“Try Something New” という生徒会コンセプトをめぐるいきさつ

生徒会顧問教師をしています。

マクロミル勤務時代は、人事として、現場のマネジメント課題に対して寄り添ったり、社員の成長を願いながら手立てを講じたりしてきましたが、その実、マネジメント職にあったことはありませんでした。チームメンバーをもって、成果達成のための仕事にあたる、という意味でのマネジメント業務についたのは、生徒会顧問としての職務が初めてでした。

2020年1月に発足した令和2年度執行部、そして2021年1月に発足した令和3年執行部の、2つの年度の担当をして、どちらの年度の執行部でも、期初に「年間コンセプト」を定めることにこだわりを持ってきました。つい先日、令和3年執行部・2学期の一大イベントである「文化発表会」を終えたのですが、今年の文化発表会に向けた取り組みは、この年間コンセプトを体現したと言っても過言ではない活動になりました。

タイトルにある “Try Something New” は、その令和3年執行部の生徒会コンセプトです。正式には

Try Something New
〜おそれない・みはなさない・あきらめない〜

という表記です。今回は、このコンセプトの出自と、そこにこだわった結果、起きたことについて、書いていきたいと思います。


0. 「コンセプト」へのこだわり

耳障りのいいことばを並べただけの、具体性に欠けるような「スローガン」や「目標」。学校現場には、そうしたものが多くあるような気がしています。私は、ことばそのものは好きです。気持ちを高めてくれたり、信じられるものだったり。しかし、学校現場で置かれるそうした「スローガン」や「目標」は、具体性のあるアクションを伴わないような印象があって、子どものころから違和感がありました。学級目標といえば4字熟語、何かの標語といえば5・7・5。そうした形式的なものが、あまり好きになれませんでした。

ぶっちゃけ、「コンセプト」だろうが「ビジョン」だろうが「ミッション」だろうが、チームとして信じられることばであれば、それを何と呼んだっていいんです。それでも私が「コンセプト」という用語にこだわるのは、私が2019年にPepperプログラミング学習を担当したときにお世話になった、株式会社musubimeの青柳さんの影響が強いと思います。

青柳さんには、生徒たちがPepperを活用した社会に役立つロボアプリを創るうえでの、アイディアだしのワークショップをご担当いただきました。その際に彼がこだわって伝えていたのは「コンセプトが大事」ということ。青柳さんは「コンセプト」を

  • アイディアの芯
  • ぶれないための軸
  • 実現したい想い

と言い換えました。

アクションをしていくうえで、迷ったときに立ち戻るものであり、またすべてのアクションの出発点になるもの。それが「コンセプト」。まがりなりにもマーケティング系の会社にいたからこそ、「コンセプトを立てる」ということにこだわりが強かったのかもしれません。だからこそ、それまでは「生徒会スローガン」といっていたものを、「生徒会コンセプト」と言い改めました。単に言い方を変えただけでなく、その構築方法にも工夫を凝らし、自分たちが生徒会執行部として何を実現したいのかを、徹底的に話し合ったうえでことばを固めていく方法を取りました。


1. コンセプトづくりの手引き

コンセプトを創る議論には、令和2年も令和3年も、じっくり時間をかけました。なぜなら、「コンセプト」は、自分たちがチームとしてどこを目指すのか、ということを指し示すものになるからです。「生徒会」は、本来は全生徒により組織されるもので、その中の代表者が「役員」となるわけですが、生徒会コンセプトは、役員がチームになるための合言葉であると同時に、全生徒が意識する共通理解にもなるわけです。こと、様々な困難を超えていくことになる役員・執行部のチーム力を高めるうえでは、本音で議論をしたうえで、コンセプトを固めていく作業は、とても大事になります。

では、どのようなステップで制作していくかというと、以下の5ステップになります。

  1. 「なぜ生徒会役員になったのか」を全員一人ずつ語り下ろしする
  2. 現状・理想・対応策シートを自分で書き出し、ワーディング案を出す
  3. 全員のワーディング案の中から、各自が好きなものをピックアップする
  4. 全員で、ワーディングを一つにするための議論をする
  5. コンセプトを表すクリエイティブを制作する

1.1. 一人ずつの語り下ろし

生徒会役員は、新体制になったら「リーダー研修」というものを行います。このエリアでは以前は1泊2日くらいのことをしていたようなのですが、現在では冬休みの間の1日で行われることが通例ないようです。生徒会役員顧問2年目にあたる令和3年度の執行部の研修では、人事時代の経験に基づき、プロジェクトアドベンチャーの手法を活用したり、リーダーシップに関するインプットを行ったりしながら、じっくりとした研修を行いました。その、午後の方に実施したコンテンツが、「なぜ生徒会役員になったのか」を語り下ろしする、というものです。実は、この「語り下ろし」は、令和2年度の執行部においても同様に行いました。その時はリーダー研修の中での実施ではなく、コンセプトデザインのために別途用意した時間に試しに行ってみたものだったのですが、これが非常にいい時間だったため、令和3年度にも実施をしたのでした。

やり方自体は簡単です。メンバー全員が、紙もペンも何も持たずに、輪になって座ります。その時、ファシリテーションをする教師は、その輪の中には入りません。そして、話をする時のイメージを伝えます。そのイメージとは、「輪の中心に自分の話をそっと置くように話す」です。誰かの顔色を伺うでもなく、伝える相手を意図するでもなく、ただ自分の話したいことを、場の真ん中に置く。そのイメージを伝えた上で、生徒たちにこんな課題を課します。

自分がなぜ生徒会役員になったのかを、3分(または2分)話す。
タイマーが鳴るまで話し続ける。途中で終わるのは無し。

この指示には生徒たちもたじろぎます。そもそも、長く話すことに慣れているわけではないとなると、時間いっぱいかけて話をするなんて苦痛かもしれません。しかし、生徒会役員は、自分の言葉で人前で語ることが求められる役割でもあるため、これは一つのトレーニングでもあります。そして何より、この「3分間話す」という課題のなかで表出される言葉のうち、その人の本音・本質となるのは、実はことばに詰まってから出てきたことばたち、なのです。

話す順番は、個人に委ねます。だから、最初に発言する人を決めるわけでもなく、次に発言する人を指名するわけでもなく、言う準備ができた人から言う。ここに、生徒たちの性質が垣間見えます。顧問である私は、ここで語られる言葉たちから、一人ひとりが何に動かされ、何をしたいと思っており、チームの中でどのような立ち回りをするのかを、感じたままにメモしていくわけです。このようにして10人が語り下ろしを終える頃には、チームメンバーのそれぞれの思いを、それぞれが知っている状態になります。そして、なんとなく、ではありますが、このチームがどこを目指そうとしているのかが見えてきます。これは、コンセプトデザインにおけるウォームアップでありながら、しかし「私たちはどこを目指すのか」を明文化するコンセプトデザインにおいて、その「私たち」を見定める上で重要な手順となります。

1.2. 現状・理想・対応策シート

現状・理想・対応策シートというのは、これです。

令和2年度の執行部を指導する頃から、このシートをあらゆる場面で利用してきました。書くことは極めてシンプルです。左上のボックスには、現状について書き出します。このとき、「現状」というとどうしてもマイナスな課題点ばかりを書きがちになるので、あくまでも現状をきちんと捉えるといみで、プラスな側面についても書き出させるようにしています。一方の右上のボックスは、理想の状態について書き出します。この、現状と理想の間のギャップこそが、施策によって手を打つ必要があること、となわるわけです。

これを、生徒会の年間コンセプトに落とし込む場合にどのように記載してもらうかというと、「現状」ボックスと「理想」ボックスはそのまま、自分が思う、現状の学校・生徒の姿、理想の生徒像を書いてもらいます。そこでポイントになるのが、視点の持ち方です。基本的には「学校」を主語にするよりも「生徒」を主語にさせるようにします。なぜなら、生徒会は「生徒の学校生活を向上させる」ことが、第一の存在価値だからです。次に、自分たち自身から自分たち生徒を見た時、そして周囲から自分たち生徒がどう見られるか、という2つの視点を意識させることです。生徒会役員には、対内的な自治の牽引役という側面と、対外的な広報大使のような側面の、2つの役割を求められることが多く、とくに「地域と共にある学校」を標榜する我が校においては、対内的・対外的の両側面の視点は不可欠です。

そして最後の「対応策」ボックスですが、ここには「6つのキーワード」を記入してもらいます。ここではじめて、いわゆる「スローガン」的な言葉を考え始めるフェーズに入ります。どんな言葉でもいいので、現状と理想のギャップを埋めるような、目標となる言葉を6つ考えてきてもらいます。どんなに出せなくても6つ絞り出す。たくさん出るようなら6つに絞り込む。「6」である必然性はそんなにないのですが、ともかく6つのキーワードを書いてきてもらいます。言語の制約はないので、4字熟語を書いても、英語を書いても、あらかじめコンセプトワードっぽいものに落とし込んでも、よくあるシンプルなキーワードにしても、どちらでも構いません。

1.3. 各自が好きなものをピックアップ

現状・理想・対応策シートは、基本的に宿題にして、時間を空けてから回収し、議論を次のフェーズに進めます。次のフェーズでは、全員が提出した現状・理想・対応策シートを、一覧できるように掲示し、メンバー全員がふせんを3枚持って、各自のシートに書かれた6つのキーワードから、自分が好きなものを3つピックアップしてもらいます。このときの制約はありません。自分のものから3つを出しても、自分以外の人のものから3つを選んでも、どちらでも構いません。

ただし、これも視点として大事になってくるのが、単にことばの好き嫌いだけで選ばないこと。各自が絞り出した6つのキーワードは、それぞれの現状認識と理想に基づいているわけで、それを踏まえた上でピックアップすることが大事です。また、なぜそのワードをピックアップしたのかを、理由まで書かないにせよ、自分なりに言語化できる状態にしておくように伝えることも大事になります。だからこそ、「このワードって、どういう意味なの?」といった会話を、積極的に行いながら、ピックアップする作業を進めてもらうことが大切になります。

1.4. ワーディングをまとめる議論

こうして、10人役員がいれば、30のワードが集約される計算になります。ここから、各自がピックアップした付箋を活用して、ワーディングを絞り込んでいく作業を開始します。ふせんを用いているので、同じものをまとめたり、近しいものとグルーピングしたり、ということができます。私は、このプロセスの最初の方はできるだけ口を出さないようにしますが、同じ意味を表す別の言葉を提示したり、解釈の方向性の補助線をひいたり、といった形で、後半には口を出すようにしていました。

このプロセスでは、最終的な決定方法について、以下の二つのうちのどちらかで決めるように制約を課し、絶対に「多数決で多いものを採用する」ということをさせないようにしています。

  • 議論を尽くした上で、最後は生徒会長が一存で決める
  • 議論をし尽くし、全員の納得の上、全会一致で決める

なぜ、「多数決で多いものを採用する」ことにしないのか。それは、これが「チーム・生徒会執行部」が一丸となるための指針となり、また「生徒全員で組織する生徒会」が目指す、構成員全体にとっての進むべき方向性になるからです。だからこそ、中途半端に納得が得られていないものにするくらいなら、会長の一存を全員で信じきるか、あるいは少なくとも役員全体が一丸となることが必要なのです。

1.5. クリエイティブ制作

コンセプトが定まったら、そのコンセプトを表したクリエイティブの制作に入ります。自分たちのコンセプトの意図を示し、見返すことでいつでもリマインドされるようなものが望ましいわけです。初めて、生徒会コンセプトの制作に着手した令和2年度には、コンセプトを説明するビデオと、コンセプトを表した旗の製作を行いました。

令和2年度のコンセプトは、「KIT大作戦」でした。KITは、学校の名前の、それぞれの読みの頭文字をとったものであると同時に、物事を始めるための基本的なセットである「キット」をひっかけています。そしてK・I・Tの3文字にはそれぞれ、Kindness = 親切、Intelligence = 知性、Try = 挑戦、という言葉を当てました。ちなみに、このコンセプトをまとめる際のステップ4「ワーディングをまとめる議論」においては当初、「ABC大作戦」というアイディアが優勢でした。そこで私が「ABCなら物事の始まりを意味するし、KITにはキットの意味合いがあるけれど、どちらがいい?」と提案しました。その結果、「KIT大作戦」というコンセプトにまとまった経緯があります。

コンセプトを説明するビデオは、本来なら年間コンセプトを発表する、新年度(4月)はじめの「対面式」が、新型コロナウイルス感染症対策のために実施しないことになったことから、制作を行いました。生徒たちに動画作成を丸投げしたところ、Kindness・Intelligence・Tryの3つの戦隊ヒーローが登場する、というミニドラマになりました。ちなみにですが、10人の役員を、動画チームと旗チームに分けて制作を行いましたが、動画自体には役員全員が出演したので、動画作成自体が一つのチームビルディングの活動になりました。

もう一方の「旗」については、この「KIT大作戦」というコンセプトを、美術部に対してブリーフィングし、旗の原画デザインを起こしてもらう、ということを考えました。私は当初、その原画を業者に入稿して大きな旗をお金をかけて製作しようと思っていたのですが、なんと美術部が、大きな布に自分たちで着色を施して旗を作成することを引き受けてくれました。そこで旗チームは、まず「KIT大作戦」のコンセプト説明文を作成し、その説明文を持って美術部部長との「クリエイティブブリーフィング」を実施。そうして部長に2種類の原画を起こしてもらい、最終的には以下のようなデザインを考えてくれました。

親切心を持つヒーラー、知性を司る魔法使い、そして挑戦の心意気を持つ勇者の3人のパーティーが、ドラゴンに立ち向かう

この原画を見た時の、生徒会チームのテンションの上がりようは、今でも忘れられません。そして、この制作物があったからこそ、「KIT大作戦」というコンセプトがチームに浸透したといっても過言ではありませんし、その制作物が意図以上のものに仕上がったのは、ステップ1〜4の、コンセプト作りの手順を踏んだことが大きく影響した、と言えるのです。


2. Try Something New は、いかにして生まれたか

さて、ここからが今回の記事で書き残していきたいと思う本題です。令和3年度の生徒会コンセプト「Try Something New 〜おそれない・みはなさない・あきらめない〜」が、どのようにして生まれたのか、を書き記しておきたいと思います。この時の議論は、生徒会役員たちを中心に、私も方向性づけに参加しながら、しかし最後は生徒たちの意思によって定まっていった、というプロセスをたどりました。

12月の末にリーダー研修を行い、その場で、ステップ2の「現状・理想・対応策シート」を渡し、年末年始の宿題とした上で、年が明けてすぐにワーディングをまとめるステップに入りました。まずは役員一人ひとりが、3つずつ、自分が気になる言葉をピックアップしていき、それをホワイトボードに貼って、まとめる作業をしました。生徒たちが考えてきた、一人6つのワーディングの中には、四字熟語あり、英語あり、スローガン的な要素に満たないワードあり、と、さまざまな言葉が挙がっていきました。

そうして、集約されていくうちに、4つのキーワードが残っていきました。それが「初志貫徹」「和衷協働」「おそれない」、そして「Try Something New」でした。これらが集約されていく過程では、生徒たち自身での意味の確認のし合いが発生していたことは言うまでもありません。ここまで集約されてきたところで、私から、決定のための2つの原則、すなわち会長の一存か全員の納得か、が提示されました。この時点で生徒会長は、自分の一存ではなく、全体の納得のもとに決定したい、という意志をとりました。

その後、いったん多数決をとってみると、残ったのは「初志貫徹」と「Try Something New」の2つに。ちなみにここで、男女で支持するものがぱっきり分かれました。それぞれに、どんな意味合いを持たせるかについての議論がなされましたが、結果としては「Try Something New」が採用されるに至りました。これは、ひとえに生徒会長自身の説明が大きな拠り所となった部分が大きくあります。というのも、「Try Something New」自体はそもそも、「現状・理想・対応策シート」で会長自身が出したワーディングの一つでした。だからこそ、「新型コロナウイルス感染症対策で様々な行事ができなくなった。だからこそ、ニューノーマルの中で、新しいことにチャレンジする精神を持っていたい」という会長の説明にも熱が入っていました。

そうして、メインのワーディングは、全員の納得のもとに「Try Something New」となったわけですが、他のアイディアももったいないし、英語だけだとなんだか分かりにくいよね、となって、いわゆる副題をつけることにしました。では、どのワードを用いるか、という話になった時に、普段は役員10名のなかでもなかなか前に出るタイプではない給食委員長が、しきりに「おそれない」という言葉に対してこだわりを見せ始めます。集約段階で残っていた4つのキーワードのなかでも「おそれない」だけは、「〜〜ない」という否定形で書かれていたワードです。前を向いて進んでいくためのコンセプトに否定形を採用していいのか、という議論が起きましたが、それでも給食委員長は「おそれない」を諦めませんでした。

私は、その議論をずっと聞きながら、「初志貫徹」と「和衷協働」の意味合いをずっと眺めていました。そこで閃きました。「初志貫徹」とは、最初に思い描いたものをずっと持ち続けること。それはつまり、諦めないことである。となると、「おそれ【ない】」「あきらめ【ない】」は、語尾が揃う。そして、挑戦をする上で求められることとしてもふさわしい。生徒たちにこのことを提示したところ、確かにそうだという話になって、副題の3つのうちの2つが定まりました。しかし私は同時に、「和衷協働」をなんとかして言い換えられないかと、必死に考えを巡らせていましたが、うまくハマるものを見出せませずにいました。

「和衷協働」を辞書で引くと、お互いの心を合わせて、互いに協力して物事にあたること、という意味が出てきます。学年でもトップクラスの学力成績である生徒会書記の生徒が出したキーワードでした。ちなみに彼女は6つのキーワードを全て四字熟語で埋めており、「初志貫徹」も彼女のアイディアでした。チームとして事に当たる上では、「和衷協働」は非常に良いキーワードです。しかしこれを「〜〜ない」の形式に落とし込むとしたらどうなるだろう。そこで私がいったん提示したのが「はなれない」でした。心を一つにする、ということは、つまり心が離れないようにする。しかし、しっくりきません。その後も「てばなさない」や「はなさない」などのワードを出していきますが、どれも生徒にとっては今ひとつ。

その時、学習図書委員長が、決め手となる一言を発します。それが「みはなさない」でした。その瞬間、全員の「おぉ!」という反応が湧きました。確かに、挑戦をする上では、ときにその挑戦が嘲笑われることもあるし、心細さを感じることもある。それでも、挑戦しようとする人を見離さず、また一緒に取り組む人を見離さない、というスタンスは、とても重要です。この意味を見出したときの、「それだ!」という感覚は、今でも忘れません。こうして、「Try Something New 〜おそれない・みはなさない・あきらめない〜」というコンセプトが出来上がったのでした。


3. このコンセプトがもたらしたもの

出来上がった令和3年度の生徒会コンセプトである「Try Something New 〜おそれない・みはなさない・あきらめない〜」はその後、前年度と同様に、美術部に依頼をして旗を制作してもらう運びになりました。原画の時点でアイディアは1案だったものの、シンプルで爽やか、そしてコンセプトを体現した図案に、役員一同が全面アグリーを示しました。男女2名の、夏服を着た生徒が、駆け上がるようにジャンプする、その背中から翼が生え、今にも飛び立ちそうになっている図案。青地の爽やかな背景に、ライトイエローの題字が映える、そんな図案になりました。旗自体の仕上がりも、美術部が急ピッチで作業をしてくれたおかげで、4月の下旬に行われた小中合同遠足の際にお披露目することができました。

コンセプトのお披露目会を行う目処が立っていたため、春先にコンセプト発表をするための映像を作成する必要はなかったのですが、生徒会役員が携行する腕章(中身を入れ替えることができる)のデザインは自分たちで行いたい、ということになりました。そこで「自分がデザインを担当する」と手を挙げたのが、「みはなさない」を口にした学習図書委員長でした。結果、彼女は自分の家にあるタブレットでイラストを起こし、美術部の図案を踏襲した腕章の図案を作成しました。ことばにも、イラストにも、センスを発揮した彼女は、後の各種集会でのスピーチの腕がメキメキ上がっていきました。

そういえば、「おそれない」にこだわった給食委員長は、前出のとおり、そこまで前に出るタイプでない生徒でした。今思えば、本人に聞いた訳ではありませんが、その彼が「おそれない」にこだわったのはおそらく、自分自身へのメッセージだったのかもしれません。事実、人前で話す事に対しては不安を覚える方だったようで、月に一回の委員会活動提案の際には、放課後にある委員会集会の前に、かならず昼休みにリハーサルをしていました。しかし今では、そのリハーサルをすることなく、委員会集会を実施するまでになりました。「おそれない」ことへのこだわりの結果なのではないか、と思います。

さて、このコンセプトが、執行部チームにとって、追求すべき一つの方向性として、芯を持ったものになっていたことを、私はつい先日行われた文化発表会に向けての準備の段階で、思い知る事になります。

文化発表会ではここ数年、生徒会執行部で映像作成とモニュメント作成を行なっていました。私が担当者になる前の令和1年執行部は、ドラマの制作と、各クラスで分担した巨大モザイクアートの製作を行いました。私が担当者になった令和2年度には、同じくドラマの制作、そしてモニュメントは、その年度に撮影された写真をPCでモザイクアートに処理して展示し、各クラスにはその年の文化発表会のテーマであった “Together for Tomorrow” の題字を1文字ずつ立体にしてもらいました。この、映像作成とモニュメント作成は、令和3年度も既定路線として準備の初期段階において企画されていました。

映像作品は、文化ボランティア委員長が脚本・監督・撮影・編集を一手に引き受け、結果から言うと、私がほとんど手を出すことなく、1本のドラマを完成させるに至りました。きちんと、「Try Something New 〜おそれない・みはなさない・あきらめない〜」を踏まえた脚本になっており、当日の放映後には「おもしろかった」という声が聴かれました。では、モニュメントは、というと、当初計画では「ペットボトルキャップを使って、コンセプト旗の、翼の生えた男女生徒の図案を再現する」というものでした。しかし、この「ペットボトルキャップアート」の準備がうまく進行しないまま、9月がまるまる過ぎてしまいました。これでは、月に4回しか設定されていない学級活動の時間で、クラス分担をしてのモニュメント作成ができない、という状況でした。

そこで、モニュメント作成の「プランB」として、ハロウィンをテーマにした飾り付けの作成、というアイディアが登場します。もともとは「プランB」として私から検討を指示したのですが、9月の最終週から10月の初週にかけて、結果的には「ドラマ」「ペットボトルキャップアート」「ハロウィン装飾」という3つのプロジェクトを、すべて実施しようという方向で話が進んでいた時期がありました。さすがに3つ全てを実施するには難しさがあると判断し、「3つのうちプロジェクトを2つに絞るように」ということを迫りました。

その時のことです。生徒会長が、こんな言葉を発しました。

先生、コンセプトがTry Something Newなのに、
新しいことができてなくないですか?

私は非常に嬉しく思いました。会長自身が一番、コンセプトを体現しようとしている。結果、3つのうち2つに絞られたのは、ドラマ制作と、ハロウィンプロジェクトでした。ハロウィン企画は結果的に、各クラスに2枚の模造紙と、画用紙や折り紙などの資材を配布し、クラスごとにハロウィンをテーマにした装飾を作成してもらう、というものでした。本当は、「いつもとちがう雰囲気で、お祭り気分を味わいたい」という願いから、映像視聴をする教室内をあじけないままにせず、せめて飾り付けや背面黒板アートをしたい、という企画でしたが、そこまでのことは叶わずでした。けれど、それまで行ってきた、各クラスが指示通りに作成したパーツを合作するモニュメント作成とは異なり、各クラスの創意工夫が垣間見えるハロウィン装飾作成を通じて、学級内のつながりを創出することができたのは、まさに “Try Something New” の成果だったと思います。


4. おわりに

冒頭に、「コンセプト」を「アクションをしていくうえで、迷ったときに立ち戻るものであり、またすべてのアクションの出発点になるもの」と説明しました。令和3年度の執行部は、文化発表会という、生徒会執行部としての活動の一大イベントにおける、最重要局面において、 “Try Something New” というコンセプトに立ち返って意思決定を図ったのです。ていねいにコンセプトを練ったことが、半年以上経ったタイミングで実ったわけです。ここに、組織マネジメントの醍醐味を味わうことができました。その意味では、自律的で主体的な判断をするに至った、生徒たちには本当に感謝と尊敬の念を抱いています。

と、同時に、コンセプトを想いのかよったものに仕上げることでどういうことが起きるのか、どうすれば想いのかよったコンセプトを立てることができるのか、ということについて、私なりの知見を得たようにも思っています。「コンセプト」というと、いかにもマーケティング的というか、ビジネス的というか、そういうふうに感じられますが、このコンセプトメイキングの手順は、学校組織運営にも十分な当てはまりがあるように思えます。学級・学年・部活動、そして生徒会。そうした場面に、ぜひとも生かすべきものであるように思います。

実は今年度の4月に、コンセプトづくりの5ステップのうち2〜4を当てはめて、学年目標の作成を生徒たち自身で行いました。その結果として出来上がったコンセプトは「夢を咲かす」でした。現任執行部の10名の役員のうち、8名は現在中学校3年生で、もうまもなく引退となります。彼らが役員の引退後に、自分の「夢を咲かす」ためのアクションをとり、そして今後も「Try Something New 〜おそれない・みはなさない・あきらめない〜」を体現し続けていってくれることを、顧問教師として願うばかりです。

これをご覧のみなさんも、ぜひ自組織における「コンセプト」を立てるアクションをとってみてはいかがでしょうか。そして、次なる令和4年度執行部が、どんなコンセプトを立てるのか、それをサポートすることを、今からとてもワクワクしています。

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