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「ハンバーグ食べるか?」「オムレツ食べるか?」
土曜の昼下がり、店主から発される、チャキチャキとした、しかし優しさに満ちた問いかけに、店内はみなこう思っただろう。
「お子様ランチ、あるんだ・・・」
この記事は、Instagramへの投稿を転載したものです。
東十条の洋食店・レストランパンは、夫婦ふたりで営まれている、15席もない小さなお店。1,200円のセットメニューで、私はたいていローストポークを注文する。バルサミコ酢のかかったサラダに、紫がかった雑穀米のライス。メイン料理に添えられた温野菜さえ、愛おしく感じる。ローストポークには、硫黄塩(だと思う)、岩塩、ハーブソース、ガーリックソースから、一口ごとにソースをかけていただく。その味と柔らかさが、たまらなく好きだ。
今住んでいるネイバーズ東十条の住人も、時折足を運ぶ。退店ギリギリになって「ネイバーズです」なんていうと「もっと早く言ってよ」と言われるくらい、住人のことをよくしてくれているのがありがたい。そしてどうやら、この店を愛する人たちのことも、たいそうよくしてくれているようで、かつて恋人同士だったお客さんが、いつのまにか家族になって子連れでやってくる。冒頭に記したお子様ランチも、そんな家族の子どもたちに向けられていた。なお、ハンバーグもオムレツも、付け合わせのフライドポテトも、セットメニューには存在していない。
ネイバーズ東十条ができたころは、ちょうどコロナ禍まっさかりだったようだ。そんな折、とある住人が薬局でマスクを探していたところ、たまたま声をかけたのがパンの店主だったらしい。それがきっかけで住人が店に足を運ぶようになったと聞いている。最近、ある住人が連れ立ってパンを訪れた際、「最近ネイバーズの人たち、顔を出さないんだよね」なんて言っていたそうだ。若いわたしたち(自分自身は若いかどうかはさておき)を思い気遣う思いが感じられる。きっとそこでは、やりとりを交わすことを、楽しみにしているんだろう。
やさしさやあたたかみというのは、存外、言葉そのものや語調にだけ現れるものではなく、気持ちを向ける、ということに感じられるんだと思う。慌ただしく調理をする店主と、手際よくサーブをする奥様とにあって、しかしそこに「ハンバーグ食べるか?」「オムレツ食べるか?」と問いかけることそのものがある、ということ。自分が何かを差し出せるということと、その選択を相手に委ねるということ。そこに、相手を思ったコミュニケーションがあることこそが、やさしさとあたたかみなんだと思う。なるほど、そりゃいつ行っても混んでいるわけだ。
1,200円のランチは、決して安くはない。腹を満たすだけならもっと安く済ませられる店なら東十条にはいくらでもある。それでもローストポークが食べたくなるのは、それが美味しいからというのは当然にして、つくる人とたべる人に、「つくる・たべる」以上のやりとりとつながりを、感じられるからなんだと思う。