2018年11月、311以降から関わってきた石巻の子ども支援の団体・一般社団法人プロジェクト結のご縁で、宮城県石巻市の内陸の方の中学校で職業講話に登壇させてもらった。私以外に4人の「社会人」がいて、木工職人・大学教授・管理栄養士・靴職人、というバリエーションがあるなかで、私は「東京の、無形商材である、マーケティングリサーチの会社の、人事をしている、サラリーマン」という、おおよそ中学1年生からしたら縁遠いどころかイメージすらつかないポジションの人間としてその場に赴いた。まさしく無理ゲーである。
みなさんがふだん、スーパーやコンビニで見かけるような飲み物・お菓子・食料品から、着ている服、スマートフォン、自動車や鉄道、ゲームやテレビや動画サイト、マンガや本や雑誌まで、ありとあらゆる「商品」や「サービス」のウラガワには、それらが売れるためのしかけが隠れています。私の会社は、そんなモノが売れるしかけである「マーケティング」をするために必要な情報を、アンケートを使って調べています。「世の中の人々は、どんな商品やサービスを求めているんだろう」「この商品をもっと買ってもらうためには何をすればいいんだろう」そんな、企業のお悩みを、調べることで解き明かしていく仕事です。私・遠藤は、そんな会社のなかで、一緒に仕事をする「会社の仲間さがし」をする【人事】という役割をしています。ちょっとイメージしにくい、「企業を支える仕事」「インターネットを使った仕事」「サラリーマンとしての働き方」を、お話します。
というプロフィール文だけ先に事務局に送り、結局資料作成は前日から当日にかけて突貫工事で作成した。だがその割には、というか、思った以上に、自分自身が「はたらく」ということをどのように捉えていたのかを捉え直す良い機会になったのは確かなので、ここに可能な限り話の筋を思い返して書き起こしておきたいと思う。
みんなが思う「サラリーマン」
生徒:起立、気をつけ、よろしくお願いします。
遠藤:あ、そんな感じで始まるのね。よろしくお願いします。ところでさ、みんな誰の話を聞きたいかは自分で選んだんでしょ。どうして選んでくれたの?
生徒:なんか、「マーケティング」って言葉がかっこいい感じがしたから。
遠藤:なるほどね。たしかに聞き慣れない言葉だからそう思うかも知れないね。じゃぁ後々その話もちゃんとしようと思います。さて、まず「お前誰だよ」って感じだよね。遠藤忍といいます。中学校の頃は吹奏楽部だったんだよ、吹奏楽部の人いる?
生徒:そもそもないです。
遠藤:あらま。まぁいいや。で、普段は会社員をしています。でもさ、会社員って何だろうね、って話。会社員は「サラリーマン」って言い換えられるけど、このなかにおうちの人がサラリーマンって人はいる?
生徒:はい。なんか水道関係のなんかをしています。下水道の水をキレイにする、みたいな。
遠藤:なるほどね。でも他のみんなは・・・、そうか、おうちの人がサラリーマンかどうかもなかなかわかりにくいのかも知れないね。じゃ、手とか挙げなくていいから、思いついた人から、「サラリーマン」って聞いて思い浮かべることをどんどん言っていって。
生徒:係長
生徒:上司に怒られる
生徒:スーツ
生徒:満員電車
遠藤:なるほどなるほど。なんか僕がある程度予想した単語と一緒だね。そうそうみんなさ、「サラリーマン」と聞いて思い浮かべるアニメのキャラって誰?
生徒:野原ひろし
遠藤:だよね。でも知ってるか?あの人、かなり有名な企業で、それこそ係長で、それで一軒家持って2人の子持ちでお母さん専業主婦で車も持っていて、しかも家は一回燃えてるんだぜ。まぁいいや、ちょっと余談が過ぎた。そう、なんか大変そうだって思うかも知れないけれど、今日みんなに伝えたいことは、こういうこと。
サラリーマンって、思った以上に楽しいんだよ、ってこと。
会社ってなんだろう
遠藤:ところでさ、「会社員」って、会社に勤めている人のことなんだけど、この「会社」って一体何なんだよ、って思うよね。会社ってのは、「働く人が集まって、みんなで「仕事」をする」ところだと僕は思っている。ある意味、船みたいなもんだと思っていて、つまりマンガにたとえると、ワンピースなんだよね。みんなで集まって、「海賊王に、俺はなる!」って言っている社長といっしょにグランドライン目指すわけでしょ。僕はもう7年前くらいに漫画版途中で挫折しているので中身ほとんんど覚えてないんだけど。
ところで、サラリーマンは会社に勤めている人。でもそうじゃなくて、自分の家で店をやっていたり、あるいは農家をしていたり、そういう「自営業」ってのもあるんだよね。でもそれって実はそんなに大差がなくて。会社は「みんなで」商品やサービスを作って売っている、でも自営業の人は「自分で」商品やサービスを作って売っている。この「商品やサービスを作って売っている」というのは、実は一緒なんだよね。
ところでここで頭の体操。みんな、自分が知っている「会社の名前」をできるだけ挙げてみよう。よーい、どん!
女子生徒:え、わかんないんだけど。株式会社、しかしらない。
女子生徒:でもさ、「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りします」とかあるじゃん。
女子生徒:あ、そうか、じゃ「トップバリュ」とかなのかな
男子生徒:(そんな女子生徒の会話を尻目に黙々とエンタメ系会社を書き出す)
遠藤:じゃ、書けた人、言ってみよう。
男子生徒:UUMU、レベルファイブ、ソニー、ニンテンドー・・・
遠藤:さすが男子の趣味がよくわかる名前の出方だね。他は?
女子生徒:トップバリュ
遠藤:なるほど。でもあれは会社名じゃなくて「ブランド名」なんだよね。あれを出している会社は「イオン」っていうんだ。
女子生徒:Youtube
遠藤:それもインターネット上のサービスだね。で、あれをやっている会社は「Google」っていうんだ。
んでね、なかなか難しかった人も居たかもしれないけれど、みんなが知っている会社だけが「会社」じゃないんだよ。日本には、4,098,284の「会社」があるんだ。んで、働いている人はだいたい「会社」に入っていることが多いんだわ。つまり、みんなには400万通りの「会社選び」の選択肢があるってことなんだよ。
それでね、たとえばみんなが目にする商品を作っている会社が一つあって、たとえばとあるグミを作っている会社があるとしよう。その会社が世の中の人にグミを作って届けているんだけど、実はその会社だけではそのグミは世の中の人の手に渡らないんだ。そのグミを工場から店に運んで、それを店で売って。あるいはみんなに買ってもらえるようにCMを作って、それを放送するTV局があって、って、グミが実際に売れるまでにもいくつかの「他の会社」が関わっている。
それだけじゃない。実はこのグミ、この会社だけじゃ作れないんだ。たとえばグミの原料になるゼラチンや香りのもとになる香料も、それをつくる会社がある。あとは袋を作る会社も別の会社。あとは、グミ自体をつくるための機械をつくる会社もグミの会社とは別の会社なんだ。つまりね、一つの会社だけで全部のことはできないから、それぞれの得意なことを売り買いして商品やサービスを作っているんだよ。
だから、世の中の人、言い換えると消費者をお客様にする会社もあれば、他の会社をお客様にする会社もある。ちょっとカッコイイ系の言葉を使うと、会社がお客様っていう会社のことをBtoBといって、消費者がお客様って会社のことをBtoCっていうんだ。
マーケティングリサーチは「?」を「!」にする仕事
遠藤:じゃぁ、遠藤はどんな会社に勤めているのか、という話ね。マクロミルって会社で、品川にあるビルの11階にある。で、マクロミルって会社の名前をインターネットで調べてみると、一番上に出てくるのは、アンケートに答えるとポイントがもらえるサイトなんだ。これ、べつにポイントをばらまいている訳じゃなくて、ちゃんとした「お金をもらえる」仕組みがあるからできるんだ。
僕たちの会社がやっていることは、「マーケティングリサーチ」っていうんだ。ちなみに、マーケティングって知ってる人?
生徒:・・・
遠藤:だよね。じゃぁリサーチは?
生徒:・・・
遠藤:おう、なるほど。ええと、簡単な言葉に置き換えていくと、マーケティングってのは「売れるしかけづくり」、んでリサーチってのは「問いを立てて調べる」ってことなんだ。つまり僕らは、売れるしかけをつくるために、アンケートやらそれ以外のいろんな情報を集めていって、それらをいろんな会社に売っているんだ。
たとえばなんだけど、さっき言ってた「グミ」あるじゃない。それが売れるようにするにはどうしたら良いと思う?
生徒:CMを流す!
生徒:パッケージを変えたら良いんじゃない?
生徒:クーポンをつければいいと思う
生徒:新しい味を出すのはどうかな?
遠藤:そうね、だいたいそういうこと思い浮かぶよね。でも全部が全部できる訳じゃないし、そもそも「何しようかな」って考えたり、考えたアイディアが「これホントにやって意味あるのかな」って思ったりするわけでさ。そういう、商品やサービスをつくる人の頭のなかは「?」がいっぱいなんだよ。そこでうちの会社が、「分からないことは調べましょう!」っていって、商品とかサービスのイメージや感想を調べて、分からないことを明らかにしていっているんだ。
つまり、いろんな会社の人が「こんなことが知りたいです」って僕らに相談をくれて、その相談について調べたり聞いてみたりする。僕らの会社には、100万人を超える人たちが、ポイントがもらえるサイトを通じて登録してくれていて、その人達がリサーチに協力してくれる。んで、そういう協力してくれる人達が調査に答えてくれるから、それをまとめて会社の人に「こんなことが分かりました」って伝えるんだ。
そうすると「?」が「!」になるんだ。たとえば、
・みんなの好きな味は何だろう? → 新しい限定の味をこれにしよう!
・形や味は満足しているのかな? → 次は●●の部分を変えて作ろう!
・商品のイメージは伝わってる? → 今度のCMはこんな工夫をしよう!
みたいに。「どうすればもっと買ってもらえる?」っていうハテナが、「こんなことをすればいいんだ!」っていう発見や「決めた」感に繋がる。
そうしていろんな会社がよりよい商品をつくれば、世の中の人、つまり消費者が喜んでみんなの生活が豊かになるじゃない。そうやって、さっき伝えたとおり、一つのグミを作る上でもたくさんの会社が関わっていて、そのなかに僕達の会社もあるんだ。
「できない」を「できる」で支え合うこと
遠藤:僕の会社は、グミを作っている会社にはできない、世の中の人の声を聞いて、グミの会社が困っている悩みを解決するお手伝いをしているわけだ。で、前にも伝えたとおり、運んで・売って、とか、材料・袋・作る機械、とか、そういう「お手伝い」あるいは「支える」をしている会社もいっぱいある。つまりね、それってそれぞれの会社が自分一人では「できない」ことを、他の会社の「これができるよ」っていうことで支えているってことなわけだ。
この、それぞれの「できない」を、それぞれの「できる」で支えあうってのはさ、会社と会社の間の話もそうだし、会社のなかでのお互いの支え合いもそうだし、なんならこれ、仕事とか「働く」ってことだけじゃないと思うんだ。それこそ体育祭で活躍できる人がいるし、合唱コンクールで活躍できる人もいる。僕なんか、体育はぜんぜんだめだったけど、でも吹奏楽部だったから合唱コンクールでは指揮者をやっていた。そんなふうに、普段のクラスの生活でも、それぞれの「できない」をそれぞれの「できる」で支え合ってるんじゃないかな。
そう考えるとだよ。ちょっと昔のドラマの金八先生みたいになっちゃうけれど、「働く」って字ってさ、「にんべん」と「うごく」に分解出来ると思うんだよ。僕はこれを、「人のために」「動く」って考えているんだ。つまり働くってのは、「誰かの役に立つ」ってことだと思う。誰かが「できない」と思っていることを、自分の「できる」で支えることで、その人の役に立つこと。それのやりとりが重なるから、「働く」ってのが必要になると思うんだよね。これはどっちかというと、「誰かの役に立っている」とか「社会に貢献している」とか思うことが、僕にとっての「働く」ことのやりがいなんだよ、っていう話なんだな。
仲間をチームにする「人事」の仕事
遠藤:で、ここまで、サラリーマンとか、会社とか、マーケティングとか、いろんな話をしてきたけれど、最初の方に言ったとおり、会社ってのは「みんなで」商品やサービスを作って売っているところだから、いろんな役割分担があるわけだ。んじゃそのなかで遠藤は何をしているのかというと、「人事」って仕事をしているんだ。みんな、知ってる?
生徒:知らない
遠藤:だよね。じゃぁどんな仕事かっていうと、「会社に集まる人の事を考える仕事」なんだ。たとえば、最初の方に「会社は船みたいなもんだ」って言ったじゃない。んで、ワンピースにたとえてみたんだけど、「みんなでグランドラインを目指す!」っていう目標は、乗組員のみんな変わらないはずじゃない。で、「海賊王に、俺はなる!」って言っているルフィは、ある意味「社長」なんだよね。で、他のメンバーはみんな、それぞれが役割を持っているんだ。人事の仕事っていうのは、その乗組員たちを「集めて」「ケアして」「活躍させる」ことが仕事なんだ。
会社が、自分たちの商品やサービスを作っていくためには、まず仲間になってくれる人を探して集めなきゃいけない。で、そうして仲間になってくれる人を、ちゃんと仲間として迎え入れて、仕事をしてもらいやすくする必要がある。でも仲間になったら「はい、それでおしまい」って訳にはいかないから、ちゃんと能力を伸ばしてもらうことも大事。そうしてどんどん活躍してもらう、別の言い方だと、会社や他のメンバーに貢献にてもらうわけで、それに対しては、たとえばお給料を上げたり、あるいはリーダーになってもらったりして、報いていくことも大事になるんだ。
そういう、「仲間を集める」「仲間に迎える」「能力をのばす」「貢献に報いる」ということを通じて、会社の仲間一人ひとりが、それぞれの役割で力を出してもらって、みんなで成果を目指せるチームをつくることが、良い会社をつくるためには必要なんだよね。人事っていうのは、そういうことをやる仕事なんだ。でもさ、これも実はクラスとか部活とかと同じことが言えるんだよね。それぞれが自分の力を発揮して、成果を出すチームをつくるって大事なことじゃん。
まとめ
で、ぜひみんなに覚えていて欲しいことは、別に「仲間」だからって、みんなが同じになる必要はないんだ、ってこと。会社と会社の関係でも、会社の中にいる働く人どうしの関係でも、誰かの「できない」を誰かの「できる」が支え合う、って言ったじゃない。ここで大事なのが、「わたし」と「あなた」は違うんだ、ってこと。だから、ぶつかったりイヤな気持ちを起こすことも、そりゃ確かにあるんだけど、「わたし」とは違う「あなた」といっしょにうまいことやって「だれか」に役立つことをするのが会社って場所なんだと思うし、クラスってのも同じだし、それが「社会」なんだと思うんだよね。
ポイントは、「いっしょにうまいことやる」ってところ。だから、お互いが違う人なんだ、ってことをちゃんと分かっておくのが必要。自分には、できないこともあれば、できることもある。その「できない」と「できる」は、自分と相手では違うんだ、ってことを知っておくこと。そうすると、お互いに同じ方向を向いて支え合いながら生きていけると思うんだよ。だって、あのルフィがこんなセリフを言っているから。
「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!!」
ってなわけで、今日みんなに伝えたかったことはこの4つ。
- 「仕事」は、誰かに役立つこと
- 「会社」は、みんなで仕事する
- 会社も仕事も、たくさんある
- みんな、互いを支え合ってる
このことが分かってもらえたら、話して良かったな、って思ってます。
みんな、がんばってね。
話し終わってからその後、質問コーナーになった。年収はいくらか、この先の夢はなにか、どんなアニメが好きか。みんな真面目な中一の生徒たちで、とにかくワークシートを必死に埋めていたが、自分から質問するにはちょっと気恥ずかしさがあったようだ。
そこから日が経ってつい昨日、学校から感想文が送られてきた。マーケティングのことが面白いと思ってくれた生徒、「人のために動く」ようになりたいと思ってくれた生徒、自分の夢を訊ねたときに発言出来なかったけれど実は音楽関係の仕事に就きたいと感想文で打ち明けてくれた生徒。表すことばに違いはあれど、何かを受け取ってくれたことが分かるような感想だった。
意図せず、まだまだ6年も働いていないながらも、自分の「はたらく」観の棚卸しに繋がったこの機会。いろいろ能書きを語ったけれど、はたして話しているとおりに自分が振る舞えているだろうか、とさえ反省してしまう。もっといえば、誰かの「できない」を誰かの「できる」が支え合う、ってのは、自分自身の「できない」に向き合うことのしんどさに対する逃げなのかもしれない、とさえ思えてしまう。
でもたぶん、というかやっぱり、間違ったことは言っていないと信じたい。案外、「サラリーマンとしてはたらく」ってことに対して、意味を見出すのは出来ないことじゃないし、意味を見出せば、存外楽しめるんだとも思う。少なくとも僕は、そう信じていたい。
ピンバック: 講演録:「採用活動」から、就活を考える | enshino Archive
ピンバック: 教育キャリアで迷う人への10の質問 | enshino Archive
ピンバック: 退職者プレゼンテーション | enshino Archive
ピンバック: 私の Vision / Mission / Value - enshino Archiveenshino Archive