講演録:「採用活動」から、就活を考える

先日、『職業講話「サラリーマンとしてはたらく」』を書き終えてFacebookにシェアした。幸い、「いいね」を多くいただいたけれども、実のところ、あれを読んだ人がどんな感想を持ったのかが知りたかったわけで、もうちょっとコメント欄で対話をしたかったというのが正直な所である。あの文章はある意味、ここまでの社会人生活の、一つの区切りとしての棚卸しになったわけで、私なりの考え方として世に問うてみたかったものだった。

んで、実はあの職業講話の3日後、今度は仕事として、とある大学のサブゼミで、本業の一環として大学3年生向けのワークショップをさせてもらう機会をいただいていた。マーケティング関係のゼミで、弊社が協賛するゼミ対抗のマーケティング大会の運営をしているゼミの3年生向けに、就職活動をテーマにした勉強会をする、ということになっていたのだ。

で、案の定いろいろ間に合ってなくて、例の職業講話を終えてから間髪入れずに資料を作り始め、結果的にスライドの完成は講演の20分前だった。しかもそのときは、金曜日に石巻で職業講話をしたあと仙台泊、土曜日は大阪に移動して、日曜日は大阪で仕事、後泊して月曜日の昼頃に移動して昼過ぎに講演、という、かなりハードスケジュールのなかでコンテンツを作った。

その割には、というか思った以上に、私自身の「人事としての固定観念」を整理したものになったので、今回もまた書き留めておこうと思う。


はじめに

プレゼン口調の本編に入る前に、前提情報を整理しよう。

今回の講演対象者は、とある大学のマーケティング系のゼミの3年生。事前にゼミの幹事にヒアリングをして問題意識を聞いた結果、彼らゼミ生は、秋にその大会に向けた準備にガチ・コミットしすぎて、就職活動に乗り遅れている感覚を持っていたらしい。私からすれば「そんなことどうでもいいじゃん、その大会を頑張っているのはかけがえのないことだよ」と思うのだが、とはいえ冬のインターンを控えて選考等も始まっていて、ESが書けない、あるいは書けたとしても、面接で本領を発揮できない、といった不安がつきまとうらしい。

そんなヒアリングをしていくなかで思い浮かんできたことは、彼らは就職活動を「就職活動」と捉えている、ということ、言い換えると「いかにして面接や試験を突破して内定にたどり着けるか」という志向性に陥っている、ということだった。たしかに良いところに入りたいだろう、でも少なくとも私は「すごい人選手権」で人集めをしているのではなく、ちゃんと自社の仲間になってくれる人を探すことをしている訳で、その意味における「採用活動」と世の就活生が捉える「就職活動」には大きな隔たりがあると思えて止まない。

なのでいっそ、採用側の人間である私が考えていることを全部ひけらかした上で、採用する側に立ってもらう話をしよう、そしてワークもやってもらおう、という試みをすることにした。結果的にメインどころとしたかったワークは時間が無くてできなかったし、後半は熱がこもりすぎて質問や発言をしてもらえる隙をつくれず、本番直後は「あぁしゃべりすぎたなぁ」と思ったが、それでもあとからアンケートをとると、個々人に刺さった部分があったようだ。

では、次の段落から、できるだけ話したことを再現しようと思う。


あなたにとって、今までにない気づきを

こんにちは、マクロミルの遠藤といいます。弊社が、みなさんが頑張って運営している取り組みを協賛しているところからご縁をもらい、ぜひ勉強会を開きたいというお声がけをもらって、この場に立たせてもらっています。座ってるけど。30歳独身彼女なし実家暮らし。そんな私は大学時代、吹奏楽サークルと、大学の最寄り駅にイルミネーションを取り付けるサークルにいそしみ、はたまた教育学をやりながら大学院まで行きました。

今の会社には2013年の4月に入社して、その後データ分析をする部署に配属されました。未だに忘れもしない2014年12月18日。当時の上司に「お前、来年から人事な」と言われました。・・・2週間後やん。というところから、人材育成の仕事を3年くらいして、今年の1月から新卒採用をしています。

うちの会社は「マーケティングリサーチ」というビジネスをしていて、っていってもみなさんマーケティングを専攻しているからだいたいわかると思いますが、「売れるしかけづくり」としてのマーケティングにおいて生じる課題について、「問いを立てて調べる」というリサーチの営みを行っているのが我々です。まぁおかげさまでお引き合いも多く、日本の名だたる企業はおろか、世界的にも有名な多国籍企業とのお取引があります。

そんな弊社は、ブランドタグラインとして “Innovative Insights for All” というのを掲げているのですが、私は勝手にこれをこんな風に訳しています。「誰かにとって、今までにない気づきを」ってね。今日は、あなたにとって「今までにない気づき」を持ち帰ってもらったら嬉しいです。


「既知の窓」を広げる

ところでみなさん、同じゼミ生だから、互いに知り合いですよね。だからみなさんのお名前聞きたいんですけど、ただ自己紹介するのは面白くないので、他己紹介をしましょう。今回は、次のスライドの枠組に沿って、誰かが誰かを紹介してください。順番とか気にしないので、早い者勝ちです。

●●さんは、ゼミではまるで☆☆。ついつい××ですが、とっても■■なんです。

(とまどいながらも、ひとしきり他己紹介が繰り広げられる。みんな気恥ずかしそうにしている)

はい、みなさん分回りましたね。ありがとうございました。で、なんでこんなことをしたのかっていうと、みなさん「ジョハリの窓」ってご存じですか? 心理学で有名なフレームで、自分に見えている/見えていない、と、他人に見えている/見えてない、で自分自身のことを分ける、というものです。で、この、自分にも相手にも見えている「既知の窓」というのをいかに広げられるかが、他者とのコミュニケーションをスムーズに進め、仕事においても高いパフォーマンスを上げるために大事なことだと言われています。

就職活動における自己分析というのは、まさしくこの「既知の窓を広げる」ということなんだと思っています。今回のワークは、ある程度関係性のあるゼミ生どうしだからできること、しかもみなさんはかなり「ガチ」でゼミ活動をしているでしょうから、お互いのことが見えているはずでしょう。もし今回の他己紹介をされた時に「ん?」という違和感があったとしたら、それはおそらく、自分にとって見えていない盲点であるか、あるいは自分が秘密部分を出せていない、ということになるでしょう。せっかくなので、ぜひ周囲の人を頼りながら、自分に見えていない部分に対する気づきを与えてもらうのと同時に、それだけでなく、というかむしろそれ以上に、自分から自分自身のことを開示できていくと良いかもしれませんね。


みんなが抱える就活への不安

さて、ここまででもう90分のうちの1/3を使っちゃいましたね。でもいいや、わりとここまでも重要なことだったので。で、ようやく本題のテーマですが、今回は「採用活動」がテーマです。「え、就職活動じゃないんですか」と思うかも知れませんが、確かに皆さんにとっては「就職活動」だと思いますが、私たち人事からすると、「採用活動」なんです。で、この「採用活動」っていう視点で考えてみましょう、というのが今回の主旨です。

ところで、今回の勉強会を企画してくれたゼミのIさんとWさんの二人からは、みなさんがこんな悩みを持っていると聞いていました。

「自分たちはこの秋、ゼミ活動にガチで取り組んでいる。ガチで取り組み過ぎて、周りは就活にいそしんでいる気がして、自分の就活が不安になる」

で、私はそれを聞いて思ったんです。別にそれでよくね? と。ガチで取り組んでいるものがあること、それがマーケティングという実務的なものでありながら、他方ではゼミ活動であり学術的なものであること。とてもかけがえのない経験であり、就活でも間違いなくアピールできるエピソードなはずです。だから皆さんには自信を持って欲しい。

でも、とはいえ就活は不安ですよね。なのでここでワークをしましょう。あなたが感じている就活に対する不安を書き出して、それをみんなで共有しながら、「マジ、それな」というのをグループごとにピックアップしてください。

<みんなの「マジ、それな」>

  • 企業研究やESの準備をする時間が確保出来ない
  • そう言っているのが言い訳がましく思える
  • 自己分析は、今の自分と過去の自分のどちらを重視するのか
  • 周囲が何をしているのか分からない
  • スキル・能力の面や就活のアクションの面で周囲と比較して焦ってしまう
  • 10年後の将来像が明確に持てない

なるほど。いろいろ出てきましたね。ちなみに事前にIさんとWさんにヒアリングした際には他にも、先輩達が良い企業に行っているのでプレッシャーがハンパない、面接時に自己分析した内容をどうアウトプットすべきかが不安、という要素もあると聞きました。

で、思うにそれらの不安感や課題感って、たぶん単に情報整理ができていないだけなんだと思うんです。おそらく人間がものごとを不安に感じるのは、不確実なことに対して、「これで大丈夫だ」と思えるような情報が足りないことに起因するからだと思います。私の会社がやっている「マーケティングリサーチ」も、情報を提供することを通じて、マーケティング施策を実施する前につきまとう不安みたいなものを和らげているわけですが、実は全く新しい情報を提示することよりもむしろ、モヤモヤと悩んでいる状態に対して、すでに持っている情報を整理してあげることのほうが大事だったりします。


やりたいことは、名詞と動詞のかけ算

というわけでここで一つワークをしましょう。マンダラートってご存じですか? 3×3の9マスを紙に描いて、ある一つのキーワードを中心に、その周囲に連想する8つのワードを書き出し、その書き出した8つのワードをそれぞれまた9マスの中心に置いて連想するワードを書き出す、という発想を広げる方法です。で、今回はそのどんどん広げていくところまではやりませんが、あなたが現段階で行きたいと思っている業界を中心ワードに置いて、その周囲の8つのマスを連想するワードで埋めてみてください。

やってみてどうでしたか? で、このワークでやりたかったことは単なる連想ゲームではありません。みなさんが連想したワードを眺めてみたときに、皆さんがその志望業界に行きたいと思っているのは、その業界が携わっている「領域」に対して興味があるのか、それともその業界の仕事の仕方、言い換えれば「関わり方」に興味があるのか、どちらに力点が置かれていそうですか?

会社に入ってから2年半はシェアハウス暮らしをしていて、そのときの同居人に日本科学未来館のサイエンスコミュニケーターだった方がいて、その彼が以前こんなブログを書いていたんですが、曰く「やりたいことは、名詞×動詞のかけ算だ」と。ブログでは大学の進路決定で話されていたんですが、これは仕事にも通じると思うんです。

たとえば、私は鉄道好きなのですが、「電車を」「運転する」なら電車の運転士、でもみんながなれる訳じゃない。だから「電車」を固定しておいて、たとえば「電車を」「売る」ならば、実は重工メーカーだし、「電車を」「守る」なら、電車運行に関わるシステムを開発する会社だったりするわけです。反対に「運転する」を固定して、それを「動かす」と言い換えるなら、実は何も運転士だけが仕事になるわけではなく、人の動線設計をするという意味では都市開発や不動産、あるいは小売りだって「人を」「動かす」になります。

若干こじつけ感があるかもしれませんが、ようはこのように「名詞」つまり「どんな領域に」と、「動詞」つまり「どうかかわるか」とに、分解して考えることができる、というわけです。そして私が思うにですが、残念ながら新卒の就職でこの双方を同時に叶えることができる人は本当にごくわずかだと思っています。だからこそ、自分はどちらに力点を置いているか、どちらについて柔軟性を持たせて考えることができるか、というのを考えておいて欲しいのです。そうすると、一つの選択肢に固執することなく、多様な選択肢から就活を進めていけるんだと思います。


学生の本音と、人事の「発想の起点」

とはいってもですよ、中にはこんなことを感じる人もいるかもしれません。

「やりたいこととかよく分かんねぇよ、志望理由も大して無ぇよ」

はい、分かります。多くの就活生が、各企業に対してぶっちゃけ抱いている思いだろうし、だけどある意味仕方なく志望理由を「でっちあげている」のだと思います。それに、こんなことも思っている人がいるのではないでしょうか。

「なんでそんなに過去のことや自分のことを聴いてくるんだよ」

はい、これも分かります。それで仕方がないからなにかのエピソードを作ってくるのだと思います。しかも「ウケがいい」ものを選んで、盛って。それぞれが経験してきたことはとてもかけがえのないものなのに、なんとなくウケを気にしてしまい、結局他人と同じようなエピソードになってしまって。

でもそれ、思うんですが、「就職活動」という構造自体がそうさせている気がしているんです。致し方ないことですが、学生の皆さんは会社に「入れてもらおう」としているんじゃないか、と。でもそれは、みなさんが「就職活動」だと思っている限りある一定致し方ないことだと思います。でも、各社の人事がやっているのは「採用活動」なんです。この、「就職活動」と「採用活動」は、発想の起点が全く違うんだと思います。

このスライドは先日、宮城の石巻で中学生に職業講話をした時に「サラリーマンって何か」を説明する時に使ったものですが、会社というのは「みんなで」商品やサービスを作って売っている、というところだと言いました。ポイントは「みんなで」というところであって、だからこそ会社組織のなかでも、それぞれの「できない」をそれぞれの「できる」で支え合っているんだと思うんです。そしてそれは企業間取引においても同じことが言えるのだと思います。

で、会社組織が目指しているのは成果、つまりパフォーマンスの最大化です。それは言い換えれば、「わたし」とは違う「あなた」と、いっしょにうまいことやって、「だれか」に役立つことをする、ということなのだと思います。企業の採用活動は、この前提をベースにやっているわけです。


すごい人選手権ではなく、仲間集めである

では一つここでもワークを。チームごとに、このゼミに新しいメンバーを迎え入れるための採用活動をするとして、何を判断するためにどんな質問をしますか?

  • 能力や姿勢を判断するために、過去のチャレンジや乗り越えた経験を聞く
  • 一点特化しているかどうかを判断するために、自分が他人に負けないと思うことを聞く
  • ゼミ内での強みや弱みの多様性を担保したいから、それぞれの強みや弱みを聞く
  • 組織が煮詰まってもやれることを見つけられるかが大事だから、適応力を見たい
  • 見た目、というか、オーラって大事だと思う

ありがとうございました。いろんな意見が出ましたね。で、分かったと思うんですが、みなさんが考えているようなことを正しく人事たちも考えています。なぜなら「採用活動」というのは「すごい人選手権」ではなく、「仲間集め」だからです。仲間集めだからこそ、会社を認知してもらい、興味を持ってもらって、説明会に参加してもらって、選考を受験してもらって、入社意向を高めてもらって、内定を出したら承諾してもらって、入社してもらって、そして活躍してもらう、というプロセスを辿ります。

そうするとおそらく皆さんが不安を感じているのは単に採用選考を受ける部分だけなんだろうな、と。でも企業人事は、採用選考以外にもいろんなことを考えているんだ、ということをわかってもらえると嬉しいです。少し別の説明の仕方をすると、これまた例の職業講話では、会社を「ワンピース」に例えました。ルフィは、ビジョンを掲げた社長なわけで、そこに集った仲間たちはそれぞれの役割を分担しながらビジョン実現に向けて動いている、と。

で、人事がやっているのは、その船に乗る優秀な乗組員を、見きわめて→魅力づけて→仲間にして→育てて→活躍させる、というプロセスなんです。もちろん、最初から優秀だと思える乗組員に入ってもらうことはとても大事です。でもそれと同じか、むしろそれ以上に、そうした人たちが仲間として活躍していくプロセスが大事になるんです。だから「すごい人選手権じゃない」わけです。


「強み・弱み」「過去・未来」を聞くのはなぜか

ところで、人のパフォーマンスを最大化するということは、すなわちその人の行動からくる効果を高めながら、同時にその人の行動によるリスクの発生をできるだけ抑える、ということだと言えます。この「効果」がつまり「強み」であり、また「リスク」が「弱み」になります。人事が、その人の「強み」や「弱み」を問うのは、どうすればその人の発揮する成果を最大化できるかを知っておくためであり、また同時にその人が自分自身で成果の最大化を図れるか、そのために自己認知をしているかを確認するためです。

パフォーマンスの発揮については、もう一つの図があります。よく言われる「Will・Can・Must」モデルです。私の会社ではこの「Must」を「Challenge」と言い換えています。大事なのはこの順番で、Can:自分ができること、Challenge:自分にとって課題であり乗り越えていくべきこと、この双方が土台としてあるからこそ、Will:これから自分がどうしていきたいか、が乗っかるわけです。この3つが欠けることなく、ちゃんと認知されていること、そしてその重なりの領域が広がっていくことが、パフォーマンスの発揮において大事だと言われています。

そして、自分のできることや自分の課題というのは、これまでの人生の積み重ねから気づける要素であり、つまり過去のエピソードに立脚していて、一方の今後の方針は未来を志向した話なわけです。だから面接では、その人の過去のエピソードから「強み」と「弱み」を抽出するとともに、志望理由やキャリアビジョンといった未来の話から「意志」を引き出すわけです。

このスライドの図は、私がバイブルとしている、元進研ゼミ高校講座小論文の編集長だった山田ズーニーさんの本『考えるシート』からとってきた図なのですが、現在の自分は、過去・現在・未来をつないだ直線の上にあり、また関わる社会との交点にある、という考え方が、とてもしっくりきています。だからこそ、目の前の一歩である「だから自分はこれをする」というのは、過去・未来・現在・関わる社会の4要素の理解が必要だ、と言えます。

また一方では、直線というのは2つの点が規定されれば引けるものだからこそ、過去と現在がわかれば未来は見えてくるし、未来と現在は過去からのつながりのうえに成り立っている、ということも言えると思います。特に私は「過去」に執着する人間であり、その人がどういう歩みをしてきたからこそ現在があるのか、またその人が過去の歩みをどのようなものだと捉えて未来につなげようとしているのかに興味があります。だからこそ余計に思うのですが、「キャリア」つまり「進む道」というのは、これまでの歩みに規定されるのだと思います。


大事なのは、行動特性の把握

そもそもなんですが、私は「強み」と「弱み」というのは表裏一体のものであり、また結果的なものだと思っています。むしろ私は、その人が出す「行動特性」が、あるシチュエーションにおいては「強み」になり、またあるシチュエーションでは「弱み」になるということなのだと思っています。となると大事になるのは、その人がもつ行動特性を理解することになります。

そして、さっき私は「過去に固執する」と言いましたが、私の理解の筋道から言えば、個々人の「行動特性」というのは、その人がどんな「価値観」を持つか、によって規定され、またその「価値観」というのは、過去に経験した「原体験」そのもの、あるいは「原体験」を現在においてどのようなものと捉えているかによって規定されると考えています。

ここで「原体験」というと、とても大きなもののように思われるかもしれませんし、なにかこう「ひた隠したい過去のできごと」にも思えるかもしれませんが、そんなことはありません。本人にとって、考え方を形づくったり、あるいはシフトチェンジしたり、ということにあたる経験が「原体験」だと思っています。以前の私はそうした「原体験」は高校生時代までにだいたい起きると思っていましたが、どうやらそうでもなさそうだ、むしろ大人になってからでも、「価値観」の形成に寄与する「原体験」は起きる、と思えてきました。

たとえば私の「こだわりが強い」という行動特性は、キレイなスライドを作るという強みとして表出する一方で人に任せられないという弱みもはらんでいる。この特性は、「よく見られたい・優秀でいたい」という価値観がもとになっていて、おそらくこの価値観を作り上げた最初のきっかけは、3歳で母を亡くしてから5歳で父が再婚するまでの間の育ての親であった祖母が、近所づきあいのなかから「遠藤さんのお孫さんは」と言われてきた、そうした環境で育てられたことに要因があると思っています。いや、ほんとかどうかはわかりませんが、こうした方が「理解がしやすい」のです。

ちょっと脇道に逸れましたが、結局採用活動で何を判定したいかというと、その人は再現性をもって成果を出し続けることができる人なのかどうか、ということ。そのために、どんな「行動特性」をもっているのか、その「行動特性」は再現性のある成果につながるのか、ということを知りたいのです。だからこそ「行動特性」を知るために「価値観」および「原体験」を聞くし、またその「行動特性」を未来に向けてどうしていきたいか(伸ばしていきたいのか、乗り越えていきたいのか)という「意志」を問うわけです。


はっきり言って、新卒採用は無理ゲー

そもそもですよ、新卒採用はとても大変で、中途採用の方がよっぽどわかりやすいと思うんです。このスライドを見てください。

中途採用の場合、働いた経験がある人が対象で、しかもどのポジションに応募するかは第二新卒でない限りほぼ明確に決まっています。そして、即戦力として働いてもらうことを期待している。採用活動は仲間集めであって、その人にどう活躍してもらうかを考えていくための情報収拾の場でもあるわけで、その前提からすれば、中途採用の候補者のほうが、その人が活躍するイメージを面接官や人事は思い浮かべやすい。だからこそ聞かれることは、前職での経験と、なぜ転職をするのかの理由。これだけで、過去と未来、行動特性と意志といった内容がコンプリートできてしまうのです。そもそも「ビジネス」という共通のプロトコルがあるので、わかりやすいんですね。

一方の新卒採用はそうもいきません。アルバイト経験は別として、言われたことをこなすだけでない、自ら価値を生み出し続けるという形での就業経験には乏しく、また新卒採用は総合職一括であるがゆえに活躍するポジションも決まっていなければ、即戦力想定もされていない。そんな状況下で、その人がどういう活躍をするかを予測していくことはとても大変なことです。だからこそ、その人の過去の経験と将来ビジョンを何とかして聞き出して、そらはビジネス場面においてどのように作用するかをイメージして予測を立てるのです。これはもう、大変なわけです。

そして、具体的な「役割分担」が明確な中途採用と違い、「何にでもなれる可能性がある」新卒採用の場合、どこの会社に行っても言われるだろう「求める人物像」には大差がないはずです。そりゃそうなんですよ、というのも抽象化をかさねれば、すべからく「おしごと」というのは、ゴールと現状の間にある差分を施策で埋めていく、という「問題解決」のプロセスに他ならないからです。ゴールを規定できる、現状を分析できる、施策を立案できる、それをやりこめる、その成否を判定して次に活かせる、ということが必要なこと。だからこそ、自分で考えて、アクションできて、振り返れて、より良くできる人が、どの会社においても「求める人物像」になるわけです。

つまり新卒採用における面接というのは、正社員就業経験がないなかでも、その人が活躍する様子をできるだけイメージし、その人がいかなる状態でも自ら動くことができるかを判定する、という場なのです。これははっきりいって、なかなかの無理ゲーなんです。


志望理由は、作るのではなく、整理するもの

じゃぁどうするんだ、と。どんな情報を出せばいいんだ、と。そこへいくと、先ほど紹介した私のバイブル・山田ズーニーさんの『考えるシート』に、「自分を社会にデビューさせる企画書」として、4つの要素を抑えろ、と書いてありました。その4つというのが、

  • 現代社会認識:私は、この仕事をめぐる社会をこう見ています
  • 相手理解:私は、この会社と仕事を、このようなものだと理解しています
  • 自己理解:今までの私は、このような経験・思い・長所を持っています
  • 意志:だから私はこの仕事に就き、将来このように人や社会に貢献したいです

という要素です。こうした要素で、あなたが考えていることを整理していけば、一見「無理ゲー」ともいえる面接の場面においても、相手にわかってもらいやすい情報提供ができるはずです。

で、別に私は「志望理由をつくれ」と言っているわけではありません。作るんじゃなくて、整理するんです。会社に寄せろ、というつもりもありません。なぜなら、会社に寄せるような言い振りで言葉を紡いだところで、それは自分自身の「あり方」や「価値観・考え方」との一致感がないものになるからです。どこかに苦しさをかかえる「偽り」の状態で不幸を生むのは、むしろ入社してからのパフォーマンス発揮の部分です。

私にとってのバイブルともいうべきもう一冊の本に、西村佳哲さんが書いた『自分をいかして生きる』という本があります。この本の中に、島のモデルがあって、曰く海面から出ている「成果としての仕事」は島のようなもので、水面下には、その仕事を支える「技術・知識」が、その下では「考え方・価値観」がそれを支え、さらには「あり方・存在」が支える。それらの一致感があることが大事だ、と言われています。私も、本当にそう思います。

最初の方にも言いましたが、不安や悩みがあるのは情報が整理されていないだけの話だと思います。そして、皆さんの中にはすでに、作り込まなくても、十分人に誇れるだけの生きてきた積み重ねがあるはずです。そこを整理していけば、強みも弱みも、志望理由もキャリアビジョンも、自ずと見えてくるはずです。それをするのが、自己分析というものだと思うのです。


人事、なめんなよ

ワンキャリQ&Aというサービスを使っていて、こんな質問を編集部から受けました。

「企業にあわせて自分の気持ちを偽ったことがある」という学生に向けて、「人事のホンネ」を聞かせてくれませんか?

私はこう答えました。

偽ってもどうせ丸裸にするので無駄です。人事の面接力、なめないでください。それに、偽っても、あなたも苦しむだけだし偽り癖がつくだけでなく、企業側にとっても予見しなかったリスクが発生する可能性が高いので、偽りは合理的に考えて無駄です。正直とは、戦略です。誠実こそが勝ちパターンです。隠す暇があったら自分自身にディープダイブしてきてください。隠したい部分と向き合ってゲロ吐くくらい苦しんできてください。そういう人の方が強くなれるから。

今日の話が、皆さんの気づきにつながれば幸いです。就活、頑張ってください。

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