コロナ禍の「農業ビジネス体験学習」のつくりかた【②活発な地域人材との連携術】

2019年、公立中学校の講師として入職した1年目にチャレンジしたのは、Pepperを使ったロボットプログラミングを通じた課題解決学習だった。年度が明け学年が持ち上がり、職場体験学習を通じたキャリア教育を行う予定だった2020年、新型コロナウイルスの影響で中止となった職場体験の代替案として持ち上がったのが「農業体験」だった。

このシリーズ「コロナ禍の「農業ビジネス体験学習」のつくりかた」では、農作物の栽培体験と、顧客を起点にしたマーケティングプランづくりの、ハイブリッドによる体験学習を設計・実施した顛末を、5つのテーマに切り取ってお届けする。第2回の今回は、「活発な地域人材との連携術」をテーマに、今回の学習において多大な貢献をいただいた地域人材「里山の会」(仮称)のみなさんとの連携において、どのようなことが起きたかを記述し、そこから地域人材とのコミュニケーションのあり方について考えたいと思う。

┼─シリーズ記事・タイトル─┼
①総合学習のアジャイル開発
②活発な地域人材との連携術
│③ビジネスを学校に持ち込む│
│④発想をシンカする関わり方│
│⑤地域とキャリアのはざまで│
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本編に入る前に:今回も9,000字を超えたので、先に結論から読まれた方が時短で済むと思います

episode.1 : 「里山の会」とは何者なのか

前回の記事では、およそ1万字を費やして、農業ビジネス体験学習「ふるさととしごとをつくる」の、企画が立ち上がるまでのところを記述していった。長いので斜め読みするのもしんどいと思うのだが、この記事を読み間違うと、さも今回の農業ビジネス体験学習は、私が思いつき、私を中心とする担当学年がすべてのイニシアチブをとって進んできた、という誤解を持ちかねない。確かに、その前の年度である「Pepperプログラミング学習」においては、そのカリキュラムデザインの手綱は私が持っており巻き込んだ外部人材のコントロールは基本的に私が行ってきた。しかし、今年度はまったくそんなことはなかった。今回の取り組みは、校長の「思いつき」と、「思いつき」のあと即座に校長が連絡を取った、ある地域団体の存在を外して、語ることができない。

正しい呼称を表記すると勤務校がバレるので記載しないが、その地域団体は、校区を中心に活動する里山保全団体である。今回は仮に「里山の会」と呼ぶことにする。この里山の会を構成するメンバーは、だいたいがリタイア済みの年代の「おじさま」方であり、また地域に住む土着の人々である。私の勤務校は、施設一体型小中一貫校として、両手で数えるくらいの年数の歴史を持っており、地域交流センター(公民館)を併設していること、学校運営協議会を持つコミュニティスクールであることから、地域連携の取り組みも長らく行われており、老人会をはじめとする地域の高齢者と交流するための部屋も校内に用意されている。里山の会は、この「地域交流による学習の取り組み」においても、たとえば木工作品づくりや、木を生かした遊び道具の体験などの文脈で、かねてから学校に協力をいただいていた。さらに、メンバーの何人かは、登下校時の安全指導をしていただいている。

もともとこの里山の会のミッションは、校区地域における里山の保全と、近くを流れる小川の環境保全であり、間伐作業や川の清掃作業などを行っている。前述の、小学校での「昔遊び体験」や「里山とのふれあい活動」は、この一環で行われている。ではこれは自治会活動かというとそうではないようだ。「マジでなんもない」校区地域においては、御多分に洩れず高齢化が進行しており、里山が広がる風景の中に自宅を持つご家庭も少なくないのだが、その裏山の竹林がどんどん入り組んでしまって、所有者個人ではどうにもしがたい状況があるとのこと。その課題解決のために活動をしている会、とのことだ。


episode.2 : 「里山の会」との邂逅

そして、そんな事実を一切知ることなく、校長が「里山の会がどうにかしてくれるから」といってさまざまな協力を取り付け、学年教員に引き渡されたころには、ほとんど全てのお膳立てが済んでいた状態だった。当初、農業体験は学校内で行う想定があり、小学校の特別支援クラスの菜園を拡張しつつ、その隣に今回の中学生の農業体験用の畑を造成するという話だった。しかし、特別支援クラスの菜園の拡張はできても、中学校の畑造成はちょっと都合が悪いとなった。そうしたら、いつのまにか地域にある空き家の庭を使える手はずが整えられていた。それどころか、気がついたら里山の会が、校内の特別支援クラス用の菜園の拡張も、そして「空き家の庭」を畑に開墾する作業も、重機や耕運機を用いて済ませているではないか。

なお、この時点で4月末。畑に畝を立て、マルチシートを貼る作業をゴールデンウィークに実施することになり、とはいえまだ緊急事態宣言下による休校時期だったため、作業は教員と里山の会のメンバーで行うことになった。この作業の日まで、私は里山の会の面々と会ってすらいなかった。

そして畑作業当日。私自身、人生で初めての鍬(くわ)作業。もはや春先ではないその陽気のなか、汗をかきながら鍬を使っての作業をしてみて「なるほどこりゃ確かに腰が曲がるわ」と思い知った。そのなかで邂逅した里山の会の面々。お世辞にも「おじさん」という年齢は軽く超え、むしろ「おじいさん」ではないかという年代の面々が、耕運機や鍬を軽々と使いこなして作業をする姿に、日頃の運動不足と地震の知識不足を思い知った。

作業の合間合間にメンバーの面々と話をしていくと、一人、やたらと知識に詳しい人がいた。そもそも里山の会が里山保全活動で管理しているのは竹林であり、例の「空き家の庭」も、そのすぐ後ろに里山があって、竹がたくさん生えているのだが、作業の合間にその竹について、かなりたくさんの知識を教示いただいた。私を含む学年教員が「へぇ」「へぇ」と言いながら話を聞き、そしてその話は竹の話にとどまらず、地域の歴史についても及んだ。実は校区には国の史跡指定を受けたスポットがあるのだが、そんなこと全然知らないままだったので「へぇ」は続いた。

まだ生徒が来る前ですが、
むしろ教員が農業や地域のことについて探求していますね

そう、冗談まじりに同僚に話をしたが、あながちこれは冗談ではなく、というかむしろ、ここで自分が得た「地域や里山に関する知」は、生徒たちが地域の魅力を再発見することにつながるだろうし、ましてこうした熱弁するほどの熱意を持つ人との接点は、地域の課題解決を図る魅力ある人と接点という意味で、地域をより深く知る契機になるに違いない、と思った。


episode.3 : 竹柵づくりの企画力

さて、いよいよエピソード部分の本題である。

5月の頭に畑を開墾し、マルチシートを張ってある程度の雑草繁殖を抑え、その間に市場から捌けるギリギリのタイミングで苗を購入し、休校が明けて生徒たちとの苗植え作業を終えた後。ちなみに苗自体は180本購入し、全ての生産がうまくいけばとんでもない量のさつまいもになる算段だったが、購入後の保存処理や、苗植え時に深く挿入できなかったこと、苗植え後の水やりの不足などの状況が重なり、初速の生育状況は芳しくなく、1/3程度の苗を反故にしてしまった。

そんな状態だったので、せっかく育ったさつまいもは最後まできちんと生育させたい。そんな最中に校長に言われたのが

イノシシに食われる

であった。私は、「もはやそうなったときはそうなったときで、それも農業体験でしょ」と言って、特段の対策を講じないつもりでいたのだが、校長は「イノシシに食われる」と私に言った段階ではすでに、里山の会にその対策を相談していた。

何やら考えがあるらしいので打ち合わせに来るとのこと

という知らせを受けてからほどなく、里山の会の事務局長が学校に来訪した。仮にMさんとしておくが、この彼はまさしく、開墾作業の際に、やたらと竹林や里山や地域の歴史について詳しく教えてくださった方、そのものだった。そして、Mさんから提案された内容は、以下のようなものだった。

  • 畑の裏の里山の竹林を伐採して、竹の柵をつくる
  • 畑に杭を打ち、杭と杭に横棒を3本通して、竹を編み込んで柵にする
  • 伐採作業自体は危険なので見学にするが、竹を割る作業と柵の設置は生徒さんも交えたい
  • 作業に必要な消耗品や道具、熱中症対策の水分は、福岡県農林事務所の里山体験活動に補助金を申請してそこから捻出する
  • 作業に時間がかかると思われるので、2回に分けて作業を行いたいので、2日ほど日程を調整して欲しい(申請書書くから早く決めて)
  • また里山体験活動の関係から、実施後に参加者アンケートの回収と、当日の写真撮影に協力して欲しい

これが、校長からの「イノシシ対策をしたいんだけど柵作れない?」という相談に対する、事務局長からの返答だった。なんなんだ、この「フワっとしたことを具体に落とす」スキルは。あまりにも具体に落とし込まれた計画と、先方から提示された役割分担(実施日程およびロジの確定と、事後の提出物の回収や調整)の明確ぐあいに唖然としているうちに、校長が「じゃぁあとはよろしく」と連絡の担当を私に指定した。Mさんにお帰りいただいたあと、会議に同席した教務の主幹教諭に「これ、やって大丈夫ですかね」と問うたところ、「やるしかないでしょう」と返答されたことは、今でも記憶に残っている。


episode.4 : 事務局長との調整コミュニケーション

打ち合わせの場で、やりとりの媒体を尋ねたところ、Mさんからはメールでよいと言われた。そこでメールでのやりとりを開始した。まず媒体がメールであることに驚いた。それこそ、齢60は超えているであろう「おじさま」であるから、PCには疎いというバイアスがあったのだが、後から判明したのだがMさんは元IT企業のサラリーマンだったそうで、後日2000年代のインターネット黎明期あたりの話で盛り上がったくらいなので、インターネットネイティブであった。そして、元サラリーマンであるというところから、妙に企画スキルが高いことにも納得がいった。こちらはこちらで、昨年度のPepperプログラミング学習において、地域人材のおじさま方を巻き込んだ際にならって、カリキュラム全体の企画書と、そこまでに行ったマーケティングに関する授業のスライドをお送りした。その返答には「立派な資料で感心している」と書かれていた。

その後の調整ごとも、ほとんどをメールや電話で済ませたが、コミュニケーションが非常にスムーズだった。なんだろう、Mさんも私も元サラリーマンだからなのか(でもそういうカテゴライズはあまり望ましくないと思うが)、いくつかの点でコミュニケーションの勘所を押さえていたような気がする。やりとりのなかで対応が必要とされたイシューはたとえば

  • 実施日程と実施時間の調整
  • 実施時間のなかで、どのクラスの生徒たちをどう動かすか
  • 天候による実施可否の判断

などであったが、7月の中旬と下旬の2回に分けて行った作業に至るまで、以下のようなやりとりを行った。

  • [E]何時間目に何組(何人)が現場に向かうかを学校で決定するので、現場での作業スケジュールは里山の会で検討してほしい
  • [E]実施日の前後が雨天になる可能性があるので、学校側で実施日程に関するパターンを起こしたから、望ましいパターンを選択してほしい
  • [M]生徒たちがスムーズに作業に移れるよう、作業にどれほどの時間がかかるかを里山の会で実証してみたので、チーム分担を学校で事前に行ってほしい
  • [M]7月中旬の回を踏まえると、里山の会にも学校側にもそれぞれ反省点があったから、次回はそこを踏まえて改善を図りたく、特に学校側では、虫刺され対策のための長袖着用の励行と、事前のグルーピングをお願いしたい
  • [E]実施後アンケートは数のみ集約して農林事務所に送付することを考えた際、アンケート用紙PDFを印刷して記入してもらうより、フォーム等を使って電子的に回答してもらって学校側で数字を集約してお渡しできるが、問題ないか判断してほしい

と、これらのやりとりを見ても、双方の役割分担を明確にすることや、不測の事態に備えたプランのバリエーションを用意しておくこと、改善点を次回に生かすこと、必要な作業の目的に立ち返って判断をすることなどが行われていることがわかる。と同時に、この記事を書くに当たって改めてメールを見返したのだが、やりとりのほとんどが文面に残っているというのも大きなポイントであった。「言った言わない問題」を回避する、サラリーマンの常套手段である。そうではない電話のやりとりにおいても、「竹柵を設置する体験授業を行う」という目的に立脚したコミュニケーションを取ることができていた感覚があった。


episode.5 : そして、竹柵が出来上がった

そうして行われた、竹柵設置の体験授業。普段は集団として「落ち着きがない」と言われることが多い学年の生徒たちだが、鉈(なた)を持つのも初めてだし竹割り金具に興味津々、チーム分担はされているがやることは割と単純、そもそも外で体を動かしたり自然に触れたりすることがいつもと異なる環境である、といった要素が重なり合い、生徒たちは非常に活発に作業に勤しんでいた。そのなかで、主にMさんから竹の維管束の話をしてもらい、理科の知識と結びつけることで、竹の節を見て生える方向を生徒自身が判断できるようになっていたことには驚いた。

また、そもそも里山の会の面々が、情熱を持って活動する地域人材であり、そういった人々との接点こそ地域の魅力再発見につながると思っていたので、「活動中にぜひいろんな話をしてきてください」と生徒たちに呼びかけたところ、生徒たちは里山の会の面々から、竹の話や地域の話を聞くだけでなく、里山の会の面々から「最近の学校生活はどうなの」と聞かれたり、「おじさんの時には高校でうんたらかんたら」といった話を聞いたりして、On/Offの双方の雑談をしていた様子が見られた。

先生、雑談が面白かったんですよ!

という、とある女子生徒からの、素直で嬉々とした表情のセリフは、今でも頭から離れない、今回の農業ビジネス体験学習の大きな収穫の一つである。

7月中旬は、梅雨明けギリギリのラインだったこともあって、曇り気味の気候だったことから特段何事もなく作業が進行していったが、7月下旬は、それはもう「苦行」だった。もう夏本番、そんな最中に草負けや虫刺され対策でジャージを着させる。里山の会も長袖装備である。みんな汗だくで、熱中症寸前になりかけた。あれは本当にしんどかったと思い返すが、ちゃっかりNHKや西日本新聞の取材を受け、コロナ禍における新たな体験活動としての位置付けを、ちゃっかり得ることになった。

そういえば、前述の通り今回の取り組みでは、福岡県農林事務所の、里山や森林に触れ合う活動に対する助成を受けた。里山の会が独自に申請をしたもので、学校はいっさいの手続きを行なっていないどころか、今回の体験学習において学校側の予算持ち出しはいっさいかかっていないところもミソである。で、その助成を受けている関係から福岡県農林事務所の職員の方が見学にいらっしゃったのだが、「里山と触れ合う活動に対する助成で、農業体験をしているというのは今まで見たことがない」と言っていた。つまり、企画としては斬新だったし、なにより、「間伐を要する竹を活用して農業における害獣対策を行い、農業体験と里山保全活動をいっしょに学習できてしまう」というのは、サステナブルを体現しているといっても過言ではない。

そんなわけで、7月に行った2回の体験活動では、結局すべての竹柵はできあがらなかったのだが、その後に里山の会の皆さんに完成作業を行ってもらって立派な柵が出来上がり、その結果として害獣被害はいっさい発生せずに11月の収穫を迎えることができた。里山の会の面々には、ビジネスプランのプレゼンテーションを聞いていただくには至らなかったものの、後日感謝状を贈呈した。


conclusion : 連携術の3つのポイント

突然だが、私は自分の Vision / Mission / Values を定めていて、ここではその詳細は省くが、My Missonとして「学校と社会をなめらかに」というものを置いている。「社会に開かれた学校教育課程」という言葉が言われて久しいが、どうにも私には、「社会」と呼ばれる側が「ズケズケ入り込んでくる」感覚、あるいは「学校」の受身感が蔓延しているように思えてならない。「社会」はいろいろな面につけて「教育が大事だ」といって、さまざまな取り組みをご用意いただいているが、その多くは、中学2年生でさえ年間70時間しかない総合的な学習の時間の取り合いに発展していくことが多く、需要と供給のアンマッチ感がすごい。あえて挑戦的なことを言うのであれば、「社会」の側は、自分たちのやりたいことをやりたいとだけ述べ、他方「学校」は、おまかせのスタンスになってしまうことが多々あるように思えてならない。だから、互いが混ざり合うように・慮りあえるように、「なめらかに」という表現を用いている。

となったとき、以前この記事で述べた通り、教員は外部の専門家の知識を編集して児童生徒につなげていく「ディレクター」としての立ち回りが求められるとともに、学校教育に協力する外部人材には、学校側が持つニーズや目指す方向性を踏まえてリソースを提供する立ち回りが必要になる。今回はたまたま、「学校」側の私が「ディレクター」的な立ち回り方に慣れている人間であったこと、そして「社会」の側である里山の会のMさんが自分たちのリソースと学校のニーズを絶妙に組み合わせた企画を立てることに長けていたこと、という2つの奇跡が起きて、体験活動を成功へと導くことができた。しかし、これらを俗人的な要素として片付けてしまっていいのか。私は違うと思っている。

タイトルに「活発な地域人材」と記載したが、つまり里山の会の面々は、自分たちで企画を考えて学校に持ちかけるだけの意欲と企画力を持つ人々である。もっといえばMさんこそがそのキーパーソンなのであるが、彼らは自分たちがやりたいことだけを勝手に学校に持ち込んでくるという人ではないと言える。いや、正直に言えば、彼らはこちらが特段頼んでいないことに対しても「こういうことができる」「ああいう取り組みはどうか」といった提案をしてくるが、今回学校側は決してそれらを「押し付けられた」という構造にはなっていない。あくまでも前提に、学校側のニーズがあった。だから決して里山の会は「勝手に」物事を進めたわけではないのである。しかし、ここの「供給と需要」のバランスが少しでも崩れると、一気にどちらかに傾く危うさもはらんでいることも確かである。では、そのバランスを担保したのはなんだろうか。

思うに、その要素は3つあると思っていて、いずれも「ディレクター化する教員」という、昨年来の私の主張においてポイントとなる要素と合致する。

  1. ふわっとしたビジョンを現実の計画に落とし込む
  2. 目的や情報をシェアして役割を互いに棲み分ける
  3. 外部リソースの価値をカリキュラムに位置付ける

といったことだ。今回はMさんも私も、この3つの要素を互いに発揮した。そして、互いに示し合わせたわけではないが、ごくごく自然に、お互いを頼りあっていたと言える。当然だが私には、イノシシ対策をしろと言われてもその知恵はない。他方、今回の体験活動が生徒たちにとってどのような価値を持つかは、Mさんよりも私の方が意味づけができるに決まっている。そして、それぞれが責任を果たすべき領分において、決めるべきことを決めるということができている。その一方で、自分が責任を果たすべき領分ではないことについて、完全に丸投げするというところにまでは至っていない。まさしくこれこそが「パートナーシップ」であって、それはどこか、B2Bのコンサルティング案件における関わり合いにも似ている気がする。

「パートナーシップ」とは、共通した目的に向かって、互いを頼り合いながらも、互いが自分の責任を果たすこと。簡単に見えて、実務上においては難しい。特に、独自性の高い文脈を有する学校教育現場が、外部と連携をしていく際にはその難易度はさらに上がる。地域人材と連携する、ということを図る場合には、「学校」の側も「社会」の側も、その覚悟を持つ必要があるだろう。今回の農業ビジネス体験においては、私とMさんとが、その覚悟を自然と有していたことが、ポイントだったことには変わりがない。

12月にプレゼンテーションを行い、終焉を見たかに思えた農業ビジネス体験。コロナ禍における特別な取り組みとして、単年度で終わると思っていた。そうしたら、なんと里山の会が新たな企画を持ち込んだ。さらに栽培する作物を増やし、地域の里山を中心とする環境にかかわる学習をとりいれたプログラムを構想し、それに基づいて、今年度予算以上の大きな金額の助成金申請を図っている。そして、来年度中学2年生になる、現中学1年生学年の学年主任が、これまた私と同様の「ディレクター」気質を持つ教員で(しかもプロパーで教員)、「これはおもしろい」とその企画に乗っかった。新たな伝統が生まれてしまった。


さて、今回は「里山の会」との連携を中心に話を展開し、改めて書き出してみるとこの体験学習だけでも十分深いプログラムになったようにも感じられた。しかし、実装している当時の私には「生産と販売は両輪」という発想、そして「ビジネスをつくる体験をしないとキャリア教育の意味がない」という信念があった。ということで、次回の記事では「マーケティング」の発想を学習にどう取り入れたかについて記述していきたい。

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