退職者プレゼンテーション

2019年1月18日、5年11ヶ月(在職ベース)の間勤務したマクロミルの最終出社日を迎えました。在職中にお世話になった皆様には、感謝しても感謝しきれません。常に成長を志向する企業集団の性として、どこまでも行っても「やりきった」はないのかもしれませんが、それでもこの、小学生が卒業するほどの期間を、そして自らが価値を発揮することでその対価を得ていくという意味での「社会人」の一歩目を、マクロミルで過ごせたことに対して、本当に感謝しています。

ところで、弊社では退職者が自部署の座席付近で退職挨拶をする風習があるのですが、私の場合ありがたいことに(しかしやりたいとは自分からは一言も言っていない)、最大で200名は収容できる「ホール」という大きな部屋を使い、「退職者プレゼンテーション」という機会をいただきました。かねてから「退職ポスト」的なものを書いてみたいと思っていましたが、とてつもなく長くなる予感しかしないので、退職と次の進路について、プレゼンの講演録をもってみなさんにご報告申し上げます。


お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。遠藤です。2月末までは在職ですが、本日をもって最終出社日を迎えました。大学院を卒業してから入社をし、気づけば本年度は30歳の年。かれこれ6年近く在職しました。

御礼を申し上げる人を挙げればきりがなく、実はまだ全員にご挨拶できていない状態です。「ありがとうございました」の一言でまとめるのは心苦しいのですが、しかしかなり多くの方にお世話になりました。この場を借りて、御礼申し上げます。ありがとうございました。

「退職者プレゼンテーション」なんてのは前代未聞だと思います。新卒採用グループの同僚からは、TEDスーパープレゼンテーションのロゴをもじったオリジナルロゴを使ってくれと送ってよこしてくれました。私は、退職者挨拶はしたいと思っていましたが、さすがにプレゼンをやらせろとまでは一言も言っていません。すべて、後輩くんの忖度です。で、「どうせやりたかったんでしょ」と思われているかと思います。その通りでございます。一言、言い残していかないと腹の虫も治らないというところもあり、せっかくの機会なのでお話しさせていただければと思います。手短に、と思いましたが、スライドの量がハンパないので早速進めていきます。


これからのキャリア:教員になります

まず4月からについてですが、学校教員になります。認定NPO法人Teach for Japanが実施するフェローシッププログラムに、昨年の夏に応募をしました。これは、通常の教員採用試験と異なり、教員免許を持っていない人も含めて、団体が独自に採用を行った人材を、自治体とマッチングさせて「講師」という格で派遣するものです。私は、第7期のフェローの候補生として内定しており、派遣先は福岡県のとある市町村の予定です。福岡県による採用ではなく、とある市町村に期限付き採用される形をとります。福岡は、縁もゆかりもない土地です。年収も下がります。久々の一人暮らしです。知人もほぼいません。ですが、この団体が掲げる「教室から社会を変える」というビジョンに共感し、自分にとって挑戦になる環境に飛び込むことにしました。

「学校の先生になる」ということは、実は就職活動の段階から言っていました。その当時は10年以内に、と言っていたのですが、ちょっとその期間から早くなってしまいました。今回、挨拶回りをする中で、多くの方から「学校の先生にはもっと社会のことを知ってほしい。だから頑張ってほしい」という期待の言葉を多くいただきました。ただ実は、「学校の先生は社会を知らない」という言説に、私は違和感をずっと感じていました。教員の仕事は、高度な専門性の元に営まれており、ビジネス界はもっとそこから学べることがあるはずだ。そして先生方はとにかく頑張っている立派な社会人だ、と。ただ私自身が、大学時代にいっさいビジネスに関わらない過ごし方をしていたが故に、教室のほとんどの児童生徒が関わるであろうビジネスの世界がなんなのかを、自分の言葉で説明できるようにならないうちは、教員になることはできないと思っていました。ビジネスに無知なまま、教員になりたくなかったんです。


マクロミルで学んだ、ビジネスの本質

だから、マーケティングリサーチという事業を行うマクロミルに入社しました。人事になって、私は学生の皆さんに「マーケティングリサーチ」をこう説明しています。すなわち、「売れるしかけづくり」のために「問いを立てて調べる」ことが私たちの仕事である、と。企業が様々な製品やサービスを開発し世の中に広めていく上では、さまざまな「?」が生じます。そうした「?」に対してリサーチをすることで、「こんなことをすればいいんだ」「これで大丈夫なんだ」「ここに気をつければいいんだ」という「!」が生まれます。これによって世の中により良い製品やサービスが生み出されれば、消費者の生活が豊かになっていく。私たちはこのサイクルに関与しているし、これこそが私たちがなぜこの事業をするのかの価値である、ということを、この6年間全く疑ったことはありませんでした。

この会社で、マーケティングとは何か、ビジネスとは何か、が分かった気がしています。ここ半年、自分の仕事観を棚卸する中で、石巻の中学校一年生向けの職業講話の機会をいただいて、会社員として働くことについてこんな話をしてきました。それは、会社内にせよ企業間取引にせよ、「それぞれの『できない』を、それぞれの『できる』で、支えあっている」のがビジネスであるということ。そして私にとっての「働く」とは、「人のために」「動く」こと、つまり「誰かの役に立つ」ことであること。実際、この6年間の私の原動力であったのは、「俺、誰かの役に立っているな」「俺、社会に貢献しているな」という感覚でした。

人事の仕事の中でわかったことは、仲間を集め・仲間に迎え・能力を伸ばし・貢献に報いる、という人事の仕事のプロセスは、それぞれの役割において力を発揮し、みんなで成果を出せるチームをつくる上で必要な要素である、ということでした。会社は、成果を出すことを目的にしたチームである。その成果というのは、「誰かの役に立つ」ということである。それを考えるにつけ思い至ったのは、会社というのは「『わたし』とは違う『あなた』と、いっしょにうまいことやって、『だれか』に役立つことをする」場所である、ということです。中学生たちに僕は言いました。これって、クラスと同じでしょ、と。私の今後のキャリアにおいて、このことに気づけたのは、とても大きなことでした。


仕事で大切にしてきた価値観:「勇気と気づき」

改めて経歴を振り返ると、購買データ集計を1.5年、その後人材開発が3年、新卒採用が1年という本業歴でした。ミスター・サブタスクという異名を持つほどにさまざまなプロジェクトにも関与し、プレゼンイベント「わたしのしごと」や、社会貢献活動「Goodmill」の立ち上げは非常に思い出深いできごとでした。おそらくですが私自身、「文化づくり」に興味があったんだと思います。本当にいろんな経験をさせていただきましたが、そのさなかに、私はある言葉に出会います。一時期、この会社がタグラインとして用いていた文章のなかにあった動詞です。

Innovative data and insights that empower and inspire our clients.

私は、この動詞「empower」と「inspire」に出会ったとき、私がこの会社にいる理由はこれだ、と思い至りました。私なりに、この言葉を日本語に翻訳すると、それは「勇気と気づき」になります。

私たちがリサーチを通じて提供するデータや結果の解釈は、クライアントが不確実性のなかでもマーケティング施策を進めようとする、その一歩を踏み出すための「勇気」になり、あるいはその施策を進める上での注意点や新たな視点を与える「気づき」につながるものだ、と考えています。一方で人事の仕事というのは、社員一人ひとりが自身のキャリアを築く上でのさまざまな意志決定シーンにおいて、意志決定の一歩を踏み出す「勇気」を出してもらったり、あるいは今までに見えていなかった選択肢を提示することで「気づき」を得てもらったりするものでした。

我々は、日々さまざまな判断を迫られているマーケターたちの意志決定を支援することをビジネスドメインとしている会社です。誰かの意志決定を支えること、つまり「意志決定のパートナー」が我々の役割であるとすれば、その役割を務める人自身が、自分の意志決定を図れる人間であってほしい。だから私は、自分の仕事を通じて、関わるさまざまな人に対して、「その人に向き合う」ということをしてきました。


あなたはなぜ、ここを選ぶのか

ベネッセの小論文講座の編集長を務めた山田ズーニーという方の「考えるシート」という本が、私の人事観の核をなしています。すなわち、現状の自分がどんな人間で、過去にどんなことをしてきて、将来にどうなろうと思っていて、関わる社会がどうなっていて、だから目の前の一歩をどうしていくかが決められる、というモデルです。ここで大事なのは、今現時点で、過去・現在・社会・未来をどのように「捉えているか」、言い換えれば「どう意味づけられているか」ということです。その捉え方や意味づけ方は、変わっていくものです。それでも、今この時点で、自分の意志決定に自分で責任を持てるか、意味を自分で付与できるかが大事だと思うのです。

だらかこそ、この退職者プレゼンテーションの機会をいただいた中で、私はみなさんに問いかけたい。私は、この会社が大好きです。なにもネガはありません。ただ一つ、自分の次のステップを踏むために飛び出す決断をしました。多くの方が「卒業だね」と言ってくださいますが、まだまだやれることはあったはずで、その意味では「中退」です。そう思えるほどに、この会社に居れたことを誇りに思っています。私自身がそう思うが故に、たとえエゴが過ぎても、熱苦しくても、生意気であっても、今日ここにお集まりの皆さんを含めた、全ての社員の方に、私は問いかけたい。

あなたはなぜ、ここを選ぶのか。

私にとってのそれは、「勇気と気づき」に関与する、ということでした。そして、この会社を飛び出しても、私が求めていくことは「勇気と気づき」に代わりありません。これから、まずは2年間という教員生活のなかで、「勇気と気づき」が溢れる教室をつくることを、みなさんにお約束します。こうした教育観を形成することができたのも、マクロミルという会社で得た全ての機会と経験のおかげです。

決して長い時間とは言えなかった5年11ヶ月ですが、間違いなく濃い時間でした。これまでの間、本当にお世話になりました。ありがとうございました。

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