小説書いちゃった

 これを小説と読んでいいのかは分らないが、短編小説じみた物が出来上がってしまった。

 現在「高貴なる葡萄酒を讃えて」という曲を金管八重奏で演奏している。より上位の大会を目指して練習をしている。本番は来週土曜日である。
 イメトレのために全員が曲の物語を書くことになった。そしたら俺のだけ小説のような仕上がりになってしまった。・・・公開するか、という気分で今に至る。
 メンバーに見せたが、なかなかつぼっていた。おもしろい表現を多用したつもりでいる。曲を聴き、登場するメロディーが何を表しているのか、妄想を働かせて書いた。今回コンクールで演奏するのは5楽章だけだが、今回は全楽章分を書いた。さらに、5楽章を2つのパートに分け、5th mov.とCodaとにわけた。曲をご存知の方はそれを頭に思い浮かべながら見てほしい。
 なお、感想・意見・苦情はコメントまで。

酒飲みアンサンブル 〜高貴なる葡萄酒を讃えて〜
Ensemble of Drinkers 〜Homage to the Noble Grape〜

プレリュード -Prelude-
第1楽章 「シャンパン」〜1st mov. “Champagne”〜
第2楽章 「シャブリ」〜2nd mov. “Chablis”〜
第3楽章 「キァンティ」〜3rd mov. “Chianti”〜
第4楽章 「ホック」〜4th mov. “Hock”〜
第5楽章 「フンダドール」〜5th mov. “Fundador”〜
コーダ 「そしてシャンパンをもう一本」〜Coda ”And more Champagne”〜


酒飲みアンサンブル 〜高貴なる葡萄酒を讃えて〜
Ensemble of Drinkers 〜Homage to the Noble Grape〜

プレリュード -Prelude-

 今日も1日が終わる。とりあえず職場をあとにすると、そこから俺は自分に戻る。昼間は、職業柄模範的でいなければいけない。オフシーズンとは言えども子供たちはいつまでも残る。何とまぁ練習熱心なことやら。そのせいであの店に行くといつも、時計は9時を回ってる。明日も早朝から朝練する子供たちのために学校と音楽室を開けなきゃならない。でもやっぱり酒の一杯や二杯、口にしときたいし。
 夜だというのにウザいくらいに明るいネオンを通り抜け、ひっそりとした店に向かう。ワインを主に出すバー・ノーブル。俺、ビールがぶ飲みよりワインに舌鼓を打つ方が好きだ。自分一人で飲みにいくときはいつもここ。店に入ると、またいた、常連たち。いつもならそいつらと一緒に飲むんだけれど、最近は少し距離を置くようになった。一人で飲んで、悩みをかき消したくて。
 悩みの種はワイン。今年のアンサンブルは金管八重奏でリチャーズの「高貴なる葡萄酒を讃えて」をやることにしたんだけど、どうも行き詰まって。イメージがはっきりとつかめてこなくて。成人した指導者がイメージをつかめないのなら、未成年に酒の曲が吹けるはずないし。どうしよう。ワインが答えてくれでもすればいいのに。

第1楽章 「シャンパン」〜1st mov. “Champagne”〜
 「ピンドン!」奥の席で男が注文してる。ここはキャバクラじゃねぇっつうの。せめてロゼのドンペリぐらいにしとけよ。めちゃくちゃ金持ちそうなその男、美人なんかつれてきやがって、ムカつくわ。しかも自慢話がなぜかやけに耳に入る。

ーー
 この間の出張はやっぱり君を連れて行きたかったよ。フランスはいつ行ってもいいところだからね。この間はランスってところに行ってきたんだよ。
 一口にシャンパンって言っても本来はフランスのシャンパーニュ地方でつくられたスパークリングワインのことだけを言うんだよ。ランスはシャンパーニュの中心でさ、おいしいシャンパンが安く飲めるんだよ。
 フランスに行ったときは必ずミュジコールに行くんだ。あ、食事しながらショーが見れるところね。ランスにもあってさ、入ったんだよ。扉を開けた瞬間にもうテンションが高ぶっちゃって!はやる気持ちを抑えて席に着いて、とりあえずシャンパンを頼むんだ、早く飲みたいってね。栓はいつも自分で抜くんだ、ポンって栓を抜く音、グラスにトクットクッて注がれる音、シュワーってさわやかな泡の音、どれもたまんないよ。
 栓を抜くタイミングでいつもカンカンが始まるんだ。6、7人の娘がフリフリのロングスカートはいてステージで踊るんだよ。スカートを持って、その手をこう左右に動かしてね、ものすごい笑顔で踊ってるんだ。優雅なところになると一人の娘が中心に来て踊るんだ、美人だったよ、君みたいにね。椅子なんか使って高く足をあげたりして。皆でラインダンスのように前へ後ろへ出たり下がったりしながら、足を高く突き上げるときなんて圧巻だよ。
 ショーの合間に楽しむシャンパンが格別でね、口に含む度に優雅で幸せな気分になるんだ。泡の音がカンカンの音楽とリンクしていい気分さ。あちこちからシャンパンに舌鼓を打つ人の歓声が起こるんだよ。
 とあるご婦人が優雅に「ピン・ドン」の余韻に浸っていてね、ものすごく気品あふれる飲み方だったね。突然、天国と地獄が流れ出して、そしたらそのご婦人がステージに連れて行かれてね、ご婦人がおどけて「Chin-Chin!(乾杯!)」なんて言うと、周りの男たちが「Chin-Chin!」って叫ぶのさ。
 店が一体になって、またカンカンが始まるんだ。客も一緒になって、飲めや踊れや騒ぎたい放題。曲が一瞬静まったらクライマックスであの真ん中の娘がぐるんぐるん回りだすんだ、横じゃなくって上下だよ、上下!最後に娘たちがポーズを決めると、店中大きな拍手で一杯なんだ!あぁまた行きたくなってきたよ。今度は一緒に行こうね!ね!

ーー

 何が「ね!ね!」だよ、いい歳こいて。女ドン引きじゃねぇか。勝手に一人で行ってカンカン娘の追っかけでもやってろ。・・・でも待て、何だか葡萄酒の1楽章に似てるシチュエーションだな。喋ってる男はムカつくけど、なかなかいいイメージをもらったな。礼を言うつもりはことさらないけどね。あ、女、席を立ったよ。おい、男泣いてるよ。

第2楽章 「シャブリ」〜2nd mov. “Chablis”〜
 「シャブリのをあのテーブルに。」って、何だあいつは、石田純一みたいにやけにきざな中年が、さっきのフランス自慢男のテーブルに辛口のシャブリを持っていって、何だか語りだした。またその声も聞こえてしまう。俺って地獄耳だっけ?

ーー
 見事に振られちゃったみたいですね。いつまでも泣いてないで、これは私のおごりですから。ブルゴーニュ地方の辛口の白、シャブリのワインですよ。
 そうそう、私も何度かフランスに足を運んでいましてね。というか、長いことブルゴーニュの方に住んでいまして。いやぁ、あそこでもたくさん恋愛をしましたよ。
 振られるといつもバーに一人で足を運んではこれを飲んでいたんですよ。静かにグラスを傾けながらその女性に思いを馳せてはワインを口に含んでいました。彼女に言われた最後の言葉が妙に鮮明に思い出されて胸が熱くなったかと思えば、口に含んだワインの辛さがキーンと舌を突いて、いつもそうやって涙をこらえてました。
 だいぶ酔いが回ると彼女との日々をつい思い出してしまうのです。彼女に言われた優しい言葉が頭の中を駆け巡っては消えてゆき、ぽつんぽつんと映像が浮かんでは消え、そのうちまたワインの辛みで我に帰ってしまうんです。
 そのうち、また次の恋を探そうって気になって、顔を少しほころばせると、「がんばんな」とマスターが一言声をかけてくれるんですよ。そうしてまた新しい恋をしては破れていったもんでした。
 余談ですけど、その後日本に帰ってから、周りが美女とはやし立てる女性と結婚することができました。ワインが共通の趣味で、よくここに来るんですよ。

ーー

 結局最後はただの自慢じゃないか、しかもフランスにいる時は連敗続きじゃん。励ましたかったのか、冷やかしたかったのかはっきりしろよ。結局フランス自慢男は眠ってるし。・・・でもさぁ、悔しいくらいなんだけど、葡萄酒の2楽章の感じが出てる気がするな。なんか複雑な気分だわ・・・。

第3楽章 「キァンティ」〜3rd mov. “Chianti”〜
 「キァンティちょうだい」あれはきっと女子大生だよな、レギュラークラスのフルーティーなのを頼んでいる。おお、なかなかいい趣味ですな。しかし今日の俺はなんかやけに他人の話すのが聞こえてくる。どうかしてるのかな?

ーー
 そういえば、この間の休み何してた?私ね、イタリア行ってきたの。なんかイメージ通り、みんな陽気だったわ。
 なんか変な人がいてね。その人、ワインを飲みながら街に繰り出していてね、少し酔っぱらいながら通りを歩いていたの。なんかふらふらしながら。
 色んな人に声をかけられてて、知り合いには「今日もまたかい」なんて言われたり、友達に会うと「よう!」みたいに笑顔で挨拶されたり、知らないおじさんから「危ないぞ気をつけろよ」なんて笑われながら言われたのよ。そんなことおかまい無しに陽気に歩いてたりしてたのよ。
 そしたらつい車道まででちゃって、自動車にはクラクションならされて、自転車にはベルならされて、それでもおかまい無しに陽気に歩いていってた。本人には目的なんてないみたいなの。全くお気楽ね。
 美しい人を見かけるとつい背筋がぴしっとなって、それまでとは別の人格になるみたいね。突然紳士的になって女の人に声をかけてみたい。最初はお話しするみたいだけど、軽くあしらわれて逃げられちゃってた。それでも追おうとしないで平気でまた歩き出すのよね。諦めずにまた別の人をナンパしてるのよ、しかも私の友達をよ。でも友達も軽くあしらっていたわ。2連敗してもおかまい無しでまた歩き出したのよ。
 人目を気にしなくなるとまたふらふらしだすのよね。そのうちだいぶ気持ちよくなってきたらしくて、くるくる回りながら歩いていって、何か台詞じみたことを口走っていたのよ。「最高だ〜」とかね。もう完全に映画の中の主人公になりきっちゃってて、踊りながら進んでいくのよ。タランテラ踊ってるようにね。突然ひっくり返っちゃって、だいぶ痛々しい姿になってもまた平気で歩き始めるのよ。何だか勝手に終わりの部分でポーズ決めちゃってたのよ。もうずっと笑いをこらえるのに必死だったもの。

ーー

 なんかめちゃくちゃだな、イタリア人に偏見持ちそう。俺の大学のイタリア人講師は少なくともシャイなやつだったしなぁ。世の中変な人もいるもんだな。・・・陽気さかぁ、葡萄酒の3楽章のイメージにぴったりだな。ナンパに失敗するってのには納得いかないけどね。

第4楽章 「ホック」〜4th mov. “Hock”〜
 「ホックをくれ。」なんか大きな荷物抱えた人があそこにいる。なんか見たことある人だな、誰だっけな?なんか見るからにオヤジっぽいけど、誰だっけな?なんか話してるってか、一人で語ってるぞ。

ーー
 いやね、ホックってのはドイツのライン地方のワインでね、甘口のワインなんだよ。ドイツと言えばビールだけどね、ワインも有名でさ。昨日教えにいった学校でやってたやつに、これを題材にしたのも入ってるんだよ。
 俺もドイツに行ってた頃はさんざん酒の世話になったよ。師匠とか学生仲間と打ち解ける席にはビールかワインが欠かせなかったからね。本当にドイツで得た物は多かったよ、例えば(中略)ほんと、ドイツに行ったから今の自分がある訳でさ。
 そうそう、どこの世界にも酔うと語りたくなるオヤジっているだろ。ドイツにもそんなのがいてさ、とにかく見知らぬ人にも自分のうんちくだの、政治の話だの、もう自分が好きなままに話すのさ。一度語りだすと止まらなくてね、ウェイターが話しだすのを聞くと「またコイツかよ」と小声で言うんだ。周りのやつの声に負けないくらいの声で誰に喋ってんだか分んない。たまに茶々を入れてやると喜んでさらに話を続けるのさ。
 終わったかと思ったら一度した話をまたすぐにするんだよ、そのオヤジ。そしたらウェイターが「また同じ話かよ」って舌打ちするんだよ。なんか勝手に自己解決して自己満足に浸ってるんだよね。
 話がいったん終わると他の客は「静まった、静まった」って騒いじゃうんだ、喋りたかったのにオヤジの声がうるさくて喋れやしなかったからね。しまったって思ったときにはもう遅くて、「静まった」の声に反応してまた喋りだすんだよ。「うるせぇんだよ」と茶々を入れても構わずに喋りだすんだよ。
 だんだんろれつが回らなくなってきて、喋り疲れてテンションも下がってきたかと思ったらまた突然元気になっちゃって。「もう聞き飽きた」って開き直って笑ってごまかすしかなくってさ。
 そしたらまた同じ話をしだすんだ、「もういいよ」ってウェイターがため息をつくのさ。他の客が何か言えばそれに反応して、その繰り返し。いつしか誰も相手しなくなって独り言状態だよ。そしたら完全に酔ってるみたいでひっくり返っちゃって「ぐ〜〜」とか言ってるんだ。それでも倒れながら同じ話をしだすんだよ。客は「うるさい」っていいながら、実はこんなオヤジを好んでいたりするんだよね。ほんと、おもしろいよね全く(以下略)

ーー

 お前の方が話長いんだよ。そのオヤジとやらは完全にお前のことじゃないのか?・・・まだ喋ってるし。あ、葡萄酒の4楽章ってお喋りオヤジの描写なのかな?チューバソロがオヤジってこと?・・・あれ?もしやあれはチュー・・・

第5楽章 「フンダドール」〜5th mov. “Fundador”〜
 「フンダドールをおくれ。」俺の飲み仲間が喋ってるぞ。ちょっとまて、ここはワイン専門じゃないのか?ここへ来てブランデーってどういうことだよ?そういえば葡萄酒の終楽章もフンダドールだ、なんで葡萄酒なのにブランデー?って感じ。ここが悩みどころなんだよね。

ーー
 闘牛見たことある?ちがう、日本のじゃないよ。スペインスペイン。俺今年の夏スペインいったんだよ。でねでね、本物の闘牛見ちゃった。闘牛場はコロシアムみたいだったよ。
 なんかね、一番最初にタッタカタッターつってファンファーレみたいのに合わせてフラメンコ踊ってんの。歓声が徐々に大きくなっていって、見てる人の視線があちこちにパッパッと切り替わっていくんだよ。いや、見ている人の熱気が凄くてさ、まさにパッションだね。
 いったん歓声がやんだかと思うと牛とピカドールが出てくるんだ。あ、ピカドールってのは馬に乗った副闘牛士ね、こう、見つめ合い、いや、にらみ合いながら。うわっ、怖っ。なんか客ながら緊張しちゃって。ぴーんと張りつめたのがあったね。牛は獰猛で蹴っ飛ばされたら即死しそうな勢いでピカドールを見てるんだよ。そしてピカドールはシャキーンって槍を出してくる訳よ。待ってました二人、いや一人と一頭の対決!突進してくる牛を軽ーくあしらって一発槍を肩に突き刺すのさ。観客の歓声と言ったら、もううるさいくらい。でもまだピカドールだからそれでも押さえてた方みたいよ。
 そうしてようやく主役のマタドールが出てくる訳さ。左手には赤い布、右手には剣を持って、ゴージャスな服来てたってるのさ。お互いじっと見つめ、いやにらみ合ってる。負傷した牛もまだ気を荒くしていて依然獰猛さは変わらなくて、マタドールの方はやけにクールに決め込んで、「ちょろいちょろい」なんていう余裕さえ出している。牛がついに赤い布に向けて突進してきた。それをもひょいとよけては牛をあしらい、どんどん牛の気性を荒くしていく。怒り最高潮の牛は最高の力でマタドールめがけて突進してくる、マタドールは剣を抜いて牛を待ち受ける。
 どうなった?どうなった?と会場は騒然となるんだよ、俺もチビリそうなくらい緊張してたわ。そしたら、牛が倒れてマタドールはクールなまんま。マタドールはそのまま会場をあとにするんだけど、牛が最後の力で這い上がってくるんだよ。でも結局倒れちゃって。
 でね、マタドールのあとをすぐさま追っかけたんだよ。勝利の余韻に浸りながら自信満々に歩いていくんだ、かっこいいよねぇ。闘牛場を出るとファンの嵐にあうんだけど、それをもよけて近くの飲み屋に入っていったのさ。
 フラメンコのかかるなかで勝利の美酒・フンダドールに舌鼓を打っている姿、男ながら惚れたわ。フラメンコのテンポがどんどん速くなってきて、さすがにクールな彼も一緒に踊ってしまったんだよ。決めのポーズもかっこいいし。あぁ、さすがパッションだねぇ。いや・・・パッションだねぇ。

ーー

 パッションかぁ、足りなかったのはそれかな?闘牛のイメージなんて思いつかなかった、よし、このイメージで行くことにしよう。でもあいつ、この間あったときにお土産くれなかったな、全く何を考えてんだろう、自慢話だけしやがって。

コーダ 「そしてシャンパンをもう一本」〜Coda ”And more Champagne”〜
 結局5つのストーリーが偶然にも葡萄酒のイメージにそっくりだったなぁ。なんでだろう、こんな偶然あるんだろうか。5つのイメージが、バラバラでもできたおかげで、なんか悩みも吹っ切れた気がしてきた。ある意味で衝撃。いや、軽くながせるような衝撃じゃないぞこれは。これで全てがつながった!みたいな、なんか頭にガツーンと来た感じがする。
 そういや俺、なんか今日はいつも以上によく飲んでたな。うぅ、酔いが回ってきた。なにげにいつもの飲み仲間はほとんどつぶれてるし。てか店中みんなつぶれかけててるし。ワインで酔いつぶれるなんて聞いた事無いよ。・・・眠い。寝てしまおうかな。
 あ、なんかうわごとが聞こえる。「危ないぞ気をつけ・・・」女子大生が変人の夢見てるらしいな。「お・お・おんな〜〜」フランス自慢男と石田純一気取りだ、夢のなかでも女好きみたいだね。「もっとのませろ〜〜」喋り続けたオヤジだ、まだ飲む気か?
 ん?スペイン帰りの飲み仲間が寝ぼけてるぞ。「おし、もう一本行くか!」ちょっと待った、あいつが一本開けるともう止まらなくなるんだ!しかもピンドンに手をかけてるし!「おーい、皆もう一本行くぞ」ヤバい止めなきゃ!やめろー!あっ、でももう無理・・・

「ポンッ」

 あぁ、もうどうでもいいや。もう飲んじまえっての。フランス自慢男と石田純一気取りは一緒になってカンカン踊ってるよ。女子大生たちも一緒になってカンカン踊ってるし。スペイン帰りの飲み仲間はボトルのままピンドン一気してるし。なにより、お喋りオヤジとその仲間たちが楽器を持って演奏してるし。しかも葡萄酒の「シャンパンをもう一本」だ。何だこのハチャメチャっぷり。もう分けわかんねぇ。もうどうでも良くなってきた。とにかくもう飲み明かそう、騒いじまえ。あ、俺回ってる、ウェイターが俺をまわしてる。横じゃないよ、上下だよ上下。マスター、ニコッてしてるし。皆一応に楽しそうだし、俺悩み解決したし、これでいいか。これで。
 翌日二日酔いで、子供たちから煙たがられたのは言うまでもない。そして、せっかく掴んだ曲のイメージを、酒と一緒に忘れてしまったことも付け加えておく。

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