[ORF2019 Pitch原稿] SFC、サラリーマン、そして教員へ:半年間で見えていること

去る2019年11月23日、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が毎年開催する研究発表イベント “Open Research Forum” (ORF) にて、12分間でプレゼンを行うPitch企画に参加してきました。「SFCスピリッツの邂逅」と題された枠において、今回のORF2019のテーマであるBeyond SDGsをちょっと踏まえながら、教員になってのこれまでで思っていることについてお話する機会をいださきました。

1ヶ月前にはプレゼン資料提出ということで、当然ながらそんなに前から話す内容がまとまるわけもなく、とりあえず資料を作ったあと、久々にプレゼン原稿を作成し、何人かに見てもらいました。具体性が見えにく、そもそも言いたいことが定まっていない、などのフィードバックをもらいましたが、どれも図星に思えたまま、本番を迎えました。用意したスライドを10分程度で喋り終えてしまい、「やばい、2分あまった」となって、慌ててアドリブ。ただそのアドリブが、聴衆にいちばん受け入れられたそうです。

当日の様子は後日動画化されますが、先立ってここで原稿と一部スライドをご紹介します。(※追記:2020年3月18日に動画が公開されたので、記事の最後に張り付けています)


「学校の先生」と聞いて、みなさんはどんな存在を思い出すでしょうか。

その後の人生に影響を及ぼす一言を言ってくれた先生に出会った人もいるかもしれません。学ぶことの楽しさや面白さを教えてくれた先生に出会った人もいるかもしれません。本気で打ち込める何かに導いてくれた先生に出会った人もいるかもしれません。

しかし。このスライドを見てください。

こんな先生の存在に心当たりがある人もいるのではないでしょうか。思春期のころ、反抗心から、先生に対してこういう気持ちになることもあったでしょう。私はそうではなかった、というと、嘘になります。

こういう先生にはならないようにしよう。そう思って、この4月から教員になりました。しかし、実際には、このスライドに書かれていることのすべてを、この7ヶ月間の間にやっていたのです。

学びの愉しさや面白さを伝えられる先生になりたい。その上で、自分が大切にしているスタンスである、「わたしとはちがうあなたと、いっしょにうまいことやって、だれかに役立つことをする」ということを伝えられる先生でありたい。

そう思っていながら、実際には「思い通りにならない」「ちゃんとせねばならない」「自分でどうにかしたい」という気持ちに苛まれていました。いまも、そうかもしれません。自分自身の中に、心の余白が失われている気もします。


申し遅れました。遠藤忍です。2007年にSFCに入学して以来、学部・大学院とSFCで過ごしながら学校教育について学び、教員免許を取得しました。研究や活動を通じて、学校の先生たちが日々頑張っていること知れば知るほど、当時よく言われていた「先生が世間知らず」という言説に違和感を持ち続けてきました。一方で、自分自身が「ビジネス」を語れるようになっていないことにコンプレックスを持ち、卒業後すぐに教員にはならず、マーケティングリサーチの会社に入りました。

6年間のサラリーマン経験を経て、ビジネスとはつまり、「わたしとはちがうあなたと、いっしょにうまいことやって、だれかに役立つことをする」ことだ、と気づきました。このスタンスは、SFCで過ごした6年の間に、自然と身につけてきたことでもありました。

その私が、教員の道筋として選んだのが、NPO法人Teach For Japanのフェローシッププログラムです。社会人経験の有無、教員免許の有無を問わず、全国から教育に志のある人材を集め、独自の事前研修を行った上で、全国の教育的に困難を抱える地域に、2年間派遣するものです。2年の間に、学校や地域、そして社会にインパクトを残していくことを期待されています。

そんな私が現在派遣されているのは、福岡県の筑豊地方です。炭鉱閉山が一つのきっかけとなり、さまざまな課題を抱えてきた地域です。ちなみに、私には縁もゆかりもない、人生初めての場所です。その筑豊のなかでも、私は飯塚という街で中学校の英語の教員をしています。この飯塚市は「教育先進地域」と銘打って、さまざまな取り組みをしています。私も英語を教える傍ら、校内の情報教育担当者として、市とSoftbank社の提携による施策、Pepperを使ったプログラミング教育を担当しています。8月から10月にかけて、「社会に役立つPepper」をテーマに、中学1年生・42名にプログラミングに取り組んでもらう授業を実施しました。

この授業をする上で大事にしたかったのは、「わたしとはちがうあなたと、いっしょにうまいことやって、だれかに役立つことをする」ということを、子どもたちに体感してもらうことでした。SFCで学んだ、テクノロジーをツールに、チームで社会課題に取り組むことの大事さを伝えたいと思いました。

しかし、実際にどう進めていいか、正直イメージが湧き切りませんでした。プログラミングのフェーズの実施アイディアはあっても、いかに社会課題に出会い、自分ごととしてテーマ設定をしていくか、その「大事なスタート」をどうしても設計しきれませんでした。

そんなとき、大学時代の友人を通じて、Pepperの会話エンジン開発に携わった、福岡出身のWebディレクターの方に出会います。彼とのディスカッションを通じて、自分の中で心許無くも思い浮かんでいた授業の進め方が明確になっていきました。ぜひ、彼を特別講師に呼びたい。学年の教員や管理職に相談をしながら、9月の頭にコンセプトづくりのワークショップを行いました。私ひとりではなく、最前線のプロの力を借りることで、取り組みの良いスタートを切ることができました。

1ヶ月半に及んだプログラミングの授業では、この特別講師の他に、地域に住むプログラミング指導をしている情報教育支援士4名、産学連携で配置されている学校ICT支援員3名、そして学年の教員を合わせた14人の大人が関わりました。4人1チームで10チームの子どもたちに対して、ほぼ1チームに1名の大人がつく体制で、子どもたちと大人たちが話し合いながらプログラミングを行なっていきました。そして、すべてのチームが、プログラムの完成とプレゼンテーションをやり遂げました。

私は、といえば、ある種プロジェクトマネジャーとして、学校の内外の様々な人を巻き込み、調整を図って、この取り組みを進めました。特に外部人材である情報教育支援士・学校ICT支援員の方々には、各チームへのプログラミング指南をしていただくこともあり、特別講師のワークショップから参加してもらいながら、メーリングリストやクラウドドライブを用いた情報共有、授業終了後のフィードバックアンケートの実施などを通じて、連携を図りながら進めていきました。

まさしく「わたしとはちがうあなたと、いっしょにうまいことやって、だれかに役立つことをする」という、これまで培ってきたスタンスを発揮した時間だったと思います。プロジェクトはひとしきり成功を納めました。でも、これは自分一人では成し得なかったことでした。

そして気づきます。

「そうか、もっと、誰かを頼っていいんだ」

自分一人だけが頑張らなくても、学校内外の周りが手伝ってくれる。そして何より、子どもたち自身が自分たちで学んでいっている姿から、そう思えたんです。余白を持てず、つい「なりたくない先生像」になっていた私にとって、あたりまえのように思えるこのことが、とても新鮮に思えました。


学校の先生は、生徒一人ひとりの学びをデザインしながら同時に、生徒たちの学校での生活に寄り添い、そうした「学び」と「生活」が起きる「学校」という場自体を組織的に運営する、ということが求められます。言い換えれば、学校の先生は、クリエイターであり、ディレクターであり、マネージャーでもある。ビジネスパーソンにも引けを取らないほどに、大きな役割・スキル・責任が求められると思います。

当然、何かを生み出したり、誰かに寄り添ったりする仕事には、余裕、余白が必要です。そうでなければ、到底できる仕事ではありません。時間的な余白もそうですが、気持ちの余白も必要です。しかし、最近多くのメディアでも取り上げられるように、学校現場は「余白」をなかなか持てない状況になっているのも事実です。

どうすればよいのか。たかだが半年程度しか働いていない私には、当然その解はまだ見えていません。ただ、なんとなく思うことがあります。それは、「学校は、社会をもっと頼っていい」ということ、そして「社会は、学校をもっと認めていい」ということです。

子どもたちの学びと、彼らの未来のために、学校現場は日々、様々なことに取り組んでいる。そこで行われている営みから、社会は、ことビジネス界は、様々なことを学ぶことができるはずである。そうした考え方にたって、世の中は学校に対して、期待をするよりも前に、もっと学校の頑張りを認めていいと思っています。そういった承認があってこそ、先生たちに心の余白が生まれていくのではないでしょうか。そのリスペクトを前提として、社会の側には、さまざまなサポートの手立てがあることを示してほしい。

一方、先生たちも、社会には、子どもたちの学びに繋がりつつ、自分にも余白を生みうる様々なリソースがあることを知り、つながり、頼っていくことが求められると思います。そうした外部とのやりとりを、自分の負担にせず、でも相手に任せきりにならず、「うまいこと」調整を図っていくスタンスとスキルを持つ必要が、学校側にも必要だと思います。

私は、学校と社会を、もっとなめらかにしたい。それは、一方がもう一方に進出していくのではなく、あるいは、一方がもう一方の到来を待つのでもなく、互いの立場を「だよねぇ」と共感し合いながら、スムーズに行き来をすることだと思っています。「社会に開かれた学校」とか、「学校をもっと多様に」とか、そういった声をよく聞きますが、学校にばかり期待をするのではなく、双方が互いにひらきあいわかりあうことで、「なめらか」が実現するのだと思います。

ただ、みんな同じようなことを言います。どうすればいいかの答えなんて、まだ半年しか教員経験のない私にはわかりませんし、それがわかっていれば今頃いろんな課題は解決しているはずです。それでも私自身には、「たぶんこれが大切になるだろう」と思う考え方があります。

それが、「わたしとはちがうあなたと、いっしょにうまいことやって、だれかに役立つことをする」ということ。このスタンスを、学校教育に関わる全ての人が持つことが、大切になるのではないでしょうか。


と、このプレゼンを悩みながら作り終え、原稿を何人かの人に読んでもらい、フィードバックを受けたうえで、この場に立っています。正直、ここで話しながらも、内容がまとまらない感覚があるし、ある人からは「あなたの迷いが見えます」というフィードバックをもらいました。

そうです。迷っているんです。迷いながら、目の前のことにがむしゃらに取り組んでいます。これからも、迷い続けながら、それでも「わたしとはちがうあなたと、いっしょにうまいことやって、だれかに役立つことをする」ということの大事さを信じて、進んでいきたいと思います。ご静聴、ありがとうございました。

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