コロナ禍における学習保証の話と、GIGAスクール構想の話とが相まって、オンライン学習がいろいろ騒がれていたが、気づいたら学校が再開となり、下手をするとオンライン化うんぬんは下火になりかねない。しかしだからといってGIGAスクール構想は止まらないわけで、そうなったらマジで困る。だから、シリーズ記事の書き出しを揃えること以上に、絶対に忘れてはならないので「例の動画」の印象深いスライドを貼っておく。
文科省の動画配信「学校の情報環境整備に関する説明会」で、担当課長が強い語気でこのスライドを出した件、ありうる「第二波」を考えればやっぱり止めてはならない。「うまいこと、しれっとやる」の精神で、いろんな情報を収集したし、いろんなことを考えたし、いろんなことを実践している最中である。自分の記録として、バラバラと、残しておこう。
今回は、「例の動画」にて考えたことを記事にした②の記事をスライド化して資料を作った話。ちなみに最初に書き始めたのが5月31日で1ヶ月半もほったらかしてしまった。
校長から言われた「情報を整理して」に嬉々として取り組んだ
緊急事態宣言が解除になった頃、もうすぐ分散登校が始まるという時期だっただろうか。勤務校の校長が「緊急で代表校長会に呼ばれた」と言った。私の座席は管理職の座る席に非常に近く、管理職たちの様々な打ち合わせ声が聞こえてくるので、その日の「会議に呼ばれた」という話も当然耳に入ってくる。ちなみに代表校長会とは市内の各学校の校長たちへの情報伝達会議である「校長会」とは違い、教育委員会の方針に関して諮問する、各校長から選ばれた数名の校長たちの会議だ。
さて、耳を傾けているとその会議の招集理由は「GIGAスクール構想の機材選定について」だそう。お、いよいよ本市にもその整備の波が来たか、と思い、とっくに情報教育担当は外れたにもかかわらず「興味あります!」みたいな顔をして管理職席でのやりとりに耳を傾けていた。それでなくともこのコロナ禍における学習の担保のために、eboardを取り入れてみたり、チェックテストや質問コーナーをWeb上に作ってみたりとするなかでGIGAの話も交えながら校長と会話をしてきた。そりゃ言いたいことも多い。
言いたいことが多そうな顔をしていたら、校長が声をかけてきた。「正直全然わからんから、導入のメリットとデメリットを教えて欲しい。書き出して。」とのこと。そもそもGIGAスクール構想については、5カ年計画での予算措置が一気に今年度中にと前倒しになったわけだが、国が学校設置者である自治体に対して「やれや」と大号令を発したものであり、導入しないという選択肢は(文科省の説明に従えば)ほぼない政策である。だから、導入しない、という結論にはならないはず。
で、じゃぁその代表校長会はなぜ招集されたのか、という話にもなった。開催前の予想としては「どの機材を選定しましょうか」という内容だと思われた。正直腹のなかでは「このサービスでしょう」というのはあったが、それを一教員が言うのも差し出がましい。他方、「機材だけ導入すればいいんでしょ」ということになりかねないとも思い、それじゃ困ると思った。なので校長の「メリットとデメリットを教えて」の声に、嬉々として「すぐやります」と言った。
そして資料が出来上がった
そしてすぐに、他の仕事をほっぽりだして資料を作った。その資料がこちら(なお、渡したものはもっとラフなデザインで、以下のものは今回の公開用にキレイキレイしたものである)。
作りながら楽しくなっちゃったのはもちろんのこと、私は文科省の動画配信「学校の情報環境整備に関する説明会」、さらにその半年前には某プラットフォーマーが開催したGIGAスクール構想に紐づくデバイスハンズオンセミナーに参加していたこともあって、少なくとも校内の誰よりも、あるいは市役所の担当課職員よりもGIGAスクール構想の掲げる理想状態を理解しているつもりだった。それもあって、資料の構成は、単に導入のメリット・デメリットだけに留めず、以下の構成にした。
- 一人一台の世界観とリスクへの考え方
- GIGAスクール構想下の機器導入の前提
- メリットと、活用のための手立て
- リスクと、防止の手立て
で、その資料をもとに校長にレクを行った。大事な「世界観」の話を理解してもらった上で、「細かい説明はいいので、この資料を委員会にたたっきつけてきてください」とだけお願いをした。先に結論を話すと、会議の意図は我々が予想した方向と少し違ったらしく、校長も「?」だったとのことだったが、とにかく資料はたたっきつけてきていただいた。市としての方針がどうなるかは、その会議から1ヶ月以上たった今でも、僕は知らない。
資料で語ったこと①:制限するな、使わせろ
資料で私が強調した点が3点ある。その一点目が、「制限するな、使わせろ」だ。
たとえばだが、多感な思春期男子は、一人一台のデバイスでも手にしようものなら、ほぼ間違いなくエロサイトを見る。そのリスクがあったとき、管理者はフィルタリングをする。その発想はわかるし、有害な情報から子どもたちを遠ざけた方がいいのは間違いない。しかし、フィルタリングは「いたちごっこ」であり、またそのフィルタリングが強すぎることで、本来学習に生かせるはずのコンテンツすらブロックされることがある。
その代表例がYoutubeだ。残念ながら勤務校では生徒機材からYoutubeにアクセスできない。それをブロックする意図もわかる。しかしそれではせっかくの動画教材へのアクセスができなくなるので、私の学習活動においては結構困る。それだけでない。私が学習活動や生徒会活動を行う上で生徒にPCを使わせようとすると、以下のサービスでブロックを喰らう。
- いらすとや
- Google Site(英語の学習コンテンツを制作した)
- forms.gleドメインでのGoogleフォーム
いらすとやのブロックはつらい。あんな良質なコンテンツ、ブロックされるとプレゼン作りすらできない。なんてこった。
だから思うのである。確かに有害コンテンツの視聴や学習活動外の行為に用いられる可能性があり、それらはリスクである。しかし、インターネット界隈のスピード感のある千変万化を思えば、フィルタリングでは追いつかない。だったら、あえてフィルタリングせず、逆に利用の履歴をトラッキングすればいいじゃないか。
問題が起きることを先に防止するのではなく、問題を起こさないようにモラル教育を行い、その上で常にトラッキング=監視をしながら、何か問題があればそのトラッキング情報をもとに指導をすればいい。たぶんその方が教育的効果は逆に高い気がしている。むしろフィルタリングで防げるリスクよりも、フィルタリングによって発生する「ICT利活用の停滞」の方が、よっぽどリスクな気がしている。
資料で語ったこと②:クラウドサービスを入れなきゃ意味がない
上述の①とセットとなる考えとして私が資料中で徹底して示したのが、児童生徒1人あたり1アカウントを付与するクラウドサービスの導入だ。この件はひたすらこの記事で書いてきたので詳細はそちらに譲るとして、ここでは校長にレクをする際にどんな話をしたかを伝えたいと思う。
この、一人1アカウントのクラウドサービス導入は、主に前述の①「制限するな、使わせろ」における、トラッキングにおいてとても重要な役割を果たす。つまり、だれが使っているのかを個人レベルで紐づけることができるので、常に情報を「監視」できる。というか、①で主張したことは、個人IDを付与する世界観でないと実現できない。
もう一つの観点からも。予見されることとして、各校にデバイスを一人1台で配備するけれど、家に持ち帰るな、というお触れ書きが出るかもしれない。あるいは、一人1台分を配備するけれど、誰がどのデバイスを使うかを紐付けられないかもしれない。となったときに、いつでもどこでも利用できるようにするためには、データは基本、いつでもどこでもアクセス可能なクラウド上に存在すべきではないか。この観点からも、個人IDを付与する世界観が必要になってくることがわかるだろう。
こんだけ一人1アカウントを主張するようになってきたのは、自分の実践として、Googleフォームを用いたチェックテストを皮切りに、クラウドサービスの利用を想定した学習活動のデザインをしてきたから。というか、早くその世界線のなかで学習教材を作っていきたいと思っているので、導入が待ち遠しくってしょうがないのだ。
そしてなにより、このクラウドサービスの導入については、きっと多くの教育委員会担当者や学校管理職が眼中にない項目だと思う。機材を入れればいい、という発想になるのはやむを得なくて、ちょっとしたマニアじゃないと「ハードとソフトはセット」という発想にはなかなかならないと思う。なのでこの②の点については、校長へのレクの際にかなり重点をおいて説明をした。
資料で語ったこと③:持ち帰らせろ、じゃなきゃまな板になるだけ
正直、この③の部分については、多方面で議論になりやすいところだと思うが、あえて突っ込んで資料で語ってみた。なぜなら、こうでもしないと第二波による休校措置に耐えきれないからというのが大きい。GIGA構想の予算消化が前倒しになったのもコロナの状況への対応が故だと思っている。ということは、家庭への持ち帰りを許容できる状況にしなければ意味がないとすら言えるかもしれない。
もちろん、破損や紛失のリスクもあるわけで、そこに対しては保険をどうするとか保護シートやケースをどうするとかにまで予算が降りているわけではないことも知っているのですごく歯痒い。そこにおいては、知人の教員がGoogleからChromebookの貸与を受けた際に貸し出しリスクに関しても考えていた事例を知っていたので、貸し出す際には使用許可願いを出してもらい、その中でさまざまなリスクに対する取り決めをすればいいと思うようになっていた。
で、持ち帰りを許容するということは、不登校になっている(ここでは、学校で勉強することを一番に望んでいるが様々な理由でそれが叶っていない状況を示す)児童生徒の学習保証をするためにデバイスを貸し出すことにもつながる。逆に持ち帰りを許容できなければ、それを絶ってしまうことになる。さまざまな方法による学習の保証が図られて然るべき現代、やっぱり文房具的に利用できるくらいにハードルを下げたい。
では通信費はどうなるのかという話があるが、これは以前この記事で書いた通り、通信費は生活保護の支給対象に含まれることになったし、最低限度の通信速度でも十分学習には耐えうるんだから、「通信環境がない家庭が」云々とか言っていないで導入してしまえよ、と思うわけだ。学校は、それでも通信環境を確保できない子どもたちのために開けておけばいいじゃないか、と。
おわりに
そんなわけで、嬉々として勝手に資料を作り込み、言いたいことを全部ぶち込んでやったわけだが、前述の通りその後本市がどのような方針で機材調達を行うことにしたのかは知らないし、いつ頃それらが導入されるのかもまだ聞いていない。それでも、こうして整理を図り、そのナレッジをこうしてシェアすることには一定意味があったと思っている。
ところで、この資料が欲しい場合には、なんとかして私に連絡をしていただきたい。そうしたらPPT版を差し上げる。