オンライン学習のよもやま:番外編「教員のためのコミュニティを創った件」

新型コロナウイルス感染症の勢いは止まるところを知らず、デルタだ、イータだ、イオタだ、カッパだ、ラムダだ、ミューだ、と、変異株にギリシア文字が付けられるごとに、卒業した慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の建物のことを思い浮かべる。特にデルタ株は若年者への感染力が高く、その猛威がこの夏、学期明けの学校現場に「感染予防」という名の下に、臨時休校だの午後休校だのといった形で押し寄せた。結果、かなり多くの先生方が、オンライン学習・オンライン授業へのチャレンジに追い込まれた格好になった。私の勤務先自治体は、その結果、午後の自宅オンライン学習に向けた「練習」として午前中にGoogle Meetの接続を行った学校が多くあり、そのせいでネット回線がパンクした。

そんな状況になることを予見していたわけではないが、端末配備が完了してしまったGIGAスクール構想施策と、実態としてなかなか進まないICTを活用した学校教育の推進とを目の当たりにして、私はあることを思い立った。

そうだ、Google Educators Groupを筑豊に立ち上げよう。

思いついたのが6月末ごろ。そして7月頭に開催された、市内各学校の情報教育担当者研修において、「この人をリーダーに据えたら良さそうだ」という教諭を見つけてリクルート。そして、のれんわけをしてくださった GEG Fukuoka City の協力を取り付けて、構想から1ヶ月程度のうちに、九州で3番目のGEGである GEG Chikuho が立ち上がってしまった。

今回は、この顛末について、以下つらつらと書いていこうと思う。 続きを読む

学年通信文学「環境は人に意志を抱かせ、その意志が未来を切り拓く」

学年通信を担当しています。

かれこれ3年目。もう2年目の後半くらいからは、私が好き勝手にいろいろと書いてきています。過去にはこんな記事も書きました。

期せずして最後になった学年通信に「担当者が書きたいことを書くコーナー」を載せた

学年通信への文筆 – 「お互いを分かり合い、信頼し合う方法 – #BlackLivesMatterから」

学年通信文学「修学旅行で泣いた私」

そして、2学期のスタートに寄せて、そんなに長文を書かなくてもいいのに、筆が乗ってしまったのでついつい長い文を書いてしまいました。国語の長文問題を解かざるを得ない生徒たち向けの、読解トレーニングの一種だと自分に言い訳をして、いつも長く書いてしまいます。今回はその全文を、皆さんに共有しようと思います。 続きを読む

オンライン学習のよもやま:⑩「生徒総会をDXする」

新型コロナウイルス感染症の収束がまだ兆しを見せない中、気がつけばもう令和3年度の1学期が終わってしまっていた。教育におけるICT活用も、一人一台端末の本格導入となった4月から4ヶ月が経ち、勤務校の生徒たちはだいぶ利用に慣れだしてきた。生徒たちは、慣れてきたので休み時間にGoogle検索で「パックマン」と検索し、Doodleでパックマンをして遊んでいるところを私に見つかり、冷ややかな目線とともに「それ、学習用PCの使い方としていいと思ってんの?」と、私に諌められているのであった。

Withコロナ状況下での学校運営も2年目となり、ただICTを使うだけでは珍しがられなくなってきているが、いまだに「Zoomを使って生徒総会を行いました」という、新聞記事や各学校のブログを目にする。そうとう当たり前度が増してきたリモートワークやクラウド活用も、学校現場ではまだまだメジャーではなく、「Zoomを使う」というだけで珍しがられる。しかし、「実際にどのように行ったのか」というHow to部分は、なかなか記事としては公開されていない。

久々にブログを書く気が起きてきたので、過去2年間のオンライン生徒総会の実施を踏まえて、生徒総会プロセスのデジタルトランスフォメーション=DXについて書いていこうと思う。ちなみにだが私が本稿で用いているDXとかデジタル化とかいう言葉は、ある種「なんちゃって」で使っているくらいのものでしかないし、デジタイゼーションとデジタライゼーションはどっちがどうのこうので、とかそういう詳細のことは脇に置いておいているので悪しからず。 続きを読む

[説明会終了] 総合学習「えらんだミチをかたる」 キャリアメンター募集

たった一つの正解なんてないこの世の中で生きる中で、
それでも前に進むために自分の納得した解を信じたい。

過去の自分が歩んだ道が、未知の未来へと続いていく。
自分のミチを信じるために、自分に言い聞かせてみる。

同じ学校に勤務し、学年持ち上がりで中学3年生の学年団に所属することになった今年度。2019年度のPepperプログラミング学習、2020年度の農業ビジネス体験学習に続き、今年度は「自己決定を言語化する進路選択学習」に挑戦します。その核となるのが、「人事と中学生の2on1プログラム」です。

現在、この企画にご参加いただく「キャリアメンター」を募集しています。その中心となるターゲットは、事業会社の人事後担当者さま、そして人材業界(人材紹介業や教育研修業など)に勤務されているみなさまです。現在または過去にこれらの経験をお持ちであれば大歓迎です。またこれに限らず、このプログラムに賛同いただける方はぜひお申し込みください。

以下の企画内容をよくお読みいただき、フォームから個別に遠藤までご連絡ください。説明会は終了しましたが、個別に本エントリー方法をご案内します。 続きを読む

#14歳の栞 を鑑賞して – 感想が溢れて流れ消えゆく前に

14歳の栞という作品を観てきた。

https://www.youtube.com/watch?v=xW0lmC13Jbo

まず思うのは、この作品を新学期前に観ることができて、よかったと思った。

ある中学校の、ある年度の「2年6組」35人の3学期に密着したドキュメンタリー。その密着は、学級内に留まらず、部活や球技大会、家庭や習い事、さらには休日や放課後のプライベートの時間まで。誰かを切り取ってフォーカスするでもなく、視点を教師や親といった誰かに寄せるでもなく、作品自体が、35人それぞれを、一人ひとり見つめている。

いてもたってもいられず、感想を書くためにPCを開けてしまった。これは、Twitterに残すよりも、ブログに「ログ」として残しておきたい。

※ヘッダ画像は、チラシを写メってインスタにアップした画像です。
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教員が「社会」に十分通用する4つのポイント – TFJフェローの修了論文として

Teach For Japanのフェローシッププログラムの2年間を終えた。

最低もう一年、2021年4月からを今いる福岡県飯塚市で、教員として過ごすことにした私にとって「終わり」という意識はこれっぽっちもない。けれど間違いなく、寄付者からの応援と、職員からのサポートと、同じフェローどうしの支えを受ける、という立場は終わりを迎えた。

日本全国から、教員免許の有無・社会人経験の有無に関わらず、教育への熱意を持つ人を集めて、地方自治体に常勤講師としてマッチングをするフェローシッププログラム。このプログラムの一つの意義は、2年間という限られた期間の中で、教育現場でもがきつつもチャレンジをする、その姿自体と、そこから見えてきたことを、世の中に発信することを通じて、教育という social agenda に光を当てることにあると思う。一人のフェローが起こせるソーシャルインパクトは小さくても、そのストーリーが誰かにとっての力となり、違った形でインパクトを生む、ということを信じるほかない。

3月27日にプログラム修了式を迎え、修了生としてプレゼンテーションをした。タイトルは「僕はこの仕事に向かない」にした。この話を職場の同僚に話したら、自虐がすぎると言われたが、私にとっては自虐というよりも自戒に近い。それほどに、私の2年間は「人としての足らずを知る」期間であり、自慢したいキラキラする実践にもチャレンジできたが、それ以上に教員という仕事の「しんどさ」と「とうとさ」を痛感するとともに、奇を衒ったものではない「ふつう」の実践を遂行するプロ性にこそ、他の職業に比しても誇れるスキルやコンピテンシーが詰まっていると感じた。

大学と院で外国語教育学を学び、教員免許も英語と社会を取得し、それでも民間企業に出てマーケティングと人事を務め、かたわらで教育系NPOの活動に従事し、なるべくしてなった教員という仕事。準備を重ねてもなお「太刀打ちできない」と感じるほどに、誇ってしかるべきこの仕事は、その実、学校外からは「やりがい」という情緒的側面で認識されるにとどまる気がしている。そして、いやむしろ、その情緒的側面での捉え方をしているのは、かくいう教員自身であり、いわゆるビジネス界との共通言語を持たないが故に、ある種不当に「社会に通用しない」と思い込まされているところがあると思う。

文科省が展開している #教師のバトン というプロジェクトが、スタート当初に阿鼻叫喚の様相を呈したように私の目には映ってしまった。思ったことは二つで、一つは、多くの教員が「そんなことよりこの大変さをなんとかしてくれ」という叫びを上げているんだなということ。もう一つは、しかしその叫びが自らの仕事に対する印象、あるいは魅力や価値そのものを下げるに至っているんじゃないか、ということだった。文科省もお気楽と性善説でこうしたプロジェクトをやればどうにかなるだなんて思っているとは考えられない。現場の状況をわかってもなお、スパゲッティ・イシューと化した学校教育の諸問題に対する、チャレンジの一つだろう。

私にできること。それは自らのミッションである「学校と社会をなめらかに」するために、いまや学校サイドにいる人間として、「社会」と呼ばれる側の共通言語を用いて、教員の魅力を語ることにある。勝手ながらにそう思っている。今回は4つのポイントでそれを語っていく。

  • 授業設計と事業企画のプロセスは似ている
  • 教員はピープルマネジメントのプロである
  • 教員の仕事は企画職としての機会だらけだ
  • 学校はマーケットと流行の縮図とも言える

まるで修了論文みたいなもんだと思って、いつもの長文はご容赦願いたい。まとめるのは無理だ。それほどまでに想いと誇りがある仕事であり、たとえ「僕はこの仕事に向かない」としても、「それでも果たすべき責任がある」といって、この仕事にとどまることを決意した、その覚悟が故の文字数である。 続きを読む

オンライン学習のよもやま:⑨「校務改善ツール:フォルダ階層メーカー」

新型コロナウイルス感染症対策の観点から一気に広がったオンライン学習。教育におけるICT化はものすごく速い勢いで進んでいる、と言えればいいのだが、正直なことを言えば、「文房具としてのICT」以前の問題として「教具としてのICT」や「業務ツールとしてのICT」も、その浸透が不十分とは言えない教育現場。比較的PCの操作が得意である私は、よく「先生、このエクセルなんですけど」という声を同僚にかけられることが多い。

そんななか、業務上「不便だなぁ」と感じるもののなかで、繰り返し処理や自動処理ができるものを見かけると、私はどうしても、前職時代に培った、ExcelベースのVBAツールの開発をしたくなる衝動にかられる。そして今日、年に1回しか発生しない業務ながら、やろうとするとすごく時間がかかる作業を行うための、汎用ツールを開発したので、使い方・開発の意図・裏の処理・ソースコードも含めて記事化しておこうと思う。

フォルダ階層メーカー_v1.xlsm
※リンク先の画面で「ダウンロード」マークを押して、DLして使って下さい。

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オンライン学習のよもやま:⑧「GASとFormsで出来ないこと」

コロナ禍における学習保証の話と、GIGAスクール構想の話とが相まって、オンライン学習がいろいろ騒がれていたが、そのそもそものきっかけであった「3月休校」から気づけば1年が経ってしまった。文科省の動画配信「学校の情報環境整備に関する説明会」で、担当課長が強い語気でこのスライドを出した件からも10ヶ月。もうすぐ、GIGAスクール構想の予算措置の期限である年度末を迎える。

Youtube動画からキャプチャしました

前回の記事から半年以上経過し、勤務する自治体はChromebook + Google Workspace for Educationの採用が決まり、デバイスの配備とアカウントの発行も終わった。本格利用は新年度からだが、担当する学年の生徒には先んじて3月中にアカウントを利用させたいと思っているし、なんなら担当している生徒会執行部役員の文書作成作業はすでにGoogle WorkspaceとGoogle Classroomに移行した。もっとも、一人1アカウント環境がない中でも、私は授業でそれなりに活用してきた。

授業での用途としては、Slidesを利用した協働学習が挙げられるが、それ以上に利用頻度が高いのがGoogle Formsで、選択式の単元チェックテストのみならず、記述式の英単語テストも行っている。新年度からは授業の帯活動の単語テストをForms運用に切り替えようと思っている。その準備のために単語テストを40種類作成するのだが、それが面倒だなと思っていた折に、ICT支援員さんが「GASを書くと簡単になるらしい」と私にささやき、そこから1ヶ月ほど、GASを書くことにハマっている。

今回は、Google Apps Scriptを使ってGoogle Formsを動かしてみた試行錯誤のなかで判明した、GAS+Formsの組み合わせで「出来ないこと」を記録しておこうと思う。とても長くなったので、結論から急ぎたい方は、目次を開いて当該箇所をご覧いただきたい。 続きを読む

コロナ禍の「農業ビジネス体験学習」のつくりかた【②活発な地域人材との連携術】

2019年、公立中学校の講師として入職した1年目にチャレンジしたのは、Pepperを使ったロボットプログラミングを通じた課題解決学習だった。年度が明け学年が持ち上がり、職場体験学習を通じたキャリア教育を行う予定だった2020年、新型コロナウイルスの影響で中止となった職場体験の代替案として持ち上がったのが「農業体験」だった。

このシリーズ「コロナ禍の「農業ビジネス体験学習」のつくりかた」では、農作物の栽培体験と、顧客を起点にしたマーケティングプランづくりの、ハイブリッドによる体験学習を設計・実施した顛末を、5つのテーマに切り取ってお届けする。第2回の今回は、「活発な地域人材との連携術」をテーマに、今回の学習において多大な貢献をいただいた地域人材「里山の会」(仮称)のみなさんとの連携において、どのようなことが起きたかを記述し、そこから地域人材とのコミュニケーションのあり方について考えたいと思う。

┼─シリーズ記事・タイトル─┼
①総合学習のアジャイル開発
②活発な地域人材との連携術
│③ビジネスを学校に持ち込む│
│④発想をシンカする関わり方│
│⑤地域とキャリアのはざまで│
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コロナ禍の「農業ビジネス体験学習」のつくりかた【①総合学習のアジャイル開発】

2019年、公立中学校の講師として入職した1年目にチャレンジしたのは、Pepperを使ったロボットプログラミングを通じた課題解決学習だった。年度が明け学年が持ち上がり、職場体験学習を通じたキャリア教育を行う予定だった2020年、新型コロナウイルスの影響で中止となった職場体験の代替案として持ち上がったのが「農業体験」だった。

このシリーズ「コロナ禍の「農業ビジネス体験学習」のつくりかた」では、農作物の栽培体験と、顧客を起点にしたマーケティングプランづくりの、ハイブリッドによる体験学習を設計・実施した顛末を、5つのテーマに切り取ってお届けする。第1回の今回は、「総合学習のアジャイル開発」をテーマに、本来のカリキュラムデザインの王道ともいえる手順をまったく踏まないままに進んできた学習の全体像を、時系列で説明しながら、同時に「学習活動をアジャイルに開発する」ということについて触れていく。

┼─シリーズ記事・タイトル─┼
①総合学習のアジャイル開発
②活発な地域人材との連携術
│③ビジネスを学校に持ち込む│
│④発想をシンカする関わり方│
│⑤地域とキャリアのはざまで│
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