多くて、というところまで話したら、店主に店内に案内されたため、席を違うことになって、話が切れてしまった。おそらくは「でもあのクリスマスツリーとイルミネーションがあって、それを楽しみに外に出るんだと思う」みたいなことを言いたかったと思われる。
イルミネーション湘南台は、自分が在学している間に、実行委員会から慶應の学生が抜けるということを経験した。それでも現在に至るまで、地元の若者たちを実行委員に迎えながら、商店街・地域団体・行政とが連携して取り組まれている。活動をしていた頃には気づけなかった、地域住民がどう感じているかということを、10年越しに思い知ることができた。
そんなわけで、よく打ち合わせ後の夕食に来ていたニューオリで、もはやこれ以外に注文しないという「アスパラとパンチェッタのオイルベースパスタの中盛り、オレンジジュースをセット」を頼み、大量の粉チーズをかけて平らげた。
帰り際、結局その方はカウンターにいらして、会計後に軽くだけ、こちらは「定年退職おめでとうございます」と、おじさまは「また話聞かせてください」と、言葉を交わし、私は店を後に。そしたらそのおじさまが店の外に出て歩いていた私に駆け寄ってきて、しっかり私の目を見てこう仰った。
「自治会の役員をしていて、本当にお礼を言いたいのになかなか言えない人がたくさんいる。本当にそのことだけは伝えたかった。関わった人たちに、そのことをよく伝えておいてください。」
きらびやかでなくとも、街をあたたかく灯すあかりが、誰かの心をあたためているということを、改めて実感したし、まちづくりとは、つまりこういうことだと改めて感じた。
この文章は、Instagramへの投稿の転載です。